デシル分析に基づいて優良顧客に効率的な施策を実施

(株)オギノ

山梨県を中心に衣料品、服飾品、住宅関連品、食料品を扱う総合スーパーマーケットチェーンの(株)オギノ。現在、同社のポイントカードの発行枚数は40万枚強。同県の人口は約89万人、世帯数は約31万世帯なので、ポイントカードは県内の世帯数を上回り、「一家に1枚」以上普及している。そのカードから得られる顧客情報をもとに、優良顧客の育成を図っている。

山梨県の家庭の約9割をカバーするオギノのポイントカード

 山梨県を中心に衣料品、服飾品、住宅関連品、食料品を扱う総合スーパーマーケットチェーンとして、現在36店舗を運営する(株)オギノ。同社は、売上規模・店舗数ともに県下ナンバーワンの実績を誇り、県下一円にドミナント(地域集中店舗網)出店している。全店舗合計の年間来店客数は延べ2,900万人、2004年度の売上高は730億円に上り、県内大型店(14企業114店舗)に占めるシェアは25.7%に達している。また同社は、妊婦や赤ちゃんのお母さんを対象とした「赤ちゃんサークル」を会員化して、特別なサービスを提供することでお客様との絆を強化している。
 同社が売上規模・店舗数ともに県下ナンバーワンの実績を誇るまで成長してきた背景には、FSP(フリークエント・ショッパーズ・プログラム)を推進してきたことがある。FSPとは、会員カードを発行して買い物ポイントを付けて、その際に購入商品のデータを蓄積し、データをもとにさまざまなアクションプランを考えて実行するというものだ。
 FSP導入のきっかけは、県内でドミナントを形成しつつあった1996年、イトーヨーカ堂をはじめ、ダイエー、サティなどの大手スーパーの進出で、生き残りをかけた対抗策の必要性に迫られてきたことにある。そんな状況の中で、同社代表取締役社長の荻野寛二氏が、米国で開催されたHMR(ホーム・ミール・リプレイスメント)セミナーに参加した時に、バージニア州リッチモンドにある急成長地域スーパー「ユークロップス」が、カード会員情報をもとにDM作戦を行っていることに着目。帰国後、FSP導入プロジェクトを立ち上げ、米国シティ・コープなどのノウハウを学びながら、日本に合わせた同社独自の顧客情報を分析するシステムを構築し、1999年に本格活用を開始した。これに先駆け、1996年11月からオギノグリーンスタンプカードの発行をスタート。スタンプカードの発行開始自体は競合店に遅れをとっていたため、付加価値を付けるために、1997年~1999年まではエリア顧客やターゲット顧客に対してDMを試験的に送付していたという。
 現在、同社が発行しているオギノグリーンスタンプカードの発行枚数は40万1,285枚(2005年2月末現在)、山梨県の人口は約89万人で世帯数は約31万世帯(2000年調査)。県内の世帯数を上回り、「一家に1枚」以上普及している計算になる。各家庭で複数枚保有しているケースも多いので、実際のカバー率は約9割だという。全国平均約6割に対して、驚異的な数値を誇っていると言えるだろう。さらに、お客様の9割がカードを使用して買い物をし、実にポイントカード会員で売り上げの95%を占めている。
 また同社では、ポイントカードの利便性を高めるために、カードを全36店舗で共通に使えるようにし、さらに地域の小売・サービス業でも使える「エリアカード」として、地元ガソリンスタンド、レストラン、ドラッグストア、ビデオレンタル店、美容室などと提携。現在では、112社・209店舗でポイントサービスが受けられるようになっている。

デシルランクが下がったお客様にポイント付与率の高いDMを送付

 同社では、ポイントカード会員をデシル分析で10段階に分類している。例えば、デシル1は購買金額が全体の上位10%、いわば一番のお得意様層。逆にデシル10は、特売商品を買い回る、“チェリーピッカー”と呼ばれるお客樣だ。現在、購買金額上位40%のお客様で売り上げの81%を占めているので、こうしたお客様を増やしていくことが重要な課題になっている。具体的には、上得意客にはポイント還元率の高いDMを送付、つまり高いインセンティブを付与して、離反を食い止めている。また、デシルランクが下がったお客様にも再来店を促すべくポイント付与率の高いDMを送り、なぜ来店しなくなったのかの理由をアンケートやヒアリングで探っている。こうした努力の結果、「レジ担当者の接客が悪い」とか「コロッケが冷たかった」といった不満や、「何となく足が遠のいた」といった方が多いことがわかった。このようにアンケートを通して、お客様の離反理由に迫り、その不満を改善することで優良顧客の維持に役立てている。
 また同社では、店舗ごとに半年に1回のペースで約20名のお客様を招いて、「上得意様モニター会」を開催。同社執行役員社長室統括マネジャーの飯野弘俊氏によると、あるお客様から「あの商品があるからいつも買い物に来ていたのに、なくなってしまった」という苦情を受けたという。そうした商品は、同社の取扱品目全体から見るとなかなか売れない高級な商品がほとんど。「カテゴリー・マネジメントの観点から、スペース効率だけで計算すると外れてくる商品なので、バイヤーがカットしてしまっていたのですが、そうした商品の中に優良顧客が購入していたものがあるということがわかったのです。MDに関しても個客起点に移行しなければいけないということで、カスタマー・カテゴリー・マネジメントという概念を取り入れております」(飯野氏)
 例えば、ピクルスを店頭から撤去した時に、お客様から苦情をいただき、そのお客様の購買データを調べたところ、月に15万円も買い物をしている優良顧客だった。そこで、死に筋は撤去するという小売業の常道を覆し、ピクルスを復活させた。それ以来、上得意客の買う珍しいピクルスの大瓶のほか、1瓶1,200円もする高級インスタントコーヒー、英国王室御用達の最高級カレーペーストなど、月に1個しか売れないような、いわゆる「死に筋」商品も品揃えしている。まさに、“優良顧客のかゆいところに手が届くサービス”を心掛けているというわけだ。

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ポイントカード会員とのコミュニケーションの一環として発行している「オギノグリーンスタンプ通信」。さまざまなサービス情報を掲載し、販促につなげている(写真左)
「一家に1枚」はあると言われているオギノのポイントカード。顧客情報を分析し、効率的なサービス提供に活用している(写真右)

酒造メーカーとタイアップし新製品の売り上げを5倍に伸ばす

 そのほか、同社では、商品ではなく、顧客のライフスタイルや嗜好に基づく購買分析とアクションプランを実践している。例えば、2003年9月から約1カ月間、酒造メーカーとタイアップして、パック入り新製品のプロモーションを実施した。清酒と焼酎のヘビーユーザー1万人に向け、一定期間中何度でもポイントアップするというDMを送付。焼酎ユーザーも対象にしたのは、データ分析の結果から、ビールなどほかのアルコール・ユーザーと比較して、焼酎ユーザーは清酒や発泡酒も購入する傾向があることがわかっていたからだ。DM送付後、その新製品の売り上げは5倍に伸び、清酒トップの売上高をマークした。
 こうした特定商品のヘビーユーザーに送付した場合のDMヒット率は80%に達するという。一方で、ターゲットを絞り込まず全会員に送付した場合のDMヒット率は平均25%と低く、ターゲタブルなDMのほうが費用対効果が高いことは明らかだ。
 また2005年8月から、従来のデシル分析を進化させた「デシルDr」 という分析プログラムを導入した。 これは、商品から顧客を抽出する方法や顧客から商品を抽出する方法の両サイドからアプローチできる仕組みだ。同社ではこれを活用して、優良顧客や特定のヘビーユーザーへのサービスをさらに強化していく意向だ。


月刊『アイ・エム・プレス』2005年10月号の記事