東京・新宿を拠点に3店舗を展開する中堅百貨店の(株)小田急百貨店。同百貨店では、2004年5月より「木曜、5時」をキーワードに、主にOL層をターゲットにケータイを使った会員組織化を推進している。同社の「おだもく 5 GO!」の位置付けと来店促進の取り組みについて取材した。
百貨店の林立する新宿においてOL層の取り込みに注力
東京・新宿を拠点に、小田急線沿線に町田、藤沢と3店舗を展開する(株)小田急百貨店。新宿エリアには伊勢丹、京王百貨店、高島屋と競合店がひしめき、それぞれが「ファッションに強い伊勢丹」、「高齢者に優しい京王」など特長を打ち出す中、同社でも以前から独自のポジション構築を模索していた。生活者を招いてフリーディスカッションを重ねていく中で、マーケティング部門は、JR線と小田急線など3社の私鉄が交わるターミナルである新宿駅構内という“地の利”だけではなく、世代を切ってそれぞれに向けてブランディングを強化することで、「顔がみえる」百貨店となる必要性を痛感していたと言う。中でも、同店の来店客を世代別に見た場合にもっとも来店割合の低い20代の集客を最重要課題と位置付けていた。
2004年3月の大幅な組織変更の直後から、販売促進部は、競合他社との差異化を図るいくつかのブロジェクトのひとつである「OLプロジェクト」に本格的に着手した。同部署のスタッフは約40名。販売促進、ネットビジネス、催事企画・運営、宣伝・装飾の各担当が連携し、プロジェクト準備を着々と進めてきた。
「毎週木曜午後5時以降」という限定したサービスでターゲット層を明確化
「おだもく 5 GO!」の目的は、ケータイによる会員の組織化それ自体ではなく、あくまでOL層の来店促進にある。来店機会を増やし、小田急ファンとして根付かせるという発想からスタートしているため、会員の数だけでなく会員の質をどうやって上げるかを課題にしている。
2004年5月26日、20~30代女性をターゲットにしたケータイ会員組織「おだもく 5 GO!」を立ち上げた。名称は、木曜日の午後5時以降に会員だけの簡易サービスを用意していることに由来。売り上げ分析により、木曜・金曜の来店が多く、週の中日に集客UPを図りたいため、木曜日に設定した。「仕事帰りにちょっと楽しめる何かがある」という刷り込みを行い、来店促進を狙っている。会員特典として、食品階での週替わりのスイーツ割引や、指定のレストランでの1ドリンクサービス、美術展などの有料催しの無料招待などがある。アクセントとしての「ちょっとお得」感を演出しているわけだ。会員は、店頭でサービス利用時に、印籠のようにケータイの「おだもく会員専用画面」マークを店員に見せるだけでよい。会員には、毎週木曜当日の午前10時または午後3時に、週替わりの店内情報をケータイメールにて発信している。
入会金、年会費は無料。会員登録に必要な情報は、ケータイメールアドレス、年代、性別、居住地域、勤務地(新宿、それ以外)、 ネーム(ニックネームも可)、誕生月、ケータイキャリアのみ。正確な属性情報はあえて保持していない。これは、ターゲット層への認知アップと来店促進が最重要課題であったため、正確な属性情報を要求することで会員登録のハードルを上げて入会率を下げるよりも、ケータイによる入会の「気軽さ」を優先したのだと言う。
2005年2月時点での会員プロフィールは、年代が「21~25歳」17.5%、「26~30歳」29.8%、「31~35歳」24.5%、「36~40歳」13.5%。居住地は、「東京都」35.4%、「神奈川県」7.8%、「その他」53.2%。勤務地が、「新宿」31.6%、「その他」68.4%。ケータイキャリアの割合は、「iモード」62.0%、「EZweb」14.8%、「Vodafone live!」20.6%となっている。開始から8カ月を経た現在の会員数は約2,500人。順調に推移していると言う。
キャンペーンに合わせて会員募集と会員限定のサービスを地道に展開
2004年5月の「おだもく 5 GO!」立ち上げ時には、マストバイキャンペーンの「会員獲得キャンペーン」を展開。3,000円以上購入いただいた方に店頭で直接キャンぺーンチラシをわたして、レジの待ち時間にケータイへ誘導し、自動的に会員登録ができるようにした。
その後は、30代を中心ターゲットに定期的に配布する「スタイルアップカタログ」に「おだもく 5 GO!」の紹介チラシを同封したり、エリア情報誌「シティリビング」や新聞の折り込みチラシにより、認知度向上に努める一方、百貨店顧客へのイベントと相乗りして「おだもく 5 GO!」を告知、新規入会を促進している。
イベントは、「おだもく 5 GO!」会員へ特典を用意して来店促進を図る機会であると同時に、新規会員獲得の好機ともなる。
2004年9月の「コスメティック・カーニバル」では、「おだもく」会員の特典として、同イベント限定コスメの先行予約を受けたほか、下着メーカーのトリンプとタイアップしたスタンプラリーを展開。①トリンプ商品購入者を含む百貨店顧客8,000名への案内DM、②「シティリビング」、③「スタイルアップカタログ」3万部の送付により告知を行った。この結果、58名が「おだもく」会員に登録した。また、2004年11月には、きものメーカーの市田とタイアップして「きものINYUZU無料試着体験」を実施。既存・新規会員合わせて約130名の申し込みがあったという。
同社Webサイト内でも「おだもく5GO!」を告知している
ケータイの強みと弱みを自覚しながら会員を立体的に把握することが課題
同社で、イベントごとに既存の媒体を使って告知を行っている理由として、コミュニケーション・ツールとしてのケータイには、簡易性や即時性、エリア性がある反面、顧客の固定化を考えたとき、単体では決して太いパイプにはなり得ないという認識がある。今のところ、ケータイを来店促進ツールとして過大視してはいない。「当初はケータイを利用した会員組織化のプロジェクト自体に予算もなかったので、とにかく『おだもく 5 GO!』を知っていただき、店頭に来て楽しんでいただこうと考えました。百貨店専門の雑誌『WWD』のミシュランでも好評価を得たように、実際にキャンペーンを数多く行っています」(豊嶋氏)
一方、同社では、グループのポイントカード「OPカード」を発行している。この「OPカード」では、「おだもく5 GO!」に比べてより詳細な会員情報を収集している。現在のシステムでは、これら双方に共通する会員を特定することはできないが、今後は、定例サービスや、近々実施予定のイベントをからめて、「おだもく」会員の「OPカード」保有の有無を確認すると同時に、未保有者には双方への入会を働きかけることにより、お客様の“顔”が立体的に見える体制を整備していきたいとしている。