マーケティング・ツールとして明確に打ち出し顧客との関係作りの中核と位置付ける

グラクソ・スミスクライン(株)

グラクソ・スミスクライン・グループは、世界の医療用医薬品市場において、5大疾病領域のうち4分野でマーケットリーダーである。同グループの日本法人であるグラクソ・スミスクライン(株)のコールセンターは、“Proactive Call Center”という理念を掲げ、同社のさまざまな企業活動に積極活用されている。

情報提供窓口から戦略的位置付けとしてのカスタマー・ケア・センターへ

 製薬メーカーは患者をはじめ一般生活者に対して、医療用医薬品の広告・宣伝を行うことが禁止されている。そのため、ほかの業界のようにコールセンターを営業やマーケティングの観点から活用するケースはほとんど見られず、その機能は、医師や薬剤師などの医療従事者からの問い合わせ対応や、自社のMR(医薬情報担当者)のサポートなどにとどまっている。
 従って、コールセンターの管轄部署も学術部あるいは学術情報部などと呼ばれる学術専門知識を統括する部署が担っており、「学術情報の提供」「医薬品の適正使用の普及」という学術業務の一環として位置付けられているのが実情だった。
 こうした伝統的な位置付けの情報提供窓口を一新し、コールセンターをマーケティング業務の一環として、顧客との新たな関係作りの中核と位置付けている製薬メーカーがある。それが、グラクソ・スミスクライン(株)だ。
 2001年に、“Proactive Call Center”という理念を掲げ、同社のコールセンター「カスタマー・ケア・センター」は設立された。
 カスタマー・ケア・センターの熊澤伸宏氏は、「当社は、コールセンターの機能を営業・マーケティングを始めとするあらゆる企業活動に積極活用し、医療用医薬品企業における新しい顧客との関係作りを目指しています」と話す。熊澤氏の名刺には「マーケティング本部カスタマー・リレーション部カスタマー・ケア・センター」と明記されているが、コールセンターがマーケティング・ツールとして明確に打ち出されているのは、製薬業界では同社以外には稀なことである。

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カスタマー・ケア・センターは本社内に置かれている

インタラクティブなコミュニケーション・スキルの質向上を図る

 グラクソ・スミスクラインにおいては、カスタマー・ケア・センターのスタッフ採用も他社とは違う観点から行っている。通常、製薬会社の情報提供窓口に従事するスタッフは、“学術担当者”として、薬剤や疾患に関する専門知識が最も重要視される。応募してくる人たち自身も、「学術業務ができる」「学術業務がしたい」という期待や希望を持っていることが多い。
 「当社のカスタマー・ケア・センターは学術部門ではなく、カスタマー・サービス部門なんです。確かに他社と同様に、お客様に提供する情報は学術情報や医学的な情報ですが、私たちはそういった学術知識や医学的な情報そのものではなく、あくまでもお客様にフォーカスして質の高いサービスを提供し満足していただくことを目的としています。スタッフの採用の際は、応募者にそのことをきちんと理解していただいた上で、顧客とのコミュニケーション能力を最も重要視して採用に望んでいます」と熊澤氏は説明する。そして、同社では、インタラクティブなコミュニケーション・スキルの向上に力を入れている。

世界最大級の製薬会社として最上級のコミュニケーションで応対

 顧客窓口となるコールセンターが、顧客が抱く企業イメージとは違う対応をしては、企業のブランド価値を下げることにつながってしまう。企業としても、こうしたことは避けなければならない。
 グラクソ・スミスクラインでは、お客様が自社をどのように見ているかということを念頭に置いて、レップ (コミュニケータ)の教育を行っている。同社では、「お客様が“世界最大級”の製薬会社のコールセンターである以上、そこで提供されるサービスはほかの会社より優れた最高のサービスに違いないと期待して、コンタクトしてくるはずだ」と分析。現場のスタッフにそうした期待に則した対応のあり方を伝えるため、具体的な落とし込みを行っている。
 例えば、「最上級の応対を行う」とはどういうことか。それは、一流のホテル・レストランで行われている誰もが最上級と感じるサービスを提供しましょうと伝えることから始まる。さらに、「どうすれば一流のホテル・レストランのようなサービスと感じていただけるのか」ということを、「洗練されている」「プロフェッショナル」「スマートな」などのキーワードに置き換えている。そして、これらのキーワードをイメージさせるには、「落ち着いた声」「クリアな発声」「少し小さめの声」「少し低めの声」などのトーンでコミュニケーションを取ることが大切であることを指導する。
 同社では、こうした一連の考え方を「GSK style」と呼んでいる。熊澤氏は、「レップにはGSK styleでコミュニケーションを取るように話し、当然のことながら、彼らはそれがどういうことかを理解して、日々のオペレーション業務に携わっています」と語る。
 ここまで詳細に決め事を作るのは、カスタマー・ケア・センターがブランドの価値を高める役割を担っていればこそのことだろう。

疾病啓発から被験者の募集まで、あらゆる活動で重要な役割を担う

 同社のマーケティング活動におけるカスタマー・ケア・センターの積極的な活用の一例が「うつ病啓発のキャンペーン」である。現在日本の自殺者は年間3万人(2003年警察庁統計資料:3万4,427人、交通事故死亡者数:7,702人)を超えており、その背景にはうつ病が潜んでいると言われている。同社が実施した調査によると、日本の成人人口の6.7%がうつ病に悩まされていると報告されている。同社では2002年より患者やその家族を含む一般の方々のうつ病に関する理解の向上と、社会におけるうつ病への偏見の軽減を目的として啓発活動に積極的に取り組んでいる。テレビCMや新聞を活用した広告活動や「うつのハンドブック」の提供、同社のインターネット上で提供しているうつ病に関する疾患情報サイト(utsu.jp)など多岐にわたる。
 それらの顧客窓口を担っているのがカスタマー・ケア・センターである。製薬会社にとっての最終顧客である患者やその家族からの問い合わせに会社を代表して対応しているのだ。そこには患者とのインタラクティブなコミュニケーションが求められる。同社の企業使命である「生きる喜びを、もっと」をその方々に提供できるようにと、レップの意識は高い。
 カスタマー・ケア・センターはこのような活動においても企業ブランド向上の一翼を担っているのだ。

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カスタマー・ケア・センターが積極的に活動しているのが、うつ病の疾患啓発活動キャンペーン。うつ病の症状などに関することがわかりやすく書かれたハンドブックを配布している


月刊『アイ・エム・プレス』2004年11月号の記事