“生涯設計”をコンセプトとし、顧客一人ひとりのライフサイクルに応じて、その一生涯にわたって、最適な商品・サービス・コンサルティングを提供することを目指す第一生命。顧客満足向上のためには職員の満足度向上が不可欠であるとし、CSとESを表裏一体とした経営の仕組み作りを推進している。2001年に(財)社会経済生産性本部の「日本経営品質賞」(Japan Quality Award)を受賞した同社は、顧客の“一生涯のパートナー”として、さらなるサービス促進に努めている。
経営品質向上への取り組みは全職員が10年先を見据えた声をもとに
第一生命保険相互会社の経営品質向上への取り組みは、実に1992年から始まっている。創立90周年を機に、「ご契約者第一主義」という経営理念を体系的にとらえるため、「ルート夢90」というキャッチフレーズを掲げ、「10年後、自分やこの会社がどうなるか、どうしていきたいか」と経営トップが全職員に問いかけた。ここから得られた職員の声をもとに、新たなメッセージ“一生涯のパートナー”を打ち出すと同時に、3つの経営方針を「社会からの信頼確保」「最大のお客さま満足の創造」「職員・会社の活性化」とした。
こうした流れは、当時の経済界の流れとも一致していた。1980年代のレーガノミックス以降、米国では、顧客本位に基づいて経営要素(リーダーシップ、人材開発、意思決定のプロセス、環境保全、価値創造のプロセス、財務成果など)を重視する傾向が強まった。そしてそれらの項目をチェックする経営アセスメントの仕組みとその評価・表彰制度であるマルコム・ボルドリッチ賞(MB賞・国家経営品質賞)が生みだされた。日本でもMB賞を参考に、1994年、日本企業の経営品質向上を目指した組織「CSフォーラム21」が発足。この設立メンバーに櫻井社長 (当時)がかかわっていたことや、1995年に通商産業省(当時)の定める「消費者志向優良企業表彰」を受賞したことなどもあり、同社では早い時期から社内での経営の具体的な仕組み作りを模索していた。「あくまでお客さま本位の考えをベースにおき、その上で本当に経営に必要な要素をチェックしていくことで経営の質を高める」(長岡氏)。経営品質向上に取り組む背景には、このような経緯があったのだ。
指針を明確化・評価基準を制定し「最大のお客さま満足の創造」を追求
同社はまず、1996年に経営企画を担当する「企画第一部」内に「品質向上委員会」を設置。1999年には「品質向上委員会事務局」として独立させ、経営品質の向上に注力してきた。
同年、日本経営品質賞に初めて応募した際には、受賞がかなわなかったが、日本品質保証機構(JQA選定機関)から受けたさまざまなアドバイスは、具体的な取り組みや仕組みの構築・整備を再検討し、さらなる推進のきっかけとなったと言う。また、95年以降、米国のMB賞を受賞した企業の成功事例を発表するクエスト会議に出席し、刺激を受けてきたことも大きい。
同社にとって創立100周年に当たる「2002年までに日本経営品質賞を受賞する」ことを目標とし、「お客さま対応指針」「お客さま対応サイクルタイム基準」など、“お客さま本位の考え方”に基づく顧客対応の評価指針を制定し、社内で明確化した。あわせて、「保健文化賞」や「緑のデザイン賞」、またアジア向け保険の普及に取り組んでいる「国際保険振興会」など、創立以来積極的に取り組んでいるさまざまな社会貢献活動や財団活動について、「社会性・公共性の強い生命保険事業を通じて、『良き企業市民』として発展を目指す」ための活動の一環として再定義している。
また、「徹底したお客さま本位」の考え方に基づき、顧客からの声を吸い上げ、既存業務の見直しや新規投資分野の選別といった全社業務の改善に反映させていく仕組みを構築・整備してきた。
同社には、全国各地の支社・支部、約4万人の営業職員、東京・大阪・名古屋3拠点のサービスセンター、インターネットなど、さまざまな顧客との接点がある。これらに日々全国から寄せられる意見・要望、苦情や提言、さらには感謝の声まで多岐にわたる顧客の声をデータベース(DB)化して一元化し、それを経営に反映させる「エコーシステム」を構築・運営している。
毎月、支社ごとに、これら顧客の声をもとに、事務のみならず、営業上の課題や必要な対応などを細かな項目に渡って確認・分析。ここで抽出・検証された課題を本社サービス推進連絡会に集め、懸案事項に優先順位を付けて、さらなる課題の抽出・整理・検討を行っている。そして個別テーマごとに具体的な改善策を検討しているのだ。その後、各担当所管に具体的な改善策を提言、さらに本社サービス推進連絡会で実行内容をチェック・フォローし、最終的には取締役会へレビューするなど、PDCAサイクルを確立している。
職員のアイデアが構造革新の種に
同社では、顧客満足(CS)と同様に、職員満足(ES)にも注力してきた。経営トップと職員のコミュニケーションを促進するため、1992年から「役員・部長と語る」という取り組みを開始。経営陣が全国の支社に直接赴き、現場の職員と対面して1年間の経営方針や決算概要を直接伝える機会であるとともに、各職員が要望・提言を経営陣に直接伝える接点となっている。また、イントラネット上に、「ネットワーク社長室」を開設。毎月、社長自身の言葉で営業方針などを伝える一方、職員から直接質問や提言を受け付けるなど双方向のコミュニケーション手段として活用されている。
2002年からは、実際に現場で顧客と触れ合っている職員のアイデアを積極的に業務改革に反映させるとともに、生産性・コスト構造の向上を目的に「構造革新提案コンテスト」を実施。具体的なここから挙がってくる職員からの提案を事務局で分析し、DBに収録された顧客の声と照らし合わせて業務改革に役立てている。
さらに2003年には、2001年からスタートした職員満足度調査の対象を全職員に拡大。ここで得られた結果は、年に2回の経営管理職の研修会「社長塾」でフィードバックし、部門ごとに課題の発見、必要な対応策の実施、そして結果報告までを行っている。「この調査は『満足度何%』と数値を問題にするのではなく、各支社・支部を、職員にとってやりがいのある職場にしていくための課題と必要な仕組みを探る材料としているのです」(長岡氏)。
一方で、顧客満足(CS)に関しては、1998年より、約900万人の顧客のうち支社ごとにサンプリング抽出した計5万人の契約者に対して「全国支社別お客さま調査」を実施している。毎年1万サンプル以上と20%を超える回答率を挙げており、個社が行うこの種の調査としては最大規模を誇っている。
この調査は担当の営業職員、窓口や電話対応などサービス業務への評価であるとともに、企業としての信頼度を図るものでもある。質問項目は約100問以上と多岐にわたるが、回答はすべて本社・支社・営業職員など業務カテゴリーごとに分けられ、詳細に分析される。それらのカテゴリーごとの満足度がどう「第一生命に対する総合満足度」に結びつくのかを把握した上で、課題と改善策を抽出している。これらの結果を経営計画に具体的に落とし込み、商品やサービスの開発に反映させているのだ。さらに毎年9月と10月をお客さま応対力の強化月間とし、全社的に職員のレベルアップおよびモチベーションアップに取り組んでいる。
2004年7月、新たに就任した斉藤社長は、「人」こそが「活力と魅力のある第一生命」の源であるという姿勢を大切にしており、生命保険事業の果たす役割とその重要性を職員に一層理解してもらう必要があると力説する。今後の社会保障制度のスリム化が予想される中、将来の不安を安心に変える手段としては、相互扶助の仕組みである生命保険が最も適していると考えているからだ。事実、民間生保全体で年間に3兆4,000億円の死亡保険金、8,300億円の入院給付金を支払っており、社会インフラとしての役割を果たしている。
同社は、日本経営品質賞の受賞企業として、今後も創立以来100年以上も続いている経営理念「ご契約者第一主義」を徹底し、「お客さまから最も支持される生命保険会社」を目指してさらなる挑戦を進めていく。