お客様の「住まい」作りを通じて顧客との“絆”を育み続ける

(株)青山工務店

お客様の「住まい」作りを考え抜く、工務店がある。営業担当者を置かない代わりに、現場がショールームであるという認識のもと、作業を行う職人にマナー教育を徹底しているのが(株)青山工務店だ。家を建てたら終わり、ではなく、その後の施主との“絆”を大切にするところからビジネスが広がる。

設計に入る前の“問診”が顧客満足のポイント

 「お客様の大切な財産を活かし、そこに住まう人たちの幸せづくりのお手伝い」をモットーに、創業以来40年、住む人の立場に立った家作りを続けてきた、東京・板橋の「青山工務店」。建築現場をショールームと位置付けたり、顧客だけでなくさまざまな縁を大切にすることで、営業担当者を置いていないにもかかわらず業績を伸ばしている工務店である。
 同社社長の青山輝雄氏が家作りのプロフェッショナルとして最も大切にしているのが、顧客(施主)との事前打ち合わせとして行う“ヒアリング”だ。顧客の要望を素直に聞いてその通りの家を建てるのは簡単なこと。「しかし」と青山社長は言う。
 「お客様の要望を素直に聞く、と言えばいかにも聞こえはいい。しかし、我々の仕事は建物としての家ではなく“住みやすさ”を提供すること。ですから、お客様は何を求めてこんな家を建てたい、あんな部屋にしたいと言っているのかを理解することが最も大切です。そのために事前のヒアリングが重要なのです」。
 それぞれの家庭には、さまざまな事情がある。例えば、リビングを少しでも広くしたいという施主は、家族のコミュニケーションをより深めたいと考えているのかもしれない。二世帯住宅を希望するお客様の家庭には、嫁姑の問題があるのかもしれない。そうした事情によって設計の仕方は自ずと変わってくる。そうしたそれぞれの事情を解決するための家作り、よりよい生活を実現するための家作りをすることこそが、本当のプロの仕事だというのが青山社長の考えだ。顧客が満足や不満を感じるのはモノを買った瞬間ではなく、それを使ったとき。同社は顧客から信頼される工務店になるために、創業当初から、顧客の長期的な満足を見据えた仕事を心掛けてきた。

職人のマナー向上が顧客の安心感、そして自社への信頼感を生む

 もうひとつ、同社が顧客から大きな信頼を得ている理由に、大工をはじめとした職人たちの教育がある。教育といっても技術的なことではない。現場でのマナー教育の徹底と、それによる意識の向上である。青山社長によるとその基本は“躾”であり、それこそが商いの原点だという信念を持っている。青山社長自らが講師を務める勉強会は20年以上も前から行われており、開催数は200回を超える。
 どの業種でもそうだが、こちらが思っている以上に顧客は従業員の態度や動きを見ているもの。工務店にとって、前を通る人たちすべての目に入る建築現場はショールーム。従ってそこで働く職人たちのマナーの良し悪しがその工務店の評判に与える影響は大きいのである。同社の場合、施工に入るときにはまず周辺の家に挨拶回りをする。騒音を出すことになるからだ。着工後は、朝現場に来たときと終了時に必ず掃除を行う。仕事中のくわえタバコや資材を雑に扱うなどはもちろんご法度だ。
 また、実際に行動するだけでなく、そうした自分たちの仕事に対する姿勢を効果的にアピールもしている。そのためのひとつのツールとして、「べからず10訓」というポスターがある。くわえタバコなどのほかに、「安全基準を守らない」「近所迷惑を考えない」など、現場でしてはいけない10項目をマンガ付きで表現したもので、これをできるだけ道行く人の目に止まりやすい位置に貼っておくのである。
 ちなみにこの10項目は、アンケート項目にも使っている。家が1軒建つまでには現場監督以下、左官、建具、塗装、水道工事など多くの業者が出入りする。その仕事ぶりを施主にチェックをしてもらおうというものだ。1項目10点で100点満点となり、意見を書く欄も設けてあるので、職人は常に緊張感を持って仕事に当たることになる。それは当然いい仕事に結び付き、施主の満足へとつながっていく。
 こうした態度が、隣近所への迷惑を気にする施主に安心感を与え、同時に同社への信頼感を培うことになる。さらに、完成時には、完成祝い、および近所の人たちへのお詫びの意味を込めて、包丁を研いで差し上げるイベントを実施する。こういった努力の結果、冒頭で述べたように営業担当者を置いていないにもかかわらず、工事を発注した顧客からの口コミで、仕事が舞い込んでくる。施主の気持ちを考え、顧客志向を実践することで、その顧客が最高の営業担当者となってくれるという、素晴らしい好循環を生んでいるのである。

幅広い人脈作りが顧客満足を支える

 また、工事の終わった顧客とのつながりを保つために青山社長が考え出したのが、いかにも工務店らしい「木のはがき」。「気になるあなたに木の便り」と名付けた、文字通り木で作ったはがき。裏がカレンダーになっているので毎月出しても不自然ではない。工務店の場合、小売店などと違って次の“来店”は少なくとも数年後。一度お付き合いのあった顧客にちょっとしたひと言を添えて出し続けるのである(セールストークは書かないのがポイント)。特殊なはがきなので捨てられずにとっておく人も多く、このリマインド効果が、リフォームなどのリピート需要を喚起する。顧客にしてみれば、建てっ放しではなく、常に気を配ってくれて嬉しいという気持ちになるのではないだろうか。
 そうした青山社長の商売における信条は「金儲けより人儲け」。建築関係以外の人たちとの人脈も非常に大切にしている。そうした人たちと勉強会、異業種交流会、あるいは遊びの会など、これまで自らが主宰者となってさまざまな会を運営してきたが、それらのいくつかをまとめて「NPO生活サポーター★東京」という特定非営利活動法人を昨年発足させた。
 その目的は、建築を通してのみならずもっと広く世の中に貢献しようというものだ。同時に、実にさまざまな業界の人々がメンバーとなっているので、ここで得られる知識や情報を基に、青山工務店の顧客の要望や悩みに、より幅広く対応することが可能になるというメリットもある。そうした、常に顧客を思う気持ち、そしてそれを具現化する行動力が、巡り巡って結局は何らかのかたちで本業にフィードバックされてくるのは明白だろう。

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会社の2階はNPO法人の事務所、3階は施主の仮住まい用の部屋になっている

店舗表 店舗裏

「木のはがき」。裏がカレンダーになっている。


月刊『アイ・エム・プレス』2004年8月号の記事