費用対効果の綿密な分析に基づいて休眠活性策を実行

日本ランズエンド(株)

カタログビジネスのポイントは、1号当たりの収益性。休眠活性策においても、費用対効果に基づいて実効性を慎重に判断した後、ターゲット、タイミング、方法を決定。着実な成果に結び付けている。

顧客本位の施策を次々に展開

 フォーチュン誌の「全米働きたい企業トップ100」にも過去4回選ばれた米国の大手通販会社LANDS’ End Inc.(ランズエンド社)。その日本法人である日本ランズエンド(株)は、1994年8月に第1号カタログを発行以来、40代の女性顧客をメインターゲットに、メンズ、ウィメンズ、キッズの上質なカジュアルウェアを中心とした通信販売で成長を続けている。年間9回、カタログを発行。総売上高は、2002年12月期は9%増、2003年12月期は7%増を達成、2004年12月期には15%増を見込む。
 同社では、顧客応対や製品作りなどに関する「8つの企業理念(8 Principles of Doing Business)」に基づいて、理由のいかんにかかわらずいつでも商品の交換・返品を受け付ける「100%ギャランティードピリオド(GUARANTEED.PERIOD.™ 100%保証)」を掲げ、設立以来、「カスタマー・ファースト」 の精神を貫いている。
 ネット上でも、よりパーソナルな対応で顧客に最高のオンラインショッピングの経験を提供することを目指し、オペレーターとチャット形式でインタラクティブな対話ができるサービス「ランズエンド・ライブ」、友人とチャットを楽しみながらオンラインで買い物ができる「ショップ・ウィズ・ア・フレンド」、カタログやインターネット上でのショッピングにつきものの“推測”をなくして購買の不安を払拭するためのサービス・ツール「マイ・バーチャル・モデル」、ネット上で“試着”した洋服をセーブできる「バーチャル・クローゼット」など、他社にはない多彩なサービスを展開している。
 また、サイズ展開、商品、カラーを日本独自に構成する日本市場に合わせたマーチャンダイジング「ジャパン・フィット」も本格的にスタート。確かな手応えを得ている。

カタログ1号当たりの効率を読む

 同社では、購入客を、RFM(Recency:最終購買日/Frequency:購買頻度/Monetary:購買金額)をキー・ファクターとするトラディショナル・セグメンテーションにより分類し、顧客分析を積み重ねている。例えば「R」では、購入から3年をひとつの区切りとし、月単位での番号を付与。さらにこれを購入回数などによって分類し、購入客をグルーピング。そのグループ数は100を超える。
 同社では購入から12カ月以内、つまり「R」が12以内の顧客にはカタログを毎号送付しているが、12を超える顧客に対して特別なカタログを制作・送付するといった策は採っていない。なぜならば、同社では、送付するカタログ1冊で確実にプロフィットを生み出せるかどうかを、カタログ政策上の重要な指標としているからだ。言い換えれば、カタログ制作や送付にかかる費用を、売り上げで十分に吸収できるかどうか、である。例えば「R12~36」で「F1」(過去3年以内に1回しか購入していない)の購入客をピックアップして特別なカタログを制作・送付した場合、果たして利益が生まれるのか、といったことだ。これらを検討した結果として、同社は休眠顧客向けに別カタログを作成することはしていない。ちなみに、初回購入から1年間、カタログを送付し続けているのも、そのコストを売り上げで吸収できるという検証結果に基づいてのことである。
 施策を実施する時期も重要だ。長年のデータ分析から、年間の受注件数のカーブはほぼ正確に予測できる。号ごとのカタログ制作コストは年間を通してほとんど変動しないことから、優良顧客ですら購買が不活性化する時期に休眠顧客活性化策を打ったら赤字になることは目に見えている。確実に利益に結び付けるという観点に立てば、このタイミングで打つべき優先順位の高いマーケティング施策はほかにある、という結論が導き出される。

起きそうな人を見極める

 同社では前述したように休眠顧客向けの特別なカタログは制作・送付していないが、レター、ブロシュア、クリアランス・カタログなど、年間約10種類のツールを適宜送付するという掘り起こし策を実施している。「どうぞご意見をお聞かせください」という、真摯な企業姿勢を表明したレターをカタログに添えて送付したところ、予想以上の反応を得られたという実績も持つ。
 こうした施策を実行する際には、まず、ふさわしい対象者を慎重に見極める。RFMプラスアルファの指標を基に、過去、休眠から起きた人の分析を丁寧に進める。“プラスアルファ”には、生涯平均1オーダー当たりの金額や、折り込みチラシや雑誌広告といった個々の顧客の獲得チャネルなどが含まれる。休眠顧客の中でも高い反応が期待できるグループを抽出した上でメーリングを実施することによって、着実に好実績を上げられるのだ。
 米国ランズエンドでは、さらに複雑な分析を実行中。顧客一人ひとりをスコアリングし、これによってコミュニケーションの方法を変えている。まさにOne to Oneマーケティングの実践だ。ハウスファイルの量が膨大なため、より効率を追求する必要があるというのもその理由のひとつに挙げられる。

休眠顧客活性化の第一歩は休眠要因を探り出すこと

 カタログビジネスは、仕掛けないと忘れられてしまうもの。仮に年1回しかカタログが届かなければ、想起の機会もそれだけでしかないということになってしまう。従って、顧客を休眠させないためには、定期的にコンタクトをすることが何より重要だと同社は考えており、年9冊のカタログを発行・送付しているのも、そのためだ。ここで大切なのは、そのタイミングで、誰に何をプラスアルファして提供するかということ。同社ではそれを、費用対効果を前提としながらも、顧客本位で考え、検証を重ねている。
 実際に、「F1」の顧客は少なくない。Fの値が増えることはすなわち休眠状態から覚醒したことを意味する。2回目の購入を引き出す施策が、マーケティング上、非常に重要な意味を持つ。
 かつて、「F1」の顧客を「F2」に引き上げることを目的に、クーポンを送付したことがある。しかし期待した効果は上らなかったという。クーポンはむしろ、「F」の値が高い人たちにプラス作用を及ぼすことがわかったのだ。この結果は同社に、“なぜ顧客が買わなくなったのか”の分析なくして、感覚的・模倣的に施策を打っても効果は生まれない、という大きな教訓を与えることになった。
 同社は現在、“3年”をひとつの区切りとして休眠顧客を特定している。しかし顧客が休眠に陥った要因を分析する過程では、3~5年前には「F」が高かった顧客が、その後利用していないという場合もあることを鑑み、5年前まで遡って「F」の値をとらえ、顧客の購入履歴を分析する必要性も検討している。
 顧客との直接的な接点として重要な機能を担っているのがコールセンターだ。このため、テレコミュニケータの採用のハードルを高く設定し、コールセンターを質的に充実させて、顧客がいつでも何でも話せる環境を整備することに努めている。テレコミュニケータに限らず、社員も含めた一人ひとりが「カスタマー・ファースト」の精神に基づいた謙虚さを常に持ち、顧客の声に耳を傾ける姿勢を貫いていることが、購入継続率の向上を実現させているのだ。
 顧客接点やデータベースの充実によって、休眠に陥った原因を探る。そしてその要因を分析し、改善に向けた施策を練り、実行する……。同社はこの繰り返しによって、休眠顧客の掘り起こし策の精度を、着々と高めつつあるようだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2004年5月号の記事