オフィス用品販売を手掛けるオフィス・デポ・ジャパンは、これまで2つに分かれていたブランドの統合を機に、見込客に対するアプローチ法を再検討。各チャネルの特性を活かした顧客化施策の構築を目指す。
ブランド統合を機にマーケティング戦略を見直し
全世界に1,000軒以上の店舗を展開する米オフィス・デポが日本のオフィス用品販売市場に参入、オフィス・デポ・ジャパンを設立したのは1999年のこと。以来、東京・山の手線内エリアを中心に13店を出店するなど、積極的な店舗展開を図る一方で、店舗事業を補完するチャネルとして一部地域で通販事業を展開してきた。またそのほかに、全国を網羅する通販事業を「バイキング」ブランドで運営してきたが、2003年1月、店舗事業と通販事業を「オフィス・デポ」ブランドに一本化した。
これに伴い、市場におけるポジショニングや競合他社との差別化を図るための販売スタイルの再検討を始め、現在は「ブランド統合によるメリット、デメリットを徹底的に洗い出し、マーケティング・プロセスを見直す段階にある」と、マーケティング本部 本部長稲辺裕樹氏は語る。すでに、ブランド認知と新規顧客獲得を狙ったマス広告を展開するなど、新たな試みも始まっている。稲辺氏によると、例えば新聞広告の場合、どんなにエリアを絞っても関東全域はカバーしてしまう。山の手線内という限られたエリアに点在する店舗への集客のために、マス媒体を活用するメリットがあるかどうかは疑問だった。しかし全国展開の「バイキング」を「オフィス・デポ」ブランドに統合したことで、マスのメリットを最大限に活用するチャンスが生まれたのだ。
インバウンド+セールスが競争優位を築く
そこで同社では、今年2月に1回、3月に1回の計2回、朝日新聞にカラーの一面広告を出稿。「予測していたレスポンス率の2倍の反響を得た」(稲辺氏)という。
オフィス用品などビジネス関連商品の場合、広告メディアとしては日経新聞が想定されやすい。しかし、オフィス用品の発注を指示するのは管理職だが、実際に注文するのは20代、30代の総務担当者という実情を考慮し、同社ではあえて朝日新聞を選択したのである。また、朝日新聞読者は、関心のある記事のみを拾い出して読むのではなく、広告を含めて「じっくり」「楽しみながら」読む傾向があり、この点もマス広告第一弾として同新聞を選択した要因となった。今後は他紙との組み合わせなどをテストし、より効果的な方法を模索していく方針だ。
何らかのレスポンスがあった顧客にはカタログとともに1カ月の期間限定で利用できるクーポンを送付。購買を促す仕掛けとした。
見込客の顧客化に力を発揮しているのは、インハウスで運営するコールセンターだ。アスクルやコクヨが展開するカウネットなど、オフィス用品通販事業を展開する企業は通常、受注はFAXとWebで行い、コールセンターは問い合わせおよび苦情対応に専念するケースが多い。しかし同社ではコールセンターを問い合わせた見込客を顧客化する絶好の場と認識。インバウンド機能にセールス機能をプラスすることで、新規顧客の獲得につなげている。
実際に電話をかけてくる顧客の中には、問い合わせ内容が非常に曖昧な人も多い。これという商品の指定はなく、「ファイルが手に入ればどれでもいい」、「こういう用途なのだが適した商品はあるか」「この商品は使いにくいのでほかのものが欲しい」など、オペレータとの対話の中で自らが問題解決の糸口を探す顧客が多いのである。そこを商機ととらえてセールスを展開。週ごと、月ごとのセール品をオペレータにあらかじめ連絡しておき、顧客の話に耳を傾けた上で「電話をくださった方にのみご案内しているのですが、いかがですか」といった提案を行うのだ。「フェイス・トゥ・フェイスとはいかないまでも、コールセンターには顧客と直接、会話できる利点がある。現在は基本的にインバウンドのみだが、今後はアウトバウンドにも意欲的に取り組みたい」と稲辺氏は明かす。2002年秋からはコールセンターのみで案内する商品をもうけている。ブランドごとに構築していた顧客データベースはすでに統合。現在、アクティブ顧客、それ以外の顧客、見込客がほぼ30万名ずつで合計90万名に上っている。
単発的なプロモーションよりも接触頻度を増やすことが肝要
店舗を持ち、周辺地域におけるブランド認知を強化できることは、同社の大きな強みと言える。今後、年間5~6店のペースで新規出店する予定だが、店舗を中心とした新規顧客獲得の施策は主に2つある。ひとつは来店客に対するカタログ配付で、年間数万部が手渡されている。また、朝日新聞、日経新聞を中心に、店舗を案内するチラシを折り込んでいる。目的にもよるが、だいたい店舗を起点に半径1キロを目安に、1回当たり30万~40万部を月に2~3回ほど配付する。もうひとつは、100円ごとに1ポイントがたまり、250ポイント以上を集めるとプレゼントと交換できる専用カードの発行だ。入会時にはボーナスポイントをプレゼントし、入会を誘う。
カタログは商品カテゴリー別のものや、セール品の案内版などを制作。顧客に合わせてカタログを配付する。これまで月に最低1冊は発行してきたが、現在は発行回数を減らす方向にあり、顧客ごとにカスタマイズしたプライベート・メッセージの送付も停止。より低コストで効果を最大化する方法を模索している。
新規顧客を獲得する効果的な方法は何なのか。この点について稲辺氏は、オファーやプロモーションに趣向を凝らすよりも、顧客と接触する頻度を上げることが重要だと指摘する。「何か必要なものがあるときに、“そう言えば”と思い出してもらう。存在を忘れられないことが非常に大切になる。プレミアム提供などで一時的には効果が上がっても、いつ、どのようなプレミアムを提供すれば見込客が反応するかの手法をルール化できない難しさがある。FAXを流し続けるだけでも、コンタクトを保つという意味では効果がある」。
オンラインショップにおいては、低コストで多くの見込客にアプローチし得るメディア、eメールの活用を検討中。オンラインショップが開始して以来、年間2ケタ成長という安定した伸びを示していたこともあり、これまでは問い合わせ対応にeメールを活用するにとどまっていた。現在、Webによる売り上げは全体の1割程度となっているが、今後はeメールを活用した積極的なアプローチによって見込客の顧客化を図り、この数字を3割にまで引き上げたいとしている。
オフィス用品販売市場では先行企業であるアスクルが競争優位を保つ。しかし同社には、足を運びさえすればすぐに欲しいものが手に入る“店舗”と、大きなものや大量購入に便利な“通販”、そして顧客ニーズを引き出し売り上げにつなげる“コールセンター”を併せ持つ強みがある。この差別化ポイントをいかに見込客に伝え、競合他社からのブランドスイッチを促すかが今後の大きな課題だ。同社では、新規出店の案内をエリア内の通販利用顧客に送付するなど、チャネルごとの補完関係を強化しながら、シェアの拡大を図る意向である。
店頭で配付するカタログ「Office DEPOT」2003年春号(左)と、ポイントカードの申込用紙(右)