鮮度がカギ! カタログが企業イメージを決める

(株)カタログハウス 

企業個性を打ち出すこと、顧客にそれを伝えること、そして理想に向かって歩み続けること。その過程を余すところなく顧客に伝えていく。それが、(株)カタログハウスのカタログ制作における命題だ。

まずは個性の構築を

 「顧客は商品を選んでいるのではなく、企業を選んでいる」。(株)カタログハウスの広報室室長 松尾隆久氏はこう語る。選ばれ続ける企業であるためには、他社とは異なる「個性」と「企業姿勢」が必要であり、なおかつ企業からのメッセージを明確に顧客に伝えなければならない。このメッセージ伝達の役割を担うのが、季刊の通販カタログ「通販生活」(1部:180円/発行部数:150万部)だ。2002年3月期には363億円の売り上げを生み出した同社のカタログに焦点を当て、顧客接点におけるブランディングについて考えてみよう。
 同社が持つ個性。それは、「モノへのこだわり」「環境へのこだわり」「社会貢献へのこだわり」を併せ持った、「ちょっとだけ異端」(松尾氏)な存在であることだ。「モノへのこだわり」は、プロの小売業者として厳選した商品だけを顧客に推薦する、「多品目より少品目」主義に表れている。通販生活では①性能・使いやすさ、②耐久性・メンテナンス、③環境負荷、④価格妥当性、⑤取扱説明書の5つの基準をすべてクリアした商品のみを取り扱う。
 同社は、カタログイメージ=企業イメージと認識した上で、これら個性や企業メッセージを「通販生活」の中でいかに的確に表現していくかにこだわっている。
 特徴的なのは、同社が通販生活を“雑誌”と表現することだ。同社はプライドを持って商品選定に取り組み、厳選した商品ひとつひとつを丁寧に説明するスタイルを取る。単に商品のスペックを羅列するのではなく、商品機能などを詳しく紹介。使用上の注意点、さらには使い心地にまで踏み込み、なぜその商品を推薦するのかを説明することにより、商品の必要性を顧客に“説得”する、読み物としてのカタログ制作を目指す。
 さらに、商品提案だけではなく、「環境へのこだわり」や「社会貢献へのこだわり」などのポリシーをもとに企画した記事を掲載しているのも特徴のひとつだ。「ミネラルウォーターの値段の正体」「台湾ほかアジア諸国に売られる『日本原発』」などがその一例だ。チェルノブイリの新生児支援の呼び掛けでは、4ページにわたって現地の状況を説明したり、これまでに集まった募金がどのように使われたかの詳細情報を提供している。
 単に「商品を売る」ことを目的とせず、企業イメージを伝えるための誌面作り。これが、同社をしてカタログを“雑誌”と呼ばしめている。

カタログは鮮度が命

 このほかにも制作上の留意点がある。
 まず、表紙に対するこだわりだ。通常のカタログは、各号を通して表紙のイメージが統一されている場合が多い。しかし、同社の表紙は商品のクローズアップ、商品を身につけた人物の集合写真、季節感を前面に出したイメージ画像など、号によって表情が大きく変わる。「表紙は雑誌の顔。表紙のイメージが変わると受け手の印象も変わり、これまで手に取ってくれなかった見込客が興味を示してくれることもある。雑誌の内容を凝縮した、最も象徴的なモチーフを考え、常に新鮮な表紙を創造するよう心掛けている」(松尾氏)。
 カタログイメージ=企業イメージとするならば、カタログの新鮮さは、そのまま新鮮な企業イメージと直結する。しかし、カタログの鮮度が落ちれば、企業イメージの鮮度も落ち、結果、「通販生活」=「カタログハウス」に飽きた顧客は離反する可能性が高まる。だからこそ同社では、企業イメージの「顔」である表紙の「鮮度」に徹底的にこだわるのだ。
 また商品掲載において、取材に基づく記事や写真を多用することもポイントだ。実際に同社が販売する商品を使っている専門家や一般の購読者のもとを訪れ、インタビューを行った上で、コメントと写真を誌上で活用する。こうすることによって、リアリティーが増して説得力がアップするだけでなく、顧客の共感を得ることもできるのだ。
 同社では商品開発担当者が制作業務にも携わり、どのように商品を紹介するかを提案する。こうした人員を含めると、カタログ制作スタッフは総勢60名にも達する。「自らの個性を十二分に反映した誌面作りを行うために」(松尾氏)、外注は行わず、自社内の制作にこだわっている。

通販生活カタログ

毎号表紙にこだわる「通販生活」

伝えるだけではダメ 理想を実現する行動力を示せ

 以上、カタログ制作におけるポリシーを概観したが、松尾氏は「単にメッセージを伝えるだけでは不十分。メッセージの中で交わした顧客に対する約束を、いかに具現化するかが最大のポイント」と指摘する。
 例えば同社では、「モノへのこだわり」「環境へのこだわり」「社会貢献へのこだわり」を徹底したアフターフォローで実現している。“永く”使用してもらうことを目的に、3年の無料保証、保証が切れたあとに修理を請け負う「もったいない課」の開設、一部商品については、20年の部品保有や使用済商品の回収・再生を行っている。また、耐久消費財約60品目を購入した顧客に対して、商品購入の1年後、さらに3年後にはがきでメンテナンス法の案内や、商品の使用に必要な消耗品を案内するはがき、「メンテナンス通信」を送付。9年もの間、売り上げNO.1に輝き続ける「メディカル枕」の購入者には、商品購入から6~7年後に回収・再生の案内を送付するなど、企業理念をきめ細かなアフターフォローという行動で示し続けている。
 このほか、顧客からはがきが届いた場合には、1枚1枚に手書きで返信する「お便りありがとう室」を約10年前に開設。現在、スタッフ10名が配置されている。商品情報に関する問い合わせの中で、社内で分からないことについてはメーカーに問い合わせる。「顧客接点においては、誠実であること、丁寧であること、そして自社で行うことが大きなポイントと言える。商品に関する問い合わせの回答をメーカーに依頼することも可能だが、顧客は“カタログハウス”を信じて、当社から商品を購入しているのだから、我々が責任を持って応じるべき」と松尾氏は語る。
 同社では毎年、春号にリーフレット「商品憲法」を同封。企業ポリシーを明示するだけでなく、前年度に行った環境に害を与える素材の代替品への変更状況や、前年度の実績、社内のゴミの削減状況などを報告する。顧客が同社の取り組みを実感し、評価する場となっている。
 「通販生活」による情報発信、顧客接点その他の活動におけるメッセージの具現化、そして「商品憲法」を活用した情報開示によって、同社は顧客から「カタログハウス」ブランドに対する信頼を勝ち取ることに成功しているのである。


月刊『アイ・エム・プレス』2003年4月号の記事