チャネルを広げ顧客の利便性を確保

(株)東急百貨店

2000年にショッピングサイトの自社運営に踏み切った(株)東急百貨店は、これまでインターネット通販の売り上げを順調に伸ばしてきた。しかし、従来のメディアとの顧客データの統合など課題も残る。同社が目指すクリック&モルタルの終着駅はどこにあるのだろうか。

インターネットは必須チャネル 顧客の要望に対する受け皿を

 楽天市場が立ち上がった1997年。当初13社しかなかった出店企業に、(株)東急百貨店が含まれていた事実はあまり知られていない。
 同社がインターネット事業に参入したのはそれより2年も前の1995年で、野村総研が運営する「電活クラブ」に出店した。当時、年間売上は7万円に満たなかったが、1998年に東急電鉄が運営する「NorenTown」内で販売したMP3プレーヤ「RIO300」がヒットとなったのをきっかけに、インターネット通販の市場性を強く認識した。ちなみに、インターネット全体の年間売上4,000万円のうち、約半分を同商品が生み出したという。
 こうした動きを受け、販売促進部が兼務していたインターネット事業を、営業推進室内に新たに設置したEC推進室に移管。2000年6月に自社運営するショッピングサイト「e109.com」をオープンした後、同8月、メディア事業開発部を新設した。現在、10名が同部内で活躍している。
 EC推進室が開設された当初からインターネット事業を担当する、メディア事業開発部部長 田渕也寸志氏は、「インターネットを利用するお客様は年々増えていく。独自にサイト運営を行って、異なる商品を複数の届け先に送付したり、決済方法の選択肢を用意することは必要不可欠と言える。また、お客様がより便利にお買い物ができるような受け皿を用意することは、当然のことだろう」と話す。

会員数は6万人 ギフト商品で50%を売り上げる

 同社がインターネットをどのように活用しているのか、その詳細は図表を見ると分かりやすい。

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 主に店舗情報を提供するオフィシャルサイト「T-NET」のほか、ショッピングサイト「e109.com」を運営する。同サイトでは、東急百貨店がダイレクトに販売するだけでなく、約230もの専門店を集め、健康器具など幅広い品揃えを実現した。「club e109」会員を募るほか、希望者にはメルマガのみの送信も行っている。会員数は、メルマガのみ購読する会員も含めて、約6万人に上る。カタログを利用する顧客210万人に比べるとまだ小規模だが、会員数は順調に伸びており、今後が期待されるところだ。
 顧客データによる男女の構成比は6:4くらいで男性が多いが、中元・歳暮商品は世帯主の名前で購入する顧客が多いので、実際に購入しているのは女性の割合が高いと思われる。実際、eメールによる問い合わせは、女性が約75%を占める。
 年齢は、インターネットを頻繁に利用する世代と利用者層がぴたりと重なり、30代前半がもっとも多い。ただ、平均年齢は年々上昇する傾向にあり、40代、50代もかなり増えてきているという。
 会員向けの主なサービスを挙げると、①中元・歳暮などの届け先の事前登録、②買い上げ金額の1%をポイント還元、③購買履歴の閲覧、④オークションに参加、⑤グリーティング・カード機能、⑥ギフトレジストリー、など。⑥は日本ではまだ一般的ではないが、米国などでは広く親しまれているギフトで、結婚するカップルなどが自分達が欲しい祝い品の一覧を掲載し、友人や親戚がその中から予算などに応じて贈り物を決める仕組みを指す。
 売れ筋は、やはり中元・歳暮用のギフトで、全体の30%程度に上る。その他のギフトを含めると、売り上げのほぼ50%弱を占める。中元・歳暮商品に関しては、通販カタログの商品1,400~1,500点をすべてインターネット上に掲載している。以前は、インターネット上で動く商品は200~300点とごく一部に限られていたが、今年の中元時期には約950点の商品が動いた。ADSLの普及などにより、インターネットの利用環境が改善されていることが、インターネット・ショッピングの利便性を高め、顧客がサイト内のより深いところまで自由に行き来できるようになってきた様子がうかがえる。同社では、ブロードバンドの普及をにらみ、すでにサイト内に「e109TVショッピング」をオープン。健康器具などを動画で案内し、商品をより詳しく説明できるよう工夫している。
 メルマガは1週間に1回の送信で、e109.com会員と、メルマガのみの会員とではコンテンツに若干の変化を持たせる。商品情報は同様だが、メルマガのみの会員には正会員への勧誘を盛り込む場合がある。また、両者ともにサイトに関する情報だけでなく、店頭情報を一緒に流し、店頭への誘引装置としての機能も持たせている。
 今後は、東横店東急フードショー(食料品売り場)を中心としたメルマガを発行し、会員が好きな情報だけを受け取れるような仕組みを作っていく意向だという。

目指すは店舗とネットの連動サービス

 それでは、インターネットと店頭との関係はどのようになっているのだろうか。
 田渕氏によると、通常、東急電鉄沿線の商圏内の顧客が、ネット通販利用者のおよそ半数を占めるという。中元・歳暮の時期になると、この比率は商圏内8割、商圏外2割となり、店舗の商圏内の顧客がインターネットを活用している様子がうかがえる。ネットの存在が店舗に足を運ぶ阻害要因にならないか心配されるが、田渕氏は、「お客様とのインターフェースは、複数用意しておかなければならない。店頭も、ネットも、電話も、FAXも、お客様がその時の事情に応じて自由なチャネルを選べるのが理想的」と語る。
 実際、インターネット画面を見ながら電話で注文をする、または質問をする顧客もおり、複数のチャネルを同時に利用するケースが多々見られる。同社の商圏である多摩田園都市におけるインターネット普及率は50%、横浜市青葉区では67%となっており、店頭での買い物を楽しむ一方で、わざわざ出向くのが面倒だと思う顧客に、インターネットによるサービスを行うことは、同社にとって「自然な成り行きだった」(田渕氏)。
 しかし、課題もある。
 特に、カタログ通販、e109.com、店頭で使えるカード「クラブ キュウポイント」の顧客データが統合されていないのは大きな改善ポイントと言えそうだ。現況では、club e109会員はインターネット通販で得たポイントを店頭で利用することはできない。逆も、またしかりである。田渕氏は、「購入が複数チャネルで行えるのなら、それによって得た特典も複数チャネルで利用できるのが、本来の姿」と語り、その実現に向けて意欲を示している。


月刊『アイ・エム・プレス』2002年12月号の記事