ネットで注文、店舗で受け取り トータルとしての競争力を重視

(株)キタムラ

インターネットを通して商品を販売する。しかし、それはいわゆる“通信販売”ではない。インターネットと店舗の連携を強め、顧客を店舗に誘導することによって、企業としての競争力を高めていく。それが、(株)キタムラのクリック&モルタル戦略だ。

ネットの売り上げは全体の2% 今期30億円弱と予測

 本社を高知県に構える(株)キタムラは、「カメラのキタムラ」を中心に、全国に約550店舗を構える。ほぼすべてが直営店だ。カメラ・デジタルカメラや写真関連商品を販売するだけでなく、フィルム現像やデジタル画像を銀塩写真に仕上げるプリントサービスも行っている。
 同社がインターネット事業に参入したのは1995年だが、ネットを通したカメラの販売業務を本格スタートさせたのは、1999年6月のことだ。現在、新品、中古品の双方を扱うほか、2000年にスタートさせた「ネットプリントサービス」が好評となっている。インターネットを通した売り上げは全体のおよそ2%で、2002年10月実績が2億円。2002年度で30億円弱を見込むが、通販・インターネット事業部事業部長の岩崎賢剛氏は、「インターネット事業は単なる通信販売ではない」と言い切っている。その真意はどこにあるのか。現在、同社が行っているインターネットと店舗を連動させたサービスを詳しく見ながら説明しよう。

キタムラ

ホームページのトップ画面 URL:http://kitamura.co.jp/

新品も中古品も店頭で手にとって購入を決定

 同社がインターネットを通して行うサービスには、①メルマガの送信、②クーポンの発行、③新品、中古品の予約受付、④ネットプリントサービスの4つがある。その詳細は、以下の通り。
 ①メルマガ購読者およそ6万人に、新製品や写真・デジタルに関する情報を素早く届ける「キタムラフォトライフ」と、特価品などお買い得情報を満載した「キタムラ特だねマガジン」の2種類を送信する。このうち、後者には印刷して持っていけば店頭で割り引きが受けられるインターネット・クーポン券が付いている(②)。店舗周辺に住んでいない顧客にもクーポン券を送付しているが、顧客から「店舗が近くにないから利用できない」などの指摘があった場合には、削除するよう配慮する。
 ③ネットを通して商品を予約し、店舗で商品を実際に見てから購入するかどうかを決められるサービスで、自社サイトと店舗の両者をあわせ持つからこそ実現した注目に値する試みだ。
 中古品を例にとってみよう。顧客はまずホームページ上で、自分の出せる金額や商品の保存状態に応じて、自分の好みの商品を選択する。次に、顧客会員情報を入力した後、受け取りを希望する店舗を選ぶ。最寄りの店舗に在庫がなくても、他店から取り寄せ、届いた時点でeメールで連絡がもらえるので、あとは自分が都合が良い時間に指定した店舗に受け取りに行けばいい。商品の状態をチェックし、万一、希望に合わない場合はその場で無料でキャンセルすることもできる。
 「カメラのような商品単価が高い商品をインターネットで購入することに、心理的抵抗を持つ顧客はまだまだ多い。中古品となれば、なおさらだ。店頭で自分の目で見て購入できれば、こうした不安感を払拭することができる。また、ネット上の決済に足踏みする顧客でも、店頭での支払いなら安心して注文できる。これは、インターネット事業だけでなく、店舗を持つ弊社の大きな強みと言える」(岩崎氏)。
 同社では、各店舗の在庫情報を本社で一元管理している。このため、中古品だけで約4,000アイテムを揃えることができ、この豊富な品揃えも魅力のひとつとなっているようだ。価格は、新品・中古品ともに店舗とインターネットで統一されているわけではない。岩崎氏は、この辺りが今後の課題と指摘している。

今期で5倍の顧客数を目指すネットプリントサービス

 最後に、④の「ネットプリントサービス」について説明する。もともと、デジタルカメラで撮影した画像データを銀塩写真として仕上げるプリントサービスは、2000年11月にスタートさせた。さらに顧客の利便性を考え、注文のための専用ソフト「プリント直行便」を店頭で無料配布し始めたのが2002年2月、ホームページ上でダウンロードできるようにしたのが同3月である。
 デジタルカメラで撮影をしても、PCの中にためこむ一方のユーザーも多い。そこで、インターネットを使ってデータを同社に送信し、店頭で写真を受け取れるようにしたのが、同サービスである。もちろん、店頭でデータ画像を渡すこともできるし、ネットで注文して自宅で写真を受け取ることもできる。
 専用ソフトを用いて自分が印刷したい画像を抽出、送信すれば、仮に深夜にデータ送信したとしても、翌日の正午くらいには店頭での引き取りが可能という。このスピード仕上げを実現したのは、2001年末までにほぼ全店に導入した、データ画像を銀塩写真としてプリントする「デジタルミニラボ」だ。それまでは、顧客が受け取り場所に指定した店舗の最寄りの現像所にデータを送信、印刷したものを店舗へ運んで、顧客に引き渡していた。このため、データを受け取ってから引き渡しまで3~4日かかっていたのだが、ミニラボを設置したことから、配送時間がなくなりスピード仕上げが実現できた。
 同サービスに対する顧客の反応は非常に好意的で、同社では、今後、インターネット関連サービスの主軸として大きく育てたい方針だ。現在、1日に約1,000件のオーダーがあるが、店頭におけるチラシの配布やメルマガによる情報提供などで周知徹底を図り、今期中にこの数字を5,000件までに引き上げたい意向という。
 岩崎氏は、「中古品の注文は1日におよそ100件、新品で数十件。特に中古品は市場が限られる。このため、主婦層に人気があり、すべてのデジカメユーザーの需要が見込めるネットプリントサービスにかける期待は大きい」と話す。
 現在、同サービスを利用する顧客の90%以上が、店頭での受け取りを希望している。こうして店頭に誘導された顧客から得る売り上げは、インターネット事業から上がったものとはカウントされず、店頭での売り上げと見なされる。つまり、インターネット事業はそれだけでは完結せず、店舗と強く結び付き、これを活かす役割を担っていると言える。
 こうした状況において、「この売り上げはインターネット利用者から」などと分け隔てて考えることに意味はなく、どのチャネルを利用しようと、最終的にそれが企業全体の売り上げに結び付けば、結果として他社とのバトルに勝ち抜く競争力となる。インターネットを「商品を販売するだけの事業と考えていない」という同社の戦略は、まさにそこにある。

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月刊『アイ・エム・プレス』2002年12月号の記事