付加サービスの提供により自社のブランドをさらに向上
コピー機器の先駆的メーカーとして確固たる地位を築いている富士ゼロックス。同社では、次なる新規事業を獲得し育成する「ニュービジネスセンター」のひとつのテーマに、実践的なナレッジ・マネジメント(KM)の実現に向けたコンサルティング・ビジネスを展開する社内カンパニーとして、KDI(Knowledge Dynamics Initiative)グループを2001年1月に設立した。同社はこれまでも「知識」に対してさまざまな取り組みをしており、数々のフォーラムの開催等を通じて企業に知識経営について考える場を提供してきた。同社ではその知識経営の実現において不可欠なのがKMだと考えているが、さらに、KMの大きな目的であり成果であるのが、企業のコーポレート・ブランドの向上だとも見ている。そこで、ナレッジ・コミュニティの運営を通じてクライアント企業におけるKMを十分機能させ、知識経営を実現することで、総合的に企業のコーポレート・ブランドを向上させる組織としてKDIを発足させた。ナレッジ・コミュニティとは、最先端研究に基づく、ナレッジ・サービスを共同開発するグローバル・ネットワークである、The KNOW Allianceの研究結果や方法論を、各企業の実践の場で具体的に展開・検証する組織である。
また、同グループの設立には、同社の主力事業である複写機/プリンタ等のハードウエアに加えて、知識経営の可視化という付加価値サービスを提供する新たなブランドを作ることで、自社ブランドをさらに向上させる狙いもある。
3つのサービスを提供
KDIは同社のこれまでの研究成果と研究ネットワークを活かしたコンサルティング・グループである。知識経営に本格的に取り組もうとしている企業のためのコミュニティを運営し、その中で、グローバルな最先端の事例やメソッドを提供すると同時に、コミュニティ内の企業によって実践された新たなプラクティスを相互学習する場としても機能している。
同グループが提供するサービスは、A(ナレッジ・アセスメント)、B(ナレッジ・ベンチマーキング)、C(ナレッジ・コミュニティ・デザイン)の3つに大別できる。サービスAは知識経営の診断プログラム。企業の知識経営度を可視化するものだ。これは、ナレッジ・ワーカーである社員を対象としたアンケートを基に、その働き方や組織の特徴、経営層との知識資産の認識差などを明らかにすることで、新たなフォーカル・ポイントをつかむことを目的とするもの(図表3)。サービスBはベンチマーキング・スタディとKMスタートアップ支援。同社が提携する世界最大のベンチマーキング組織である米国生産性品質センター(APQC)とのコラボレーションにより、ベスト・プラクティス企業への訪問と、現場のナレッジ・リーダーとの対話と議論の機会を提供するものだ。サービスCは、コミュニティと知識創造環境の構築。その企業にとっての競争優位性となる知識資産を特定し、その創造と活用を担うコミュニティを発見、あるいは新たに構築することで企業の知識創造力を向上させるものである。
KMのパターンが企業のブランドを体現
こうしたサービスを経て、同社ではKMの3パターンを見い出した。ひとつ目は「ビジョン主導型」。これは衆知を結集して、問題を解決するタイプだ。組織全体が向かうべき方向性を示す明確なビジョンは決まっており、組織全体で問題を共有する「場」を設け、知を出し合い、問題を解決することでそれを実現し、それをブランドの重要な要素とする。2つ目の「プロ型」は、組織的な問題の共有よりは個人の能力を継続的に高め、一人ひとりが“プロであること”に重きを置き、個人の成長がブランドの向上であるとするものだ。そして知識を持つ成功者との直接的な交流により、質の高い暗黙知を共有する。3つ目の「創発型」は、明確な知識創造のダイレクションを設定せず、イノベーティブであることを企業のアイデンティティーとするもの。異なる領域の者同士の交流の中から生まれる社員や顧客の知をダイナミックに活用し、イノベーションを狙う。日常の仕事を越えた活動の重要性を企業文化とし、それがブランドになるという考えだ。
この3つのパターンが、企業の強み、なおかつ企業のブランドそのものを体現しているというのが同社の見解である。多くの場合、企業は自社が3つのうちのどのタイプであるかに対して無自覚だ。同グループは、ナレッジ・コミュニティ活動を通じて企業にそれを気付かせ、各企業の行うKMを認識させることで、地に足の着いたKMを実現すること、その結果としてブランドを向上させることを目的としている。
ちなみに同社は、前記3つのKMパターンのうち、「創発型」に属しているという。
自社の付加価値の再定義でブランドを向上
現在、多くの企業では、これまでのビジネスの延長では乗り越えられない壁にぶつかっているという。つまり、従来型のビジネス効率向上施策ではなく、企業ビジョンそのものを変革することが必要であり、それには知識経営の実践こそが有効であると同社では見ている。効率の向上や企業規模ではなく、自社の付加価値、強みは何であるかを見つめ直し、再定義することが壁を突き破る手段であり、ひいては自社のブランドを向上させることにつながるのだ。
KDIグループは前述のように、付加価値サービスを提供する新たなブランドを作ることで、富士ゼロックスのブランドをも向上させる意図のもとに創設されたわけだが、同グループ自身のブランド価値に関しては以下のように考えているという。
同社では、ブランドの価値は一概に測定できるものではなく、その活用の目的・対象によって変わってくると考えている。KDIグループのナレッジ・コミュニティは経営の中で優先度が高く、例えばトップ自らが真剣に自社のKMを向上させたいと考えているような企業のみを対象にしているため、一般的に広く認知されるものではないという。しかしその限られた範囲の中で、厳選されたクライアント企業に密度の濃いサービスを提供することにより、KDIグループのブランドをじわじわと高めていくというのが同社の戦略だ。ひとつのサービスが終わると、顧客に次のサービスを継続して受けたいか否かを綿密なアンケートで問うており、常に自身のブランド価値を確認している。しかし、本当の意味で自身のブランドの価値が上がるのは、同グループが提供するサービスにより顧客企業の経営が刷新された時だという。今後も顧客視点に立った提案をすることで、自身・顧客ともにブランドの向上を図りたい考えだ。