顧客との絆作りの場
インターネットの黎明期である1996年から自社ホームページを開設し、さまざまな企業情報を発信してきたライオン(株)。同社では、市場競争の激しい現在、「ライオン」という企業のファンを創出することがブランドのファンに、ひいては個々の商品のファン創出につながっていくと考え、2000年2月17日より、企業ホームページとは別に、コミュニティサイト、「クラブライオン」を立ち上げた。
これに当たって同社では、自社ホームページは「ライオンから顧客に情報を発信する場」、クラブライオンは「顧客との双方向コミュニケーションで絆を深める場」と明確に役割分担を定義。商品のサンプリング・プレゼント、スクリーンセーバを無料でダウンロードできる「バーチャルフラワー」、ライオンに対する意見をライオン側のコメントとともに紹介する「Voice Garden」など、顧客が企業とのコミュニケーションを純粋に楽しめるコンテンツを提供している。試供品を抽選の上、無料で提供する商品サンプリングコーナーでも、感想の返信は顧客の自由。会員登録の際もメールアドレスと自分の好きなID番号のみの入力で登録可能とし、顧客側の心理的な負担を軽減するよう配慮している。一方で、会員になると定期的に新商品情報などのメールを配信するほか、半年に1回ほど商品・試供品をプレゼントする特典を約束。顧客の意志によってメール配信の拒否も可能とするなど、あくまで顧客視点に立った運営を心がけている。
会員数は2000年12月の時点で3万5,000人。当初は20〜30代の主婦層が中心だったが、インターネットの浸透に比例して年齢層も広がりを見せ、最近は40〜50代の顧客も増加している。
ライオンの自社ホームページ(http://www.lion.co.jp)。
会社概要、製品情報をはじめ、幅広いコンテンツを揃えている
自社ホームページの右上にあるアイコンをクリックすると現れる
「クラブライオン」トップページ。商品サンプリングなど企画は盛り沢山
顧客との意見交換で新製品を開発
「クラブライオン」は同社宣伝部が統括。コンテンツ更新は1カ月ごとだが、1日に約2万ページビュー(トップページビュー)にも及ぶため、実質的なサイト運営はライオン、およびその製品について詳しい外部の広告代理店による「クラブライオン事務局」に委託。意見のデータベース化も、外部のデータベース会社に委託するかたちをとっている。
コンテンツの中で特徴的なのが「藤臣柊子の部屋」。これはバス・トイレタリー分野に詳しく、生活者視点のストーリーで人気のある漫画家、藤臣柊子が「こんなものがあったら」というさまざまな新製品のアイデアを提案。それに対して顧客からのコメントを掲示板方式で募り、双方向コミュニケーションの中で、顧客の意見を製品開発に反映させていくものだ。ポイントは単に顧客の意見を集めるのではなく、彼女が企業と消費者の仲介役となっていること。つまり彼女が生活者視点で顧客の声をまとめ、ライオン側の製品アイデアとマッチングさせることで、逸脱しがちな意見を製品開発に向けてうまくリードしているのである。また、顧客にとって相手は企業ではなく、藤臣柊子というひとりのキャラクター。これはホームページに対する親密度を高め、コメントを送りやすくすることにも一役買っている。実際このコーナーは好評であり、現在開発中の製品は複数。11月には、化粧品感覚の歯磨き『imica』が商品化。ウェブ限定発売に至っている(すでに完売)。
一方、前述の「Voice Garden」では、新製品要望の声もあれば、サイトに対する質問、製品の応援など、内容は実にさまざま。クラブライオン事務局は、それらの声に、親近感がわくような丁寧なコメントを添えて掲載している。送られた意見をすべて掲載せず、あえていくつかを選んで掲載している点は、「藤臣柊子の部屋」同様、掲示板にありがちな意見の逸脱を抑制するため。また、実質的な運営を外部の第三者に委託することで、コメントの営業臭を薄くし、より消費者の立場に立ったコメントを返すことに成功している。
「藤臣柊子の部屋」では、顧客から新製品に対する意見・要望を募り、実際に製品を開発。
親しみやすいページ作りもポイントだ
「Voice Garden」では、顧客のさまざまな声を掲載。
ライオン側では、丁寧でフレンドリーな
コメントを添えている
インターネットの利点を有効活用
現在もっとも人気が高いのは、会員でなくとも応募できる商品サンプリング&プレゼントコーナー。同社では、モニターあるいは当選者が100名規模のキャンペーンを月に3回、1万名規模のものを年6回実施しているが、これらにインターネットならではの利点が大きく反映されている。
まずコストのかからない自前の告知メディアとしてのメリットが奏効。たとえば100名規模のキャンペーンでは、基本的に宣伝費をかけず、雑誌などのパブリシティで紹介してもらう程度にとどまる。そのため、従来は十分な告知ができず、1万名の応募者を集めることも難しかった。しかし、クラブライオンでも告知するようになってからは、手軽に応募できる点もあいまって、100名の募集に毎月2万名ほどの応募が集まるようになった。
また顧客が能動的に自分の意見・感想を送りやすくなったことは、それだけ同社や同社製品についての認知度、理解度を深める機会が増大したということでもある。インターネットがメディアミックスの幅を広げると同時に、一方通行になりがちだった企業と顧客の関係を大きく変えたのだ。
しかし、その手軽さが生み出すデメリットもある。ハガキなどは手間のかかる分、顧客には強い動機があるが、インターネットは大した動機がなくとも意見を送れてしまうため、その質も低下しがちという点だ。同社が商品サンプリングなどでも意見を強制的に回収せず、顧客の自主性に任せているのは、こうした点を逆手に考慮した結果でもある。実際、同社が求めずとも能動的に送られてくる意見には、質の高いものが多いという。
企業は顧客に『囲い込まれる』もの
以上のように、すべてを顧客視点で構築しているクラブライオン。もちろん企業は営利団体であるゆえ、ある程度、宣伝要素とのバランスもとっているが、基本テーマはあくまで「いかに顧客が楽しめるか」。それだけに、売上高への貢献度など、効果測定は現時点では行っていない。ただし、従来のキャンペーン結果などから、顧客とのコミュニケーションが増えるほどロイヤルティ、および売り上げが上昇することはデータとして裏付けられている。実際、過去のデータでは、商品サンプリング後、DMを通しツーウェイ・コミュニケーションを展開した顧客のうち8割がリピーターになったという実績もある。同社では喜ばれるサービスを提供すれば、売り上げにも確実につながるはずと見込んでいる。
「クラブライオンの目的はあくまでファンを作ること。売上効果を狙うのではなく、顧客が楽しめるコンテンツの提供が目的です。第一、頻繁に訪れてもらえなければコミュニティ自体が成立しません。よく企業は顧客の『囲い込み』という言い方をしますが、本来企業とは、良いサービスを提供して、顧客に『囲い込まれ』るものなのではないでしょうか」(マーケティング本部 宣伝部 主任部員 南曉氏)
今後は、より多くのファンを醸成するために、顧客同士で自由に意見交換できる場の提供も検討中。また、インターネットが便利なゆえに失われがちなヒューマンタッチな要素を重視。顧客に親近感を抱いてもらうことで、同社が“囲い込まれる”コミュニケーションサイトを構築し、さらに絆を深めていく考えだ。