顧客データベースという「頭脳」をもとに、コールセンターが「手足」となって効果的にCRMを推進

(株)横浜銀行

顧客データベースに基づき、リテール戦略を推進

 (株)横浜銀行のコールセンター「ダイレクトバンキングセンター」は1997年12月に設立。ローンや年金に関する相談受付や照会業務、98年1月にスタートした「はまぎんテレフォンバンキング」といったインバウンドと、定期預金の継続、年金振込の口座指定の案内等を行うアウトバウンド業務の両方を担う、イン・アウト統合型のコールセンターである。
 同行が一番最初にコールセンターを構えたのは1991年。当時は「ハローサービスセンター」という名称で運営していたが、リテール戦略をより効果的に進める上では、データベース・マーケティングが重要と判断。95年から研究を開始し、顧客の属性、取引状況、コミュニケーション履歴などの情報を集約したデータベース、MCIF(Marketing Customer Information File)を2年後に構築した。
 現在の「ダイレクトバンキングセンター」は、そのMCIFという「頭脳」の考えを元に、顧客ひとりひとりにより効果的にコミュニケートする「手足」の役割を果たすものとして設立された経緯がある。
 このため、センターは単なる営業支店のサポートという位置付けに止まらず、MCIFに基づき、リテール戦略を効果的に推進する中心組織として運営。セールスを行うのではなく、1対1で顧客の生の声を受けとめてマーケティングに反映する、CRMの観点に基づいたコールセンターなのである。

“逆マーケティング”を防ぐきめ細かな配慮

 コールセンターの総席数は100席。うち30席をアウトバウンドに特化し、45名のテレコミュニケータで月間5万件のコールを展開している。
 その際、至上課題としているのが、“逆マーケティング”を防ぐ、ということだ。たとえば平日は9時〜17時まで、土日も10時〜17時までと、家族が団らんにあてるであろう朝や夜は控えている。しかも土日に関しては、98年1月に約600名の顧客を対象に「土日に電話をかけても迷惑ではないか」という主旨のアンケートを実施。その結果7割以上の顧客から「あまり頻繁でなければ歓迎する」という回答を得た上でのものだ。
 1回の通話時間は平均2〜3分。顧客がキャンペーンなどについて、より詳しい情報を知りたがっている場合には、都合の良い日時を確認した上で、折り返しかけ直す方法を取っている。逆に、一度電話をして「もう電話しないで欲しい」と申し出があれば、すぐに電話リストから外すなど、顧客の気持ちをきめ細かく配慮している。
 また同行ではキャンペーンを打ち出す際、まずリテール企画部が、前述の顧客データベース、MCIFを基にキャンペーン内容と顧客ニーズをマッチング、電話をかけるターゲットをリストアップする。そのリストを基に、センターを統括する個人部が、顧客の生の声もすりあわせて、最終的なターゲットを決めている。しかしキャンペーンは同時進行のものも多いため、ともすると同じ顧客が複数のキャンペーンのターゲットとなり、ひとりの顧客に何度も電話をかけてしまう、という事態も考えられる。
 同行はこの点も考慮し、顧客ごとに告知するキャンペーンに優先順位を付け、二重掛電を防止。一度電話したら、次の電話まで最低でも2週間以上は間を置くというルールを作っている。またDM送付後の電話フォローなども、センターと営業支店で重ならないよう、役割分担を明確化。電話を受ける顧客の気分を害さないさまざまな工夫を施している。
 こうした働きかけの結果、年金のご予約サービスのお願い等では、電話をかけた顧客のうち8割が予約。現在、取扱額が1,100億円を超える、金利が2倍の「スーパー定期」に関しても、ひとりひとりに内容を詳しく説明するアウトバウンドの貢献度は大きいと見ている。
 今後は、ひとりひとりの顧客の情報を、よりきめ細かく分析。進学、就職、結婚など、人生のイベントに合わせて、教育ローン、住宅ローンを薦めるなど、タイムリーな提案を展開していく意向だ。顧客の気分を害さないだけでなく、そのニーズをマーケティングにフィードバックすることで、顧客との継続的な関係の構築を目指している。

横浜銀行「ダイレクトバンキングセンター」

横浜銀行「ダイレクトバンキングセンター」

スタッフ教育、インフラ整備ともに万全の体制を築く

 コールセンター業務は、顧客の表情が見えない分、窓口対応より難しいと言われる。特にアウトバウンドは、こちらから顧客に働きかける分、インバウンド以上に高いスキルが要求される。そのため同行では、キャリアがあるスタッフを中心にアウトバウンド要員を選定。新人を採用する場合には、商品知識、対話方法、システムの操作法などを、2カ月間にわたる研修できっちりと指導している。
 現場では常に2名のスーパーバイザーがテレコミュニケータの応対をモニタリング。集合研修で実際の事例を基に講習を行い、日々より良い対応を目指している。また最近では、会話時間、会話内容など、ひとりひとりのテレコミュニケータの応対カルテを作り、必要に応じた個別指導への取り組みも開始した。
 一方システムは、同行が日本NCR(株)と共同開発した「統合型コールセンターシステム」を使用。これはスクリプトが顧客情報とともに画面に表示されたり、相手が話し中の場合はしばらく間を置いて、自動的に再度電話をかけるなどさまざまな機能を満載。効率的、かつ的確な対応を強力にサポートしている。
 このように、スタッフ教育だけでなくシステムの整備にも力を入れる同行は、サービス品質の国際規準「ISO9002」も取得している。コールセンターは、窓口業務と並ぶ横浜銀行の顔。信頼関係を重視する銀行ならではの、万全な体制と言えよう。

ひとりひとりの顧客に合わせた提案がCRMの基本

 最近は、個人情報保護基本法制が再来年の施行に向けて検討されつつあるなど、プライバシー問題が重視されている。特にアウトバウンドはこの問題を避けて通れないだけに、同行でも気を使っている。
 たとえば、顧客リストの元となるデータベースはMCIFのみを使用。また定期預金の案内など重要な用件の場合は、本人以外の家族には伝えないなど、基本的な配慮を欠かさない。しかし、今後は顧客からの情報開示請求もあることを見越し、情報開示についての考え方などを定めた、セキュリティ・スタンダードの構築に、すでに着手しはじめている。
 しかしアウトバウンドを使ったCRM推進の上で最も大切なのはシステムなどのインフラ整備ではない。あくまで「顧客をよく知り、適切な対応をする姿勢」と、横浜銀行ダイレクトバンキングセンター センター長 大川和彦氏は力説する。「CRMという言葉は最近のものですが、 当行はその言葉が登場するずっと以前から、窓口業務を通してひとりひとりのお客様に、適切な商品をお薦めしてきました。やはり顧客との関係作りで最も大切なのは、適切なチャネルを使い、適切な商品を、適切なタイミングでお薦めする姿勢だと思います。この考え方を元に、データベースやシステムなどを活用して、ひとりひとりの顧客に、より効果的に働きかけていくことが重要なのではないでしょうか」。
 同行では今後、テレコミュニケータ教育のさらなる徹底、営業支店との連携の強化、マーケティングの効果測定とフィードバックのスピードアップを図り、リテール戦略をレベルアップしていく意向。正にOne to One マーケティングの実現に向けて、アウトバウンドを効果的に活用し、CRMを推進していく構えだ。

キャンペーンのパンフレット1 キャンペーンパンフレット2

キャンペーンのパンフレット。横浜銀行はその内容を電話でも分かりやすく案内している


月刊『アイ・エム・プレス』2000年8月号の記事