顧客との関係づくりの手段としてアウトバウンドを導入 きめ細かな対応で生涯顧客の獲得を図る

日本テレコム(株)

“「日本テレコム」という価値”を提案

 日本テレコム(株)は1984年に設立。その後、1989年には鉄道通信(株)、1997年には日本国際通信(株)と合併し現在に至る。アウトバウンドは1989年から導入。創業当初からの企業理念である「お客様第一主義」に基づいた、営業活動の一環として展開している。
 アウトバウンドは、上手に活用すれば大きな効果を発揮するが、ともすると顧客に悪印象を与えかねないリスクもはらんでいる。そのため敬遠しがちな企業も多いのが現実だ。そのような中で日本テレコムがアウトバウンドを展開していることには、大きな理由があった。
 通信市場はこの10年間で急成長。その分企業間競争は厳しく、激しい価格競争が繰り広げられてきた。しかし、この戦略ではシェアは維持できても利益が維持できず、各社の体力消耗に終わってしまうという限界が見えていた。また顧客にとっても通信会社の選択軸が「価格」に集約されてしまい、各社のオリジナリティが提示されないのは望ましいことではない。
 そこで同社は「『日本テレコム』という価値の提供によって、他社との差別化を図り、お客様の満足を獲得する」戦略に転換。すなわち価格の安さではなく、日本テレコムならではのサービスで、継続的な関係を築ける顧客を獲得する方針に改めたのだ。もちろん電気通信事業法を尊守した上でということだ。
 同社のアウトバウンドは、こうした「顧客サービス戦略」の一手段。そのため顧客とのリレーションシップ作り、顧客との継続的な関係構築、ロイヤルティの構築、という3点に主眼をおいて実施している。単なる売り込みとは異なる、まさにCRMを基本にしたアウトバウンドと言えよう。

「テレコム倶楽部」で差別化を推進

 同社が他社との差別化を図る「顧客サービス戦略」の屋台骨となっているのが、昨年10月からスタートした「テレコム倶楽部」だ。これは、日本テレコムの利用者なら誰でも入会でき、「0041」市外通話、「0088」国際通話、「ODN」など、日本テレコムの提供サービスを利用するだけで、自動的にポイント数を加算。そのポイント数に合わせて、さまざまなプレゼントがもらえる「プレミアムプラン」、航空会社のマイレージと交換できる「マイレージプラン」の二つのプランを用意している。同社は、これをインターネットや、テレマーケティングにおけるアピール材料とすることで、顧客との関係作りに役立てている。
 アウトバウンドの際、最も気を付けている点は、「Right People・Right Message・Right Timing」。つまり、ただ闇雲にメッセージを打ち出すのではなく、電話をかける相手、伝える内容、電話をする時期・時間を考慮するということだ。
 たとえば電話をかける時間帯は、原則として平日は10時〜21時、土日は10時〜18時30分と決めている。通話時間は1〜2分。相手との話の展開にもよるが、基本的にごく短時間で済ませている。さらに話の適所適所で「お話を進めてもよろしいですか?」と顧客の都合を確認するなど、その配慮はきめ細かい。
 (社)日本テレマーケティング協会のガイドラインに沿うのはもちろん、夕食の準備で忙しい16時〜18時はできるだけ電話を控える、など一般常識の範囲内で「迷惑」と受け取られないような気配りも欠かさない。また電話した際、先方から「この時間帯は避けてほしい」などの要望があれば、データベースに取り込み、以降の対応に確実に反映するようにしている。
 一方、既存顧客の場合は、データベースを活かして、さらにきめ細かな対応を行っている。電話をかける時間帯をひとりひとりの希望に合わせるのはもちろん、トーク内容もこれまでのサービス利用状況に基づき、その顧客に最も適したサービス・特典などを薦めている。
 同社のアウトバウンドは、既存顧客のつなぎ止めという意味合いも強い。というのも、通信会社は提供サービスが無形であるがゆえに、顧客は自分が利用している通信会社へのロイヤルティを抱きにくい。電話機を買った小売店が、たまたまその通信会社の加入を受け付けていたからなど、新規加入の動機が非常に希薄なのだ。他社に移る際も自発的に移ることは希で、他社の勧誘に誘導されて、という場合が多い。
 同社はこの点も考慮し、データベース・マーケティングに基づきアウトバウンドを展開。「テレコム倶楽部」をはじめとした、同社ならではのメリットを説明し、顧客との関係維持に努めている。利用が途絶えてしまった顧客でも、アウトバウンドによって、その半数以上が利用を再開するという。
 以前、同社がサービス停止希望客を対象にアンケートを取ったところ、サービス利用を停止する理由として、「自分が客だという感じが乏しかった」との意見が目立ったという。やはり、自分が客として扱われているという思いが、その企業へのロイヤルティを生みだし、向上させるのだ。この点でも、顧客ひとりひとりに細心の配慮で働きかけるアウトバウンドは、非常に有効と言える。具体的な数字こそ公表していないが、これらのアウトバウンドはCS面、収益面ともに大きく貢献しているという。

日本テレコムの「テレコム倶楽部」のホームページ(URL:http://service.japan-telecom.co.jp/telecomclub/index.html)

日本テレコムの「テレコム倶楽部」のホームページ(URL:http://service.japan-telecom.co.jp/telecomclub/index.html)

スーパーバイザーが客観的な視点で、対応をチェック

 同社はアウトバウンド専門のテレコミュニケータを擁し、その数は総勢400名を数える。シフト制で実施時間中は常時100名のテレコミュニケータが対応に当たる。前述のように、アウトバウンドは同社の重要な顧客サービス戦略の一つであるゆえ、当然ながらテレコミュニケータの教育にも力を注いでいる。
 5〜7人のコミュニケータに1人のスーパーバイザーがつき、常にその様子をモニタリング。後で顧客との応対の一部始終が記録された録音テープをテレコミュニケータに聞かせ、スーパーバイザーがさまざまなアドバイスを与えている。さらにスーパーバイザーを統括するシニアスーパーバイザーを配置し、誤った判断がなされないよう配慮。常に客観的な視点を失わず、より良い対応を実現できる体制を築いている。
 初心者に関しては、最初から実際に電話器を使ったロール・プレイングを行う。提供サービスごとにスクリプトも異なるため、2週間ほどの研修でコミュニケータとしての技術を確実に習得した上でデビュー。その後もスーパーバイザーがつきっきりでアドバイスを与えている。もちろんアルバイトは一切使わず、全員が契約社員という体制だ。

「テレコム倶楽部」の入会パンフレット

「テレコム倶楽部」の入会パンフレット

ひとりひとりへの丁寧な働きかけで、生涯顧客をつくる

 以上のように、同社の顧客への配慮は非常にきめ細かなものだ。しかし同社のアウトバウンドは「顧客サービス戦略」の一環であり、目的は単にプライバシーを守りつつサービスをアピールすることではなく、その一歩先、顧客との良好な関係を構築することにある。
 「テレマーケティングは一種の営業です。自動音声を使用した発信をされる所もありますが、当社ではテレコミュニケータが口頭でご説明することに意味があると考えます。もちろん効率的に作業できるよう、全自動で電話番号が画面に表示され、それを確認するだけで電話をかけられるシステムを使用していますが、あくまで中心は機械ではなく人です。コストもかかりますが、お客様ひとりひとりに合わせた、きめ細かな対応を最優先に考えています。以前のように『価格が安いから』だけではなく、『日本テレコムだから』という理由で使っていただける生涯顧客をつくることが、当社のCRMですから」(日本テレコム電話事業本部パーソナル営業部 課長 櫻井貴氏)。
 創業時から全社をあげて「お客様第一主義」を貫いている日本テレコム(株)。今後もサービスを充実させるとともに、顧客と直接コンタクトをとれるアウトバウンドを、CRM推進の手段として有効に活かし、カスタマーシェアを獲得していく考えだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2000年8月号の記事