インターネットで“個”客の心をつかむ

鐘紡(株)

マスマーケティングとOne to One マーケティングをミックス

 化粧品メーカー大手の鐘紡(株)は、同社のスキンケア化粧品「フレイア」のユーザーを対象とした会員組織「フレイア クラブ」を1999年7月23日に発足し、従来のマスマーケティングと併行して、インターネットを活用したOne to Oneマーケティングに乗り出している。
 「フレイア」は、1998年9月16日に発売されたばかりの新しいブランド。新保湿成分アクアセリン120など、植物性成分を基本としたナチュラル志向の高い化粧品シリーズである。20代後半から30代の“かわり目肌”の女性がターゲット。同社では、かねてより20代後半が自分のブランドを決定する節目と見て、この年代層へのアプローチを強化したいと考えていた。そこでテレビや雑誌広告などのマスマーケティングに加え、インターネットを利用したOne to Oneマーケティングの展開に乗り出した。インターネットの特性を活かして、顧客がどういう経路でホームページにたどり着き、その後の各段階で、どのような動きを示したかがわかる仕組みを作り、顧客の動向を追ったわけだ。
 まず「フレイア」発売1カ月前の1998年8月16日から、同社ホームページにおいて1万人のモニター募集を告知するとともに、ELLE Japanやマグネットカフェなど女性閲覧者が多いサイトにバナー広告を掲載。同時に同社契約の化粧品店の店頭で無料配布している小冊子「きれいになる本」や、店頭配布のサンプルの取扱説明書を使ってURLを告知した。その結果、約2週間で予定した人数のモニターが集まった。その内訳は、バナー広告からのアクセスが4割、同社の化粧品サイトからのアクセスが6割ほどであった。
 モニターには、同ブランドの化粧水のサンプルを配布。化粧水には脂性肌用、混合肌用、普通肌用、乾燥肌用と4タイプがあるため、応募時にホームページ上でYES/NO設問形式の肌チェックを行ってもらい、その結果に見合ったサンプルを送った。最終的に送ったサンプルの総計は約8,600。
 次に、商品が発売された9月16日からは、ホームページ上で「フレイア」の1週間「日めくりアドバイス」を開始。これは商品のコンセプトである「ワンディリカバリング」に基づき、毎日のお手入れ法を個人用のホームページに掲載し、それを見ながら1週間、効果的なお肌のお手入れができるというもの。このページにアクセスできるのは、インターネットでサンプルを入手したモニターと、店頭でサンプルを受け取ったモニターのほか、店頭でのスキントナー購入者など。店頭配布のサンプルにはボトルにURLを印刷し、「日めくりアドバイス」を案内。インターネット応答モニターと識別できるよう、専用のURLを設けた。
 「日めくりアドバイス」では、初日にサンプルの活用法を紹介。2日目以降は、モニターにサンプルの使用を前提とした質問を投げかけて、その答えに対して商品の特徴を説明したり、美容に関する知識を提供。毎日、使用後の感想を尋ね、モニターの答えを表示するカルテを作成していく。日を重ねるごとにトップページの画面上に描かれた葉っぱの色が変わり、進展状況を伝える仕組みや、1回終了するごとにスタンプを獲得できる仕組みなど、モニターが楽しみながら、サンプルを試せるような工夫が施されている。サンプルを入手した8,600人のうち、約4,000人がこの「日めくりアドバイス」を最後まで行った。
 さらに1998年10月1日から1999年3月末までの6カ月間の期間限定で、ホームページにモニター会員のための「フレイアサポートデスク」を開設し、継続的に会員のフォローを行った。ここでは肌を64タイプに分け、タイプ別に診断し、ユーザーにアドバイスする「カウンセリング」を、「日めくりアドバイス」終了の1カ月後と3カ月後に実施。ここでも履歴を残して変化の過程がわかるようにした。このほか、毎週金曜日の午後3時に「フレイアメール」を配信。ユーザーが週末の予定を立てるタイミングを狙って、美容情報など、ユーザーの共感を呼ぶような情報を提供し、顧客とのつながりを強化。この「フレイアメール」は、バックナンバーも自由に閲覧できるシステムとした。
 ちなみに、テレビCMをオンエアしたのは商品発売から1カ月後の10月16日からであった。

モニター“体験”が顧客を育てる

 「フレイア」のモニター募集から「フレイアサポートデスク」終了までの一連のマーケティングの結果は次の通りである。
 約8,600人のモニターにサンプルを提供。「日めくりアドバイス」への参加者が約4,000人。そのうちの45.9%に当たる約2,000人が、サンプルのお試し後、商品を購入している。モニターの約4人にひとりが購入した計算だ。
 モニターの7割は、もとは他社製品のユーザーであったことから、同社ではインターネットを、まったくの新規顧客をモニター化し、顧客に取り込むのに有効なツールであると評価している。また、「日めくりアドバイス」終了の1週間後と、「フレイアサポートデスク」による半年間に6回のアンケート調査を通じて“ユーザーの声”を直接得ることができたのも大きな収穫だった。これまで行ってきた店頭でサンプルを配り、ハガキなどで回収してきたモニター・アンケートと比較して、自由回答欄の記入が多かったのも大きな特徴。
 従来、実施していた調査では、モニターが途中で使用を止めてしまうなど、情報を十分に収集できないケースも多かった。それに比べ、今回のアンケートでは、着実にモニターの感想や意見を収集することができたという。同社ではこれをインターネットの特性を生かした結果として、自分のデータの履歴をいつでも見られるなど、モニター自身が楽しめ、主体的に参加できる調査の仕組みができあがったためだと見ている。そればかりではなく、体験し、関与していくことでモニターの商品に対するロイヤルティは確実に向上した。

ヒーリング感覚あふれる「フレイアクラブ」のトップ画面。URL:http://kcs.kanebo.co.jp/KC/KCKR/FRFR.htm

ヒーリング感覚あふれる「フレイアクラブ」のトップ画面
URL:http://kcs.kanebo.co.jp/KC/KCKR/FRFR.htm

「フレイア」は、昨年登場したスキンケア化粧品の新ブランド

「フレイア」は、昨年登場したスキンケア化粧品の新ブランド

 モニターのライフスタイルを分析した結果、ターゲット層にもいくつかのタイプがあることがわかった。中心となっているのは、自己表現意欲が高く、理性的で、システマティックな肌のお手入れを重視するタイプであると同社では分析している。
 「フレイアサポートデスク」は3月にいったん終了したが、終了時に止めないでほしいとの要望が高かったことと、1999年10月16日に「フレイア」に新しいアイテムが加わるため、同社ではこれを機に再びモニターを組織化。改めて「フレイア クラブ」を発足させた。
 ここでは、前回の実績と収集した情報を基に、会員限定のサービスとして前回同様の「オンラインサンプリング」「シーズンカウンセリング」「ユーザー参加型コンテンツ」「メール情報配信」などを提供していく。
 また、前回に引き続き、商品の持つヒーリング感覚をイメージさせるイラストを使用した画面構成にするなど、私信風のホームページを用意。毎日楽しめるものにするために、新たに“今日のツボ”“今日の肌診断”などのコーナーを設けた。
 まずは旧会員に新規クラブの発足を告知しながら、前回同様にマス、店頭と連動することで、3万人のモニター獲得を目指す。募集は9月16日から開始している。
 前回は試験的に雑誌や取扱説明書でホームページのURLを告知したが、今回は訴求力の強化を狙い、「フレイアクラブ」がどういったものかをURLとともに案内するなど、モニター募集の手法にも新たな工夫を加えた。
 同社が期待しているのは、インターネットを入口に、商品に共感を得て、店舗を訪れる顧客が増えていくこと。つまり、販売はあくまでも店舗を基幹とし、それを盛り立てる手段としてインターネットを活用していきたい考えだ。
 同社では今後、インフラが整備され、若い世代だけではなく中高齢層にもインターネットが普及する環境ができあがれば、ほかのブランドにおいてもOne to Oneマーケティングを積極的に採り入れていく意向である。


月刊『アイ・エム・プレス』1999年10月号の記事