代表窓口としてのコールセンター
(株)東芝は、新たな時代に適応できる「俊敏な会社」を志向し、1999年4月に社内カンパニー制を導入した。「俊敏な会社」とは、事業環境の変化に素早く対応し、顧客の求める製品・サービスをスピーディーに供給することによって厳しい競争社会に勝ち抜いていく企業のことである。その実現に向けて、従来の事業分野を8つの社内カンパニーと別会社1社に分け、東芝グループに属する社外5カンパニー、そのほかの関連会社321社との連携を強化。それぞれの事業体がそれぞれの専門性を深めつつ、さらに連携し合うことで、専門会社の集団を形成し、“TOSHIBA”というひとつのブランドをかたち作ることを目指している。
こうしたカンパニー制の導入と同時に、企業の代表窓口としては業界ではじめての、フリーダイヤルによる365日、24時間受付体制の「東芝総合ご案内センター」を開設。カンパニー制度の下で、お客様への“開かれた窓口”として、稼働をスタートさせた。
「東芝総合ご案内センター」は、「お客様のひとりひとり、一社一社を大切に」したいという同社の顧客対応の姿勢を具現化したものである。同社では製造業も、モノを作るだけではなく、サービスとソリューションをタイムリーに顧客に提供していかなければ生き残れないとの観点から、従来から顧客満足度の向上に注力してきた。その中で、「東芝総合ご案内センター」が最重要課題に掲げたのが、的確な情報提供と、ビジネスに関しては顧客が求める担当者にいかに確実に、また素早く、電話をつなぐかということである。たとえば、取扱中止の製品に関する問い合わせや、顧客がどこにかけたらいいのかわからないようなクレームにも、責任をもって対応している。ここで顧客に接する電話担当者は、“会社の代表”。同社ではオペレータやコミュニケータといった呼称は使わず、“お客様担当”と呼ぶ。
「東芝総合ご案内センター」は、同社がすでに設置している家電製品の対応に当たる「ハロートウシバ」、修理を受け付ける「お客様相談センター」、パソコンのカスタマーサービスを担う「東芝PCダイヤル」、ワープロのカスタマー・サービスを担う「Rupoインフォメーションセンター」という4つのコールセンターと連携をとり、CTIの技術も駆使して、バーチャルな総合コールセンターを目指している。すべてに対応できるのは、こうした専門のコールセンターと瞬時につながり、あたかもひとつのコールセンターであるかのごとく、引き継ぐことができるからだ。顧客に対しても「転送します」とは言わず、「担当の者に代わります」という表現で接している。
さらに、カンパニー制の導入にともない、これからはグループ内のすべての会社のスタッフが、“東芝”という企業を代表して顧客に接し、顧客をサポートしていくことになる。グループ全体の取扱製品は、家電、パソコン、半導体、部品から人工衛星までと幅広く、顧客層も事業によってまちまち。しかし、ターゲットが重なる部分もあることから、グループ間の連携を強化することで、ある事業の既存顧客を別の事業の新規顧客として確実にとらえていこうというのが同社の狙いだ。
とは言っても、自分が所属するカンパニー以外の事業内容を把握するのは難しいことから、「東芝総合ご案内センター」にこうしたグループ内の営業スタッフをサポートするヘルプデスクの機能をもたせた。現在、グループ内での浸透を進めるべく、「東芝総合ご案内センター」の電話番号の入ったシールを、全社の営業スタッフや特約店に配布中。このシールを手帳などに貼ってもらい、積極的な活用を促しつつ、グループ各社をつなぐ“ビジネス・センター”の構築を目指している。
対面でのコミュニケーションも重視
同社では「東芝総合ご案内センター」を、カンパニー制度の導入と同時に稼働させるため、約半年で立ち上げた。
すでに4つのコールセンターでの実績があったこと、全社の電話を統括するインフォメーション・センターがすでに設けられていたこと、そして自社内にCTI製品部門を抱えていたことから、システムの構築はスムーズに運んだ。
苦心したのは、むしろ組織作り。365日、24時間対応を実現するには、そのための新たな勤務体制の整備が必要。もともと固定化している製造業の勤務体系の中に、サービス業的な観点からこのような勤務体系を折り込むのは容易ではなかったという。
開設に当たっては、センターの設置場所にもこだわった。CTI技術を駆使すれば、確かに距離の制約は解消される。だが収集した情報を活用するためには、社内の各担当者が対面、対話を基本としたコミュニケーションで連携していなくてはならないというのが同社の見解だ。そこで「東芝総合ご案内センター」で収集した顧客の声を社内に確実にフィードバックできるように、経営トップに近く、なおかつすべての社員が立ち寄りやすい場所として「東芝総合ご案内センター」を本社ビルの中心部に設置した。
こうしたコミュニケーションの重視は「東芝総合ご案内センター」のスタッフの教育にも採り入れられている。開設前の2月から電話対応のトレーニングをはじめるとともに、組織と仕事の流れの把握をかねて、全員で各地のコールセンターや事業所を訪れた。現在でも交代で各事業所に出向き、対面でのコミュニケーションを継続。円滑な顧客の引き継ぎに効果が上がっているという。
CTIにはいろいろな機能があるが、同社ではその中から、“お客様対応の向上に役立つ”という目的に適う機能を選んで活用している。たとえば、肉声で電話をかけてこられるお客様には第一声から肉声で応えたいとの考えから、CTIの音声応答による振り分け機能は活用していない。
また、休日の電話にもすべて自社で対応。アウトソーシングでは、緊急な対応が難しいことに加え、顧客の声は報告書を通じてしか見ることができない。同社ではあくまでも、顧客の生の声を実際に聞くことにこだわって、顧客が同社に求めているものを見極め、さらなる顧客対応のレベル・アップを図っていく意向である。
(株)東芝の総合ご案内センターの風景
人とCTI技術との連携
「東芝総合ご案内センター」はCS推進センターに所属している。スタッフは、それまで本社の営業部門に所属していた男性6名と、新たに加わった女性11名。17名でシフトを組み、交代制で電話対応に当たる。コールセンターの席数は最大で16席。受けた電話を担当部門に引き継ぐケースが多いので、回線は46回線設けてある。受け付ける電話の本数は1日平均600件程度。このうち、代表電話にかかってくるものが約350?400件。また、同社には現在はもう使っていない電話番号が2,000回線ほどあるが、その番号にかかってくるものが約100件。そして専用のフリーダイヤルにかかってくるものが100件程度である。電話が多い時間帯は午前中の10時?11時。今のところ、電話の取りこぼしはなく、混雑時にお待たせする時間も1分以内であるという。
システムはナンバー・ディスプレイと連動しており、電話応対時に活用する端末の入力画面には、着信と同時にあらかじめ発信者の電話番号が表示される。顧客対応のための情報源としては、6万7,000人のカンパニー社員全員の電話番号帳や約3,000アイテムの製品データベースなどが整備されている。こうしたデータのサポートがあってこそ、的確な情報提供と着実な電話の引き継ぎが可能になる。同社ではCTIの機能を駆使することによって、“人”を核にした、質の高い顧客対応を実現している。
開設から約2カ月がすぎ、全社の顧客の傾向が徐々に見えはじめた。たとえば、月曜日の朝には前日に放映された東芝日曜劇場についての問い合わせが、同社の決算発表当日には株主からの問い合わせが必ず入る。こうした情報の流れを事前に察知し、「東芝総合ご案内センター」に揃えておくことで、顧客への素早い情報提供を実現している。また、在籍照会などの名目でかかってくる悪質な勧誘の電話も、直接本人につながずに対応に当たることで、本数を減らすなどの効果も上げている。「東芝総合ご案内センター」は、データの一元的な収集・蓄積のほかに、本来の業務に専念できる環境の提供という面でも社内の各部署にメリットをもたらしており、これがやがてはCRMにつながっていくものと、同社では考えている。
「東芝総合ご案内センター」の開設に当たって、同社は1999年3月31日の新聞に広告を出したが、それ以降は特にマスメディアでの告知はしていない。同社では今後、情報データベースの整備など受付体制が整ったところで、フリーダイヤルの告知を徐々に行っていく予定。また、現在、本社営業部門と全国の営業拠点の営業時間外に、留守番電話のメッセージで「東芝総合ご案内センター」の電話番号を案内しており、今後は関係会社営業部門でもこうした案内を展開していきたいとしている。