オフィス消耗品購入に関わるあらゆる無駄を省きトータルな経費削減を実現

コクヨ(株)

ユーザー企業、販売店の業務コスト削減を目的に「べんりねっと」を開発

 コクヨ(株)では、インターネットや企業内で構築されているイントラネット、LANを活用して、販売店が行っている企業ユーザーからの受注をシステム化し、ユーザー企業、販売店の双方の業務コストを削減する、オフィス用品購買ネットワークシステム「べんりねっと」を開発。1997年10月より、サービスを開始している。
 「べんりねっと」の開始には3つの背景がある。ひとつめは、ユーザー企業におけるネットワークを活用したコスト削減ニーズの高まり。2つめは、外資系文具小売業の日本参入。3つめが、パソコンの機能向上と、企業内における情報ネットワークの整備である。
 同社では、1987年より、同社から専門卸店である総括店、販売店までを結ぶ情報ネットワーク「KROS(クロス)」を完成させ、現在では3,500台の端末を稼働させている。「KROS」は、販売店の発注端末であり、メーカーの在庫と総括店の在庫をトータルで管理するシステム。販売店が発注すると、まず総括店にその商品の在庫の有無を照会し、在庫があればそこから、在庫がない場合は同社から商品を配送する。これにより、納期の明示が可能となり、流通、在庫の効率化も実現した。同社では、これと同様の仕組みをユーザー側のシステムに採り入れることを検討したが、当時は企業内のネットワーク環境が未整備だったことに加え、パソコンの能力の限界、コストなどを理由に開発を断念した。
 しかし、ここ数年の間にパソコンの能力が大きく向上。企業内における情報ネットワークの構築も進んだ。また、これにともなって、ネットワークを活用して人件費などのコストを削減したいという新たな企業ニーズが生まれ、景気低迷が続く中で、そのニーズはさらに高まっていったのである。
 一方で、近年、オフィス・デポをはじめとする外資系文具小売業の日本参入が相次ぎ、話題となったことは周知の通りである。文具の流通において日本と米国のそれを比べると、日本ではメーカーが流通を司ってきたが、米国では販売店が流通を司ってきたという違いがある。メーカーにとって、低額、多頻度な文具流通における販売店の価値は大きかったと言える。そこで同社では、リテール・サポートの一環として「べんりねっと」を開始。また、オフィス・デポなどでは豊富な品揃えと低価格を“売り”にしているが、小売り価格はともかく、納品分野での販売価格には大きな開きがあるわけではなかった。そこで同社では、販売店の煩雑な業務をサポートする仕組みをつくり、ローコストオペレーションの実現を目指したのである。

「べんりねっと」の特長

 「べんりねっと」は、消耗品の購入に多大な労力を費やしている大手企業をターゲットにしたシステム。同社の製品だけでなく、競合メーカーの文具や事務機、その他オフィスで必要とされるあらゆる消耗品を取り扱っており、その数は約2万アイテムにも上る。商品の選択から発注、納品、検収、管理に至る一連のプロセスの効率化はもちろん、たとえば、本社はA文具店、支店はB文具店というように、同じ会社でも事業所ごとに異なる販売店と取り引きしていた場合でも、取引先を変えずに利用できるのが大きな特長だ。ユーザー企業にすでにあるネットワークを利用するため、基本的に導入費用はかからない。
 ユーザー企業は、商品や価格が顧客ごとに設定されたオンラインカタログや、希望に応じて作成される紙ベースのカタログを見て商品を選択し、インターネット、あるいはFAXで発注。納品は取引先販売店、あるいはメーカー13社が共同で作った物流会社、紙文機共配(株)から配送される(図表1)。1999年3月末日現在のユーザー企業数は約60社。売り上げは約6億円に達する。
 同社では、1999年2月、日本経済新聞にユーザー事例を記載した広告を出稿した。これにより、「べんりねっと」の認知度が高まっただけでなく、導入を交渉中の企業にも好影響を与えることができた。その結果、ユーザー数の増大と同時に、従業員が1万名を越える事業所が加盟するなど、ユーザーの企業規模も拡大した。

【図表1】べんりねっとのシステム構成

オフィス消耗品の購入コストを20〜30%削減

 何と言っても「べんりねっと」における最大のインパクトはユーザー企業におけるコスト削減効果だ。その削減率は年間購買コストの約20〜30%にもおよぶ。
 具体例を挙げると、東陶機器(株)では、消耗品購入に関する年間コストは、物品購入費6,900万円、伝票処理業務費2,100万円、合わせて9,000万円を要していたが、導入後は物品購入費を500万円削減。伝票処理業務費をフルカットし、合計2,600万円のコストダウンに成功した。また、日本酸素(株)では、物品購入費6,840万円、在庫管理費780万円、伝票処理業務費600万円、紙カタログ費10万円、計8,230万円を要していたが、物品購入費を840万円、在庫管理費を240万円削減。伝票処理業務費と紙カタログ費をフルカットし、合計1,690万円のコストダウンに成功している。
 厳しい経済環境の中で、オフィス消耗品の購入に関わるあらゆる無駄を省き、トータルな経費削減を実現する「べんりねっと」が企業のニーズにマッチし、十二分の真価を発揮しているのだろう。
 また、「べんりねっと」が同社にもたらした効果として、ユーザーの顔が見えるようになったことが挙げられる。従来からのメーカー→総括店→販売店→ユーザーという流通チャネルでは、いつ、誰が、何を、どこで買ったかといった、ユーザーの購買動向をメーカーサイドで把握することは難しかった。
 しかし、「べんりねっと」の開始にともない、今後はこの購買動向を基に製品の製造時期を予測し、お客様の需要と商品の供給のタイミングをバランス良く行っていきたいとしている。

顧客満足度を向上させ販売店との関係を深めるために

 現在同社には、ユーザーからさまざまな要望が寄せられているが、中には新たにシステムの開発が必要なものもある。同社では、今後ユーザーが増えても安定して稼働するよう、システムの強化を図ると同時に、これらのユーザーのニーズに応え、顧客満足度を向上させるためのシステム開発を積極的に推進していく方針だ。
 その一方で、「べんりねっと」の開発にともない、同社と販売店との間に生じた軋轢を解消するという重要な課題もある。そもそも「べんりねっと」はユーザーのオフィス消耗品に関する購入コストを削減するだけでなく、販売店をサポートするために開発されたシステムでもある。ところが、メーカーがユーザーに対して直販を行うシステムだと勘違いしている販売店は少なくない。そこで同社では、「べんりねっと」をさらに大きな事業へと成長させるためには、販売店とのパートナーシップを培い、「べんりねっと」への正しい理解を推進することが不可欠ととらえ、販売店への情報発信に力を入れていく意向である。


月刊『アイ・エム・プレス』1999年6月号の記事