新市場・新規顧客開拓の仕組みとして誕生
昨年で創業50周年を迎えた総合電子部品大手、アルプス電気(株)では、1994年12月1日から、大手メーカーの設計・開発部門を含む小口ユーザーを対象としたB to Bダイレクトマーケティング事業「電即納」を実施している。
同社では、大手電機メーカーを対象に民生機器、通信機器、情報機器などの電子部品を供給しているが、1980年代後半以降、民生機器のセットメーカーを中心にして大量生産品の海外生産への切り替えが相次ぎ、同社の顧客も40?50%が海外に生産の場を移した。そこで、これら海外における需要に対応するため、海外生産拠点と販売拠点の拡大を推進する一方で、国内における新たな市場を切り拓くために、1994年11月1日、技術と営業のスタッフ各10名を配した市場開拓部を設置。新市場・新顧客の開拓、および既存の流通ルートでは十分にカバーできない小口ユーザーへの対応を目的に「電即納」を開始した。
「電即納」の流れは次の通りだ。ユーザーが「電即納」に申し込むと、同社からカタログが送られてくる。カタログはA4判、25ページ。スイッチやボリュームなど2,600品種の製品が掲載されいる。ただし、このカタログには注文に必要な仕様や寸法は掲載されていない。ユーザーはカタログに掲載されているフリーダイヤルでFAX情報BOXにアクセスするか、ホームページにアクセス。カタログ掲載の製品番号をもとに情報を取り出して、仕様と寸法を確認してから注文する仕組みだ。同社では「電即納」開始に当たり、紙媒体をなるべく使わずに、ユーザーが必要な時に必要な情報を取り出すことができる、電子化・自動化された仕組み作りを目指した。そのため事業の開始時からFAX情報BOXを採用、1997年10月からはホームページをそれに加えた。
受注はFAXとWeb上で24時間行っている。FAXによる受注は75?80%。インターネットは20?25%だが増加傾向にある。そこで同社ではより見やすく、使いやすく、注文しやすい画面をユーザーに提供しようと、1999年5月1日に画面をリニューアルした。注文の最低ロットは5個、もしくは10個。一部の地域を除き、16時までの受注については即日発送、翌日には到着する仕組みだ。商品代金は原則的に代引きで回収している。
アルプス電気(株)のB to Bカタログとホームページの注文画面(URL:http://www4.alps.co.jp/)
スピード納期と対応力が鍵
同社の既存の販売ルートは9割が直接取引、1割は代理店経由となっている。基本的に量産品の受注生産であるため、納期は45?60日ほどかかる。しかし「電即納」は、在庫から小口出荷を行うため、エンジニアが即注文でき、かつすぐに手元に製品を取り寄せられるのが特徴。設計・開発の現場では、部品をすぐにでもほしいという要求が高い。短納期でそれに応えることができれば、いちはやく製品を試してもらえるという点で同社にもメリットがある。スピードを競う試作段階で大いに「電即納」を利用してもらい、その情報を営業スタッフがフォローすることで、最終的には量産に結びつけるのが同社の大きな狙いだ。新市場・新規顧客開拓部のスタッフは、現在700社のユーザーとコンタクトを取り、フォローアップを行っている。「電即納」は、小口ユーザーへの対応策であると同時に、既存の販売ルートを支援する、リード・ジェネレーションの役目を担っているのだ。また同時に、新製品を生み出すヒントとなるマーケット情報の収集にも功を奏している。
これまでの同社の顧客の主流は大手電機メーカーであり、既存の流通ルートでは大口顧客を中心としたサービスに重点が置かれ、小口顧客に対してのサービスは必ずしも行き届いていなかった。けれども、小ロット・短納期を可能にした「電即納」によって、ターゲットとなる市場は大きく拡がった。現在、国内生産比率が高いのは、たとえば、医療機器やガス・電気・水道などのライフ・ライン機器、セキュリティ機器といった特殊な分野である。これらを取り扱っているのは大手企業であっても、機種別に見れば比較的小口の需要であるケースが多い。同社ではこうした小口市場に対応することによって、新規顧客を開拓するとともにユーザーの満足度を高めていきたい考えだ。また同社の代理店15?16社においても、小口ユーザーには対応仕切れないため、「電即納」を活用、あるいは顧客に「電即納」を紹介する動きもみられる。
同社では、「電即納」をより多くのユーザーにより便利に利用してもらうため、自社製品のみならず、エレクトロニクス製品には欠かすことのできない半導体部品をはじめとする他社製品もカタログに掲載。品揃えが多いほど使われるチャンスが拡がることから、パートナー会社15社と契約してカタログに製品を掲載し、同社が販売を請け負っている。カタログ掲載商品の約50%はパートナー会社のものである。こうすることで、同社ではユーザーが必要とする部品の6?7割をカバーしたい考えだ。パートナー会社の中には同社と競合する製品を扱う会社もあるが、同社では共存共栄の構えをとっている。このような方針によって、ユーザーにとっては、従来、東京の秋葉原や大阪の日本橋などで部品をかき集めていた手間を省くことができるというメリットが生まれている。
「電即納」のユーザー数は6,000社以上。そのうちの約2,000社がリピーターとなっている。現在、ユーザーは毎月50?60社の割合で増加中だ。ユーザーの40?50%が企業の試作・開発部門、25?30%が小口を扱う量産メーカーである。所在は北海道から沖縄までと幅広いが、60%が関東近辺に集中しているという。
新規ユーザーの開拓に当たっては、開始当初に3回ほど、電機メーカーなどに向けてダイレクトメールを打ったほか、日本経済新聞、日刊工業新聞、電波新聞や技術系情報誌への広告掲載や、エレクトロニクス・ショーでのカタログの配布を行っている。開始から4年経ち、認知度も高まってきたことから、同社ではこれまで4月と10月の年2回だったカタログの発行頻度を、次回から年1回に変更する。次回のカタログ発行部数は1万部を予定している。
FAX情報BOXの場合には、BOX番号を入力して仕様書と注文書を取り出す
ユーザー環境に適した仕組み作りを目指す
「電即納」の目的は、あくまでも新市場・新規顧客開発にある。そのため、同社では「電即納」の効果をそれ自体の売上高だけではなく、量産化にともなう売上寄与額で測っている。売上寄与額は売上高の3?5倍に相当し、開始当初から約4.5倍の伸びを示している。
さらに「電即納」で小口取引の在庫管理とスピード配送のノウハウを得た同社では、量産品の販売にも通販を導入。それが1997年11月からはじめた「パーツ工房」だ。「パーツ工房」のカタログはA4判、約270ページ。年1回の発行で、号当たりの発行部数は3,000部。「電即納」とは異なり、このカタログには仕様・寸法まですべてが掲載されており、取り扱いは同社製品のみ。「電即納」が標準化された製品のみを掲載し、3日以内の配達を基本としているのに対して、こちらは受注生産のため、ある程度のカスタマイズはきくものの、納品には約1カ月ほどかかる。だが通常の販売ルートと比べれば、短納期が実現されている。また、ある程度まとまった量の製品を取り引きする通常の企業間取引では、最初の取り引き時に与信が必要なため手続きに時間がかかっていたが、「パーツ工房」では代引きや銀行振り込みを採用しているため、こうしたプロセスを省略できる。ユーザーが思い立ったらすぐにでも取り引きが開始できるわけだ。
「電即納」や「パーツ工房」は、これまでも小口化するユーザーの要望に応じてきたが、今後はこれをさらに推進、汎用品の品揃えを広げたり、部品の組み合わせを変えることでカスタマイズしたユニットを提供するなど、サービスの幅を広げ、ユーザーの満足度を上げていきたい考えだ。また将来的にはインターネット上での電子決済も計画。
このほか、現在は「電即納」を国内のみで実施しているが、いずれは欧米でも、その地域に適した仕組みに組み替えて実施したいとしている。