“頭脳”と“手足”が一体となったデータベース・マーケティングを推進

横浜銀行

97年12月にセンターを一新

 横浜銀行が「ハローサービスセンター」の名称でコールセンターを構えたのは1991年のことだ。以来、ローンや年金に関する相談を受け付けるインバウンド、年金振替指定口座の獲得やメイン化推進のためのアウトバウンドを16席で実施してきた。
 さらに約2年前からデータベース・マーケティングの研究を進めてきた同行では、1997年12月16日、この考え方を基盤にコールセンターを刷新。名称も「ダイレクトバンキングセンター」と改めた。旧「ハローサービスセンター」の業務を引き継ぎ、これを拡大するとともに、従来は「残高照会センター」で行ってきた照会業務、さらに98年1月19日にスタートした「はまぎんテレフォンバンキング」を、すべてこのセンターに集約した。席数は約100席、使用回線はINS1500が5回線、ほかにアナログ回線を約40回線設置している。20人の行員、130人のパートがシフトを組んで、電話対応、および資料送付などの業務に当たっている。
 「ダイレクトバンキングセンター」スタートの背景には、「顧客をマスでとらえるだけでなく、これまで以上に的を絞った営業活動を行っていく必要がある」(個人部 ダイレクトバンキングセンター 主任調査役 大川和彦氏)との認識がある。横浜銀行の本拠地、神奈川県は、銀行の激戦地区。競争に勝ち抜くためには、ひとりひとりの顧客に目を向け、的確な顧客に、的確なチャネルで、的確な情報を提供する必要があるのだ。また、データに裏付けられた科学的なマーケティングを展開することによって、営業コストを最小限に抑えるという狙いもあった。
 同行ではまず、データベース・マーケティングの核となる顧客データベース、MCIF(Marketing Customer Information File)を構築し、これに顧客の属性、取引状況、コミュニケーション履歴などを集約。さらに勘定系データベースも1日単位でアップデートし、常に最新情報を画面で確認しながら会話を進められる環境を整えた。キャンペーン結果を即座に集計・分析するのも、このMCIFの役割だ。
 使用システムは同行と日本NCRが共同開発した「統合型コールセンターシステム」(P.30参照)。その名の通り、インおよびアウトバウンド業務、さらにデータベースを統合するシステムで、インかアウトかにかかわらず業務間のスムーズな連携化を可能にしたのが最大の特長。たとえば「テレフォンバンキング」で取り引きを済ませた顧客が、ローンについての相談もしたいという場合に、そのまま相談業務の担当者に、顧客情報とともに電話を引き継ぐことができる。ちなみに同行ではこのシステムを、全国の地銀に向けて販売していく意向だ。
 MCIFと「統合型コールセンターシステム」によって、まさに「“頭脳”と“手足”が一体となった」(大川氏)コールセンターが実現したのである。

【アウトバウンド】
顧客接点を拡大

 横浜銀行「ダイレクトバンキングセンター」ではアウトバウンド業務のために30席を確保し、月間約5万件を発信している。アウトバウンド・テレマーケティングを個人顧客に対する渉外力低下を補う施策と位置付け、営業店と密に連携をとりながら、取引拡大、脱落防止のためのさまざまなアプリケーションを展開中だ。具体的には①定期預金満期のお知らせと継続のお願い、②給与振込の口座指定のお願い、③年金振込の口座指定のお願い、④公共料金自動振込の案内、⑥「テレフォンバンキング」の案内などだ。
 「ハローサービスセンター」時代には平日の午前10時から午後5時までに限って実施していたが、今年からは業務を土・日曜日まで拡大した。高齢者を対象とした年金振込口座指定の案内などについては平日の日中でも十分な効果が得られるが、ビジネスマンもメイン・ターゲットとなる「テレフォンバンキング」の案内などは、休日でなければなかなか手応えが得られにくい。実際、本人到達率は、平日が約40%であるのに対して、土・日曜日では約60%に上っている。顧客の反応も上々だ。1月24日(土)と25日(日)の両日、約600人の顧客に電話をかけ、休日に電話がくることについてどう思うかを聞いたところ、70%以上の顧客が「あまり頻繁でなければ歓迎する」と回答。「迷惑だ」という声は6%にとどまったという。
 セールス効果も期待通りに上がっている。たとえば年金振込指定口座はコンスタントに月に1,200〜1,300件が獲得されており、これは全国193カ所の営業店の窓口での獲得件数の合計に匹敵する。同行では今後、キャンペーン結果から、どのような顧客がどのようなパターンで取り引きを拡大していくかを分析し、効果的なクロス・セリングのシナリオを組み立てていきたいとしている。
 しかしアウトバウンド・テレマーケティングに期待されているのは、ローコストのセールス・チャネルとしての役割ばかりではない。顧客接点を拡げ、顧客とのコミュニケーションの密度を高めるために、「たとえば新年のごあいさつや、『誕生日のプレゼントをご用意しましたから、ご用のついでに窓口にお立ち寄りください』といった電話など、セールス色のないアウトバウンドにも、セールスと同じくらい力を入れていきたい」と大川氏は語る。
 セールス効果を高めるためにも、顧客に“待たれる”対話の設計が求められているのである。

【テレホンバンキング】
日本全国からフリーダイヤルで取り引きOK

 同行では98年1月19日、「はまぎんテレフォンバンキング」をスタートした。店舗配布のパンフレットやアウトバウンド・テレマーケティングで周知を図ってきた結果、月に約1,000人ずつ契約者が増え、3月末現在の契約者数は約3,500人。
 サービス内容は①同行本支店、および金融機関への振込、②定期預金の作成・解約や内容変更、③登録預金口座間の振替、④登録口座の残高照会・入出金明細照会と、⑤各種照会・相談・資料請求。利用には事前に契約が必要だが、キャンペーン期間中の1999年3月末までは契約料はかからない。契約者は平日の午前9時から午後9時まで、土・日曜日は午後5時まで、全国どこからでもフリーダイヤルでサービスを受けることができる。休日は12月31日〜1月3日と5月3〜5日だ。
 都銀の中にはテレホンバンキングの24時間化を推進する動きもあるが、同行では「すぐに現金が必要になった時のためにATMの24時間化には意味があると考えるが、現金引き出しのできないテレホンバンキングの24時間化にどれだけニーズがあるかは疑問」(大川氏)とし、これに対しては慎重に検討していく意向。ただし現在、社員をモニターとしてインターネット・バンキングの実験中で、こちらは年内にも本格稼働させる計画だ。
 開始当初は1日当たり5〜6件だった取引件数は、2月には平均20件に、3月には平均40件にと急激に増加している。「一度体験して利便性を実感した人は、繰り返して利用する」(大川氏)ため、リピート率は非常に高いという。4月からは全店を挙げて契約促進キャンペーンを実施しており、98年中の契約獲得目標は10万人だ。これに対応できるよう、「テレフォンバンキング」用には20席が割り当てられている。
 同行では年内に、「テレフォンバンキング」で投信、および外貨預金の取り扱いを開始する予定。また、現在はリアルタイムでは連動していない勘定系のホスト・コンピュータとの接続を図り、「テレフォンバンキング」の利便性を一層高めたいとしている。

「はまぎんテレフォンバンキング」のパンフレット

「はまぎんテレフォンバンキング」のパンフレット

横浜銀行のダイレクトバンキングセンター

横浜銀行のダイレクトバンキングセンター

【インバウンド】
個別の相談に専門家が対応

 「ダイレクトバンキングセンター」では、このほか各種相談、問い合わせ、資料請求などをインバウンドで受け付けている。
 このうち年金に関する相談に応じる「年金デスク」とローン相談の「ローンデスク」は、平日の午前9時から午後5時までの受け付け。詳しい専門知識を備えた行員と、社会保険労務士などの専門家、合わせて8人が、顧客、および見込客から寄せられるさまざまな相談に、それぞれ専用のフリーダイヤルで対応している。電話番号は店舗で配布するパンフレットや、各店が月1回開催する「年金教室」などで告知。「年金デスク」「ローンデスク」ともに、1日約40件の相談がある。午後5時から9時の間に「テレフォンバンキング」などの担当者が電話を受けた場合には、電話番号を承り、翌営業日に担当スタッフから電話をかけ直す。それ以外の時間帯は、受付時間を案内するメッセージを流している。
 さらに「テレフォンバンキング」をはじめとする各種商品・サービスの問い合わせには別のフリーダイヤル、「ハローサービス」で対応している。資料請求とローンの申し込みについてはFAXと音声自動応答装置により24時間体制で受け付ける「いつでもダイヤル」も併設されている。こちらは一般加入回線での対応だ。
 また、旧「残高照会センター」から引き継いだ照会ダイヤルは、平日午前9時から午後5時までの受け付けで、法人を中心に1日約9,000件、年間約100万件の問い合わせがある。常時24人のスタッフが業務に当たっているが、話し中はほとんどなく、応答率は98%に上っているという。

地域のリーディング・バンクとして

 横浜銀行は顧客数約640万人、約1,000万口座、預金高約9兆2,052億円を擁するわが国最大の地銀。しかも首都圏を本拠地とする同行のライバルは、ずばり都銀だ。都銀との競争における同行の切り札は、地銀だけが発行できるバンクカード。これは①キャッシュカード機能、②ショッピング、キャッシングに使える国際クレジット機能、③口座残高を超える引き落としに対して自動的に融資をする立て替え型ローンカード機能に加え、④ショッピング利用額に応じたキャッシュバックが受けられる1枚4役のカードである。
 同行が発行する「横浜バンクカード」の会員数は、現在、約70万人。これらの会員はとりも直さずコアとなる顧客層だ。同行が推進するデータベース・マーケティングのコア・ターゲットも、やはりこれらの会員だろう。同行では、たとえばカード会員には「テレフォンバンキング」の取引手数料の割引を提供するなど、バンクカードの付加価値をさらに高めることによって、コア顧客のロイヤルティを向上させていきたいとしている。
 地域のリーディング・バンクであり続けるために、MCIFに蓄積されたデータがどのように有効活用されていくのか。今後が大いに注目される。


月刊『アイ・エム・プレス』1998年5月号の記事