“Single Point of Entry”を推進する lBM ClC (Customer Information Center)

日本アイ・ビー・エム(株) 

IBMの総合案内窓口「ダイヤルIBM」

 日本アイ・ピー・エム(株)では、1980年代から、顧客や見込客の問い合わせに応えるさまざまな窓口を設置していたが、92年以来、ひとつの電話で多様な問い合わせに回答する「Single Point of Contact」をコンセプトに窓口の統合化を推進してきた。それまで窓口は製品ごと、あるいは顧客か見込客かといった対象別に細分化されていたが、お客様の問い合わせの目的は必ずしも単一ではなく、また、ひとつの製品の知識だけでは解決できない問題も多い。そこで入口をできるだけ1本化することによって、あらゆる要望や問題点にその場で対応する体制を整え、お客様の満足度の向上を図ったのである。
 同社では総合窓口として92年4月に「ダイヤルIBM」を設立。ここで相談内容を聞いた後、いったん電話を切り、その内容を「LOGシート」に記入して担当の技術グループに手渡し、回答をコールバックするという対応方式をスタートさせた。だが、特に当時は窓口利用者の大半が忙しいビジネスマンだったこともあり、コールバックしても相手がつかまらないという事態が相次いだ。何度も電話しているにもかかわらず、「いつまでも電話がかかってこない」という苦情が多発する。
 そこで94年、自社開発のCTIシステム「Call Path」を導入し、ワンストップ方式に切り替えた。「ダイヤルIBM」の入口にVRS (Voice Response System:音声応答システム)を設置し、まず利用者自身に問い合わせの目的や製品名をプッシュボタンで入力してもらう。これによって、直接、担当グループに電話が転送され、その場で回答することが可能になった。「Single Point of Contact」のコンセプトを超えて、ほしい情報にストレートにアクセスできる「Single Point of Entry」が実現したのである。オペレーターは対話内容をその場で端末に入力。これが自動的にCTIシステムのデータベースに蓄積される。さらにNotesベースの知識データベースを構築し、オぺレーターがこれを参照しながら対応に当たることによって、通話時間を短縮すると同時に、均質な対応を実現した。ここで応えられない相談には、バックに控える製品担当技術者が応じる。それまでの対話内容が画面ごと転送されるので、ユーザーは同じことを繰り返して伝える必要がない。
 これによって、94年に約1万件であった回答件数は、翌年には約3万件までアッフした。

騒音レベルは図書館並み。自の前に所狭しと置かれたパソコンを操作しながら、お客様の質問に具体的に答える「PCヘルプセンター」のスタッフ

騒音レベルは図書館並み。自の前に所狭しと置かれたパソコンを操作しながら、お客様の質問に具体的に答える「PCヘルプセンター」のスタッフ

“Windows95ショック”に対応して窓口を分散

 しかし、95年秋、「Windows95」の発売がアナウンスされると同時に回答件数は2万件強にまで落ち込んでしまった。これを、プロダクト・サポート&サービス事業部 お客様相談センター SPOE推進 中尾健治氏は「Windows95ショック」と表現する。コンピュータの初歩的な専門用語すら解しない初心者層からの問い合わせが増加したために、平均通話時間がそれまでの20分から一気に倍の40分に膨れ上がり、その結果、受付可能コール数が激減したのである。
 そこで同社では、購入直後の顧客を対象に、セットアップについての問い合わせ専用の「PCヘルプセンター」を開設した。初心者からの質問は、ある程度の類型化が可能だ。これに専門に応える部隊を組織することで、応対時間を短縮し、同時に「ダイヤルIBM」の混雑を緩和することがその目的であった。これによって2つの窓口の受付コール数は96年には3万5,000件に回復。97年は4万5,000件に達する見込みだ。2つの窓口を合わせた現在の平均通話時間は約15分。受付時間帯は「ダイヤルIBM」が土・日・祝日、および年末年始、6月17日(同社の設立記念日)を除く午前9時から午後6時まで、「PCヘルプセンター」が毎月第2日曜日と年末年始を除く午前10時から午後6時までである。
 ほかに自動応答のFAXサービスに寄せられる問い合わせ件数が年間約2万5,000件、インターネットのホームページでの問い合わせ対応が約2万5,000件であるから、これらを合わせると同社では1カ月に約10万件の問い合わせに対応していることになる。
 現在、2つの無償窓口に寄せられる電話の対応に当たるのは200~300人の技術スタッフ。その約1/3が同社の社員だ。「社員の割合はどの企業のサポート窓口よりも高いだろう」とお客様相談センター 企画・管理担当 副部長の菊池伸明氏は言う。残りの2/3は関連会社と、ソフトウェアのデイベロッパーの社員。いずれもスペシャリティの高いスタッフばかりだ。業務は神奈川県川崎市にある2カ所のセンターで集中して行っている。
 最も混み合う月曜日の午前中を除いては、「通常は1回、少なくとも2回に1回は電話がつながる」(中尾氏)状況。回答件数が現在の約1/4であった94年当時と比較して、スタッフ数は約2倍強にとどまっている。コールはシステムによって空きオペレーターにのみ光の点滅で知らせるため、センターの騒音レベルは図書館並みの50デシベル以下だ。
 問い合わせの中で緊急な対応が必要と判断された事柄については、お客様相談センター、業務改革推進部門、製品企画部門、マニュアル作成部門の責任者を交えたバイタル・ミーティングの席上で報告される。このほか“重要”と思われる事項については、随時、経営トップや担当部署に報告され、製品やマニュアルの改善に生かされていく。
 利用者の満足度については、日々、調査が実施されている。前日に電話サポートを利用した人の中から無作為に一定数をサンプリングし、IBMグループの全世界共通の指標に基づいてアウトバウンドのテレフォン・リサーチをかけているのだ。当然、そのリサーチ結果の反映もスピーディである。

有料相談窓口「PCサポートライン・サービス」

 同社の電話によるヘルプラインは現在、大きく7つがある。
 B to Bでは、オフコンのAS/400専用の「AS/400電話相談」とワークステーションの問い合わせを受け付ける「POWERダイヤル」、ディーラー向けの「特約店ホットライン」、ビジネス向けの有料サポートを提供する「アンサーライン」がある。そしてB to Cでは前述した2つの窓口のほかに、有料サービスの「PCサポートライン・サービス」が設置されている。
 「PCサポートライン・サービス」では、操作方法の説明のほか、新製品の案内や、他社製ソフトウェアのサポートまでを提供しており、受付時間帯は第2日曜日と年末年始を除く午前10時から午後6時まで。企業内エンドユーザ一、小規模LANユーザー、個人ユーザーで料金は異なり、最も料金の安い個人ユーザーの契約料は年間問い合わせ件数10件までの場合で2万円。
 「PCサポートライン・サービス」に加えて今年9月からは、別途、同社製品購入者の組織化を開始している。これまでユーザー登録者情報は、個別に新製品情報をE-mailやダイレクトメールで配信するという方法でのみ活用されており、サポート体制とは連動されていなかった。そこでインターネットの電子メールアドレスを持っていることなど、一定条件を満たすユーザーを「CLUB IBM」会員として組織化し、会員専用の電話サポートをはじめとする特典を付与する試みをスタートしたのだ。現在、この登録は無料であるが、将来的には有料化を検討していきたいとしている。
 菊池氏は、「障害対応についてはコストをメーカーが負担するのが当然。しかし“家庭教師”はそもそも有料のものだ」と指摘する。サポートにかかる費用は商品価格に転嫁せざるを得ない。むしろ価格の高い高性能機種を何台も購入する“上級者”ほど技術サポートを必要としない場合が多く、現状のサービスのあり方では必ずしも“良いお客様に良いサービスを提供する”ことができないと同社では考えているのである。
 これまでもユーザーのニーズに合わせ、受付体制を柔軟に変容させてきたお客様相談センターは、今また次の変革に向けて、新たな一歩を踏み出そうとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』1997年12月号の記事