加熱しない生詰めワインを、会員に直販 vino club(ヴィノクラブ)

カーブドッチ ワイナリー

欧州方式で“本物”のワインづくりを

 鹿児島県に生まれ、西ドイツ国立ワイン学校で学んだ落希一郎氏が、ぶどうづくりに最も適した土地を求めて新潟県巻町に「カーブドッチ ワイナリー」を設立したのは、1993 年 10 月。これに先立ち、同年 3 月から、ぶどうの苗木のオーナー制度「ヴィノクラブ」の会員募集を開始した。
 ワイナリーでつくられるのは、原料にこだわり、混ぜものをせず、加熱殺菌せずに仕上げる生詰めワイン。「ワインづくりは農業そのもの」と言う落氏が、ぶどうの栽培から醸造まで一貫して、責任を持ってつくり上げる。
 「ヴィノクラブ」は、ぶどうの苗木がやがて実をつけ、ワインになる過程を自分の目で確かめ、ワインに関する正しい理解を深めてほしいという想いから生まれた制度。1 万円の入会金を支払って会員になると自分の苗木が決まり、その後 10 年間、1 本ずつワインがプレゼントされる。10 年間という期間を設定したのは、本当にワインを知ってもらうためにはそれだけの年月が必要だと考えたからだという。
 その間、会員はいつでも好きな時にワイナリーを訪れ、自分の苗木と対面し、会員専用のゲストルームでワインを試飲することができる。また、苗植え、ぶどう摘み、仕込みに参加し、ワインづくりを体験できるほか、各地でオーナー同士の交流会も開催されている。
 生詰めワインは加熱していないため、出来上がった後の取り扱いが重要。この点からも、既存の流通経路を通さず会員に直送するシステムは有効だ。年間に生産される約 10 万本のワインのうち約 8 割は、ワイナリーを訪れた人に、あるいは通信販売でといったように、直接エンドユーザーに販売されている。
 残りの 2 割は全国約 100 の酒販店に卸しているが、取引開始に当たっては、店主と会ってワインに対する考え方を聞き、店舗を訪れて適切な保管を徹底できるか否かの確認を怠らない。取り引きしている店舗の大半は、冷蔵保管設備の整った日本酒専門店であるという。

ワイナリーには年間何十万人もの人が訪れる

ワイナリーには年間何十万人もの人が訪れる

ヨーロッパの文化を伝える

 ワインの理解者を着実に育てていきたいとの考えから、同社では現在、「ヴィノクラブ」会員の拡大策は特に講じていない。パンフレットは問い合わせのあった人にだけ送付し、年間約 12 万〜 13 万人の見学者が訪れるワイナリーにも常備していないという。それでも会員の紹介による入会が多く、会員はコンスタントに増え続けている。
 同社では特に通信販売のカタログなどは作成していないが、会員には年 3 〜 4 回、B5 判 8 ページの会報誌「ワインのひとりごと」が届けられる。内容はワインの出来具合、イベントの案内、ワインの頒布会のお知らせなど。
 問い合わせはワイナリーのほか、神奈川県鎌倉市にある事務センターでも受け付けている。ワイナリーは年中無休で午前 9 時から午後 6 時まで対応が可能。事務センターの受付時間帯は平日の午前 10 時から午後 5 時まで。11 月にはインターネットのホームページを設けて、E-mail でのワイン申込受付も開始した。
 会員数は現在、約 9,000 人。男女比は約 4:6 で、年齢的には 30 〜 40 代が中心。居住地域では新潟近県と首都圏が多い。
 イベントの参加者数は、たとえば収穫祭では約 500 人。会員以外も参加できる催しも多く、随時開催しているクラシックなどのコンサートには約 200 人が集まる。「ぶどうの枝のクリスマスリース」「ポプリの作り方とアレンジメント」などの小規模なセミナーも実施している。最近、敷地内にカフェテリアをオープンしたが、ここでも平日の昼間などに、「イングリッシュティーの楽しみ方」などの催しを行っていきたいという。イベント開催の目的は、単なるエンターテインメントではなく、“ワインのある暮らし”やヨーロッパ文化の提案だ。
 ぶどうの収穫量が限られている以上、ワインの生産量にも限界がある。「ワインをたくさん売りたいと考えているわけではないんです」。落氏は何度もそう繰り返した。
 「ヴィノクラブ」は、ワインが熟成するようにじっくりと時間をかけて、生産者と会員間の信頼関係をはぐくもうとしている。

会員は好きな時にワイナリーを訪れ、自分の苗木と対面。ぶどう摘みなど、会員向けのイベントも催される

会員は好きな時にワイナリーを訪れ、自分の苗木と対面。ぶどう摘みなど、会員向けのイベントも催される

「ヴィノクラブ」の入会案内パンフレット

「ヴィノクラブ」の入会案内パンフレット


月刊『アイ・エム・プレス』1997年1月号の記事