コンタクトセンター最前線(第148回):迅速かつ正確、丁寧な情報提供で食の安全に対する社会的な関心の高まりに対応

エバラ食品工業(株)

調味料食品メーカーのエバラ食品工業(株)は、お客さまの問い合わせなどに対応するコールセンターの「お客様相談室」を運営。食の安全に対する社会的な関心の高まりを受け、迅速かつ正確で、丁寧な情報提供に注力すると同時に、お客さまの声や蓄積されたノウハウを社内他部門にフィードバックする取り組みも積極的に展開している。

「焼肉のたれ」「浅漬けの素」など数々のヒットを飛ばす

 調味料食品メーカーのエバラ食品工業(株)は、1958年の設立当時、ソースやケチャップを製造していたが、1968年に「焼肉のたれ」、1978年には「黄金の味」、1991年には「浅漬けの素」を発売。テレビCMなど広告宣伝も積極展開し、多くのヒット商品を生み出してきた。現在は、「肉まわり調味料群」「鍋物調味料群」「野菜まわり調味料群」などの各カテゴリーにおいて家庭用商品を製造・販売するとともに、ラーメンスープやがらスープなどの業務用商品も製造・販売している。
 横浜市西区にある本社の下、全国各地に支店や営業所などの営業ネットワークを構築。生産拠点は、栃木工場(さくら市)、津山工場(岡山県津山市)、群馬工場(伊勢崎市)の3カ所に構えている。2013年3月現在の従業員数は468人。2013年3月期の売上高は424億8,600万円に達しており、うち家庭用商品が8割、業務用商品が2割となっている。
 同社において、お客さまからの問い合わせの電話などに対応する「お客様相談室」が開設されたのは、1994年のこと。当初は、家庭用商品に関するコールに限って受け付けていたが、その後、業務用商品に関するコールへの対応を開始。また、2010年からは、公式Webサイトの専用フォーム経由でeメールの受け付けも開始した。
 なお同社では、経営トップ直属の品質保証部に、お客様相談室を運営するお客様相談課と、品質管理課を置いている。この2つの課が、製造部門や商品開発部門など他部門とも連携しながら、品質管理や商品の改善などに取り組んでいる。

インハウスの「お客様相談室」にコミュニケータ4人が在籍

 お客様相談室は、開設当初からインハウスの形態で運営されており、本社内に置かれている。スタッフは6人で、お客様相談課長をはじめとする2人の社員が、センター運営全般のマネジメントや二次対応業務などに従事。一次対応に当たるコミュニケータは30 〜40代の派遣社員4人。全員が女性で、スーパーバイザーなどの役職は設けていない。
 コールセンター・システムは、富士通(株)製を使用。2013年9月には、それまでのシステムをリプレイスし、富士電機ITソリューション(株)の「CS Stream」を導入。従来のオンプレミス型に代わって、クラウド型のシステムを採用し、コールやeメールなどの対応履歴を一元管理している。このほか2003年には、通話録音システムを導入、全件を録音している。
 電話回線は、家庭用商品向けに4回線、業務用商品向けに2回線を確保しているが、通常は家庭用商品向けに2回線、業務用商品向けに1回線を使用。
 電話番号は、家庭用商品向けと業務用商品向けに、それぞれ1番号を使用している。
 前者の番号としては、2005年からNTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルを採用しており、番号は下6桁が「8929-70」で「焼肉七輪(ヤキニクシチリン)」の語呂合わせ。公衆電話からのコールは受け付けていないが、これは緊急かつ重要なコールが何らかの理由によって通話途中で切れてしまった際に、お客様相談室側からかけ直すことが困難であるなど、運営上の理由からの判断という。
 コール受付時間は、同社営業日の午前9時から午後5時まで。ただし、コミュニケータの勤務シフトの状況によっては、昼食時間帯に休止し、留守番電話で対応することもある。
 土日や祝日は休業日となるが、年末年始やゴールデンウィークの休業期間が平日で連続5営業日を超える場合については、休業期間中、センター業務をアウトソーシングし、お客さま対応を継続する場合もある。
 なお、受付電話番号は商品ラベルなどに記載しており、ラベルにスペースが確保できれば、受付時間なども極力、併記。家庭用商品向けの受付電話番号に限っては、同社の公式Webサイトでも告知している。

最近は原材料に関する照会のコールが増加

 お客さまからの問い合わせなどの受付件数は、年間約7,000件。年間を通じて受付件数はほぼ一定しているが、気温が高くなり、食中毒への対策が必要となる6月にやや増加する傾向がある。
 問い合わせなどを寄せるお客さまの属性を見ると、男女の比率は、7対3で女性が多い。年代別では、50代が最も多く、以下、40代、60代、30代、70代、20代の順。中高年の女性層が多いことも影響してか、受付チャネル別では電話が9割を占めており、eメールは残る1割にとどまっている。
 商品分野別では、家庭用商品に関する問い合わせなどが9割を占めており、業務用商品は1割と少ない。家庭用商品の場合、お客さまが購入した店舗に問い合わせるケースも若干あるが、その場合には、店舗から連絡を受けた同社の営業担当者が一次対応を担う。この場合、営業担当者が社内イントラネット上にある所定のフォームに入力すると、お客様相談室に問い合わせなどの内容が共有される仕組みになっている。
 内容別では、「問い合わせ」が最も多く約8割。「不満」「苦情」がこれに続き、以下、新商品のアイデア提供など「意見・提案」、商品や応対に対する「賞賛」となっている。
 より具体的な内容を見ると、例えば問い合わせでは、特定の商品の購入を希望する一般のお客さまが、最寄りの取扱店舗を照会するケースが目立つ。同社では、各商品を販売する全国の小売店の情報をデータベース化しており、コミュニケータは手元の端末でこれを参照すると同時に、実際に各店舗に在庫状況を問い合わせるなどして、こうした問い合わせに対応している。近所に取扱店舗がない場合などには、コミュニケータが注文を受けて商品を発送するサービスも提供しているが、発送のオペレーション上、ケース単位でしか注文を受けていない。そこで、1個単位の小口注文の場合には、2012年にインターネット・ショッピングモールの「楽天市場」に開設した「エバラオンラインショップ」の利用を薦めている。
 このほか、お客さまの商品の安全性についての関心は高く、2011年の東日本大震災の直後には、福島第一原子力発電所の事故が商品の安全性に及ぼす影響に関するコールが増加。また、2012年に東京都内の小学校で給食が原因とみられる女児のアナフィラキシーショック死が報道されて以降、食物アレルギーの子どもを持つ母親や、学校給食の関係者からの原材料を照会するコールが増加しており、品質管理課とも連携しながら、こうしたコールにも対応している。
 このようにお客様相談室は、食物アレルギーなどに関する問い合わせなど、間違いの許されないコールへの対応を担う一方で、メーカーである同社にとっては数少ない一般のお客さまとの接点でもある。そこでオペレーションにおいては、迅速さ、正確性を強く意識しながら、お客さまから「ありがとう」と感謝の言葉をいただけるような丁寧で親切な応対を心掛けている。

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横浜の本社内に設置された「お客様相談室」は、同社社員、派遣社員により、インハウスで運営されている

社内イントラにアップするお客さまの声の閲覧件数をKPIに

 センター運営の代表的なKPIとしては、例えば、アバンダン率を20%に設定しており、ほぼ達成できている。
 このほか、センターの運営状況を経営層や社員に共有する社内イントラネット上のコンテンツの閲覧件数も、KPIとして採用。イントラネット上には、2週間に1回の頻度で、お客さまから寄せられたナマの声のうち全社で共有すべきものの詳細をアップ。更新のたびに全社員にeメールで告知していることもあり、大多数の社員が、月に1回以上のペースで閲覧している。
 このほか、2013年8月からは、「お客さま満足アンケート」を新たにスタート。コールを寄せたお客さまに対し、応対の最後にアンケートへの協力を求め、承諾が得られた場合、随時、依頼状や回答用の返信はがきを同封した封書を送付している。回答については、2014年3月末の時点で集計する予定で、こうした結果の分析を通じて、今後はお客さま満足度を新たなKPIとして定着させていく方針である。
 なお、前述のように、お客さまから「ありがとう」と感謝の言葉をもらえるような応対を目指していることから、2013年9月に導入したコールセンター・システムでは、「ありがとう」と言われたコール数をコミュニケータが記録できる専用ボタンも設けており、およそ半数のコールにおいてこのボタンが押されているという。

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承諾が得られたお客さまにはアンケートを送付、回答に対する満足度を把握している

コミュニケータが4人そろって昼休みに入る「レディースデー」

 同社の場合、コミュニケータの定着率が高いことから、教育面では、フォローアップの取り組みを重視。新商品の発売に当たっては、事前に商品開発部門の担当者がコミュニケータを招いて試食勉強会を行い、商品に対する理解を深めるなど、きめ細かい取り組みを推進。2014年からは、外部の専門企業に委託して、在籍年数の比較的短いコミュニケータ2人を対象に、実際の通話音声データから応対を評価してもらう試みも新たに始めた。
 このほか、コミュニケータのモチベーションアップに向けたユニークな取り組みが、週1回の「レディースデー」である。コミュニケータにとって昼休みは、職場を離れ、同僚と一緒にランチを楽しむ憩いのひとときだが、通常のシフトでは、コミュニケータのうち1人が電話応対のためにセンターに残らざるを得ない。そこで「全員がそろって外出できるように」との配慮から、レディースデーには、お客様相談課長ら社員2人がコミュニケータに代わって昼休みの電話応対に当たる。センターのアットホームな雰囲気がうかがえる取り組みと言えよう。

社内SNSに日々のエピソードをつづる「客相課長のつぶやき」

 お客さまから寄せられた貴重なナマの声やセンターの運営状況については、積極的に社内に共有することで、商品の改善などに役立てている。
 経営層をはじめとする同社幹部が出席して開催される「品質管理委員会」では、四半期に1回のペースで、センター運営状況を定量的・定性的にまとめたレポートを、お客様相談課から報告。さらに、営業部門や製造部門の課長クラスの担当者が集まる月次の会合も開いており、お客さまの声から浮き彫りになった、より具体的な個別のテーマなどについて討議、商品や業務の改善につなげている。
 また、他部門に対する社内広報的な情報発信の施策としては、イントラネット上のポータルサイトにお客さまの声を掲載しているほか、「苦情」についても管理層以上を対象に閲覧制限を設けて掲載。さらに、同社では、(株)セールスフォース・ドットコムの社内SNS「Salesforce Chatter(セールスフォース・チャター)」を導入していることから、SNS上に、お客様相談課長が日々の業務のエピソードなどをつづるコーナー「客相課長のつぶやき」を開設し、継続的に情報発信している。
 このほか、お客様相談室がセンター業務を通じて蓄積してきたノウハウをより深く他部門に展開するため、お客様相談課長らセンター運営に携わる2人の社員が毎年、全国各地の支店や営業所を手分けして訪問し、営業担当者を対象にお客さま対応に関する勉強会を実施。また、他部門の社員をセンターに招き、コミュニケータのそばで、お客さまとの通話をモニタリングしてもらう取り組みも2014年1月からスタートさせている。
 なお、2013年9月には、経営企画本部広報室と共同で、「お客様相談室」が蓄積してきた典型的なFAQなどを小冊子にまとめた「Q&A集」を発行。一般のお客さまに配布するなど、さらなる理解促進に努めている。

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お客様相談室が蓄積してきた典型的なFAQなどを小冊子にまとめた「Q&A集」

5月に本社移転を予定 一層のサービス向上を目指す

 同社は、2014年5月に本社を移転する計画。移転先は、現在と同じ横浜市西区だが、グループ各社の本社機能もワンフロアに集約することで、グループの連携をこれまで以上に強化していく方針だ。本社移転を受け、お客様相談室も移転することになるが、このタイミングで、従来は相手側に通話料負担を求めていた業務用商品にかかわる問い合わせの受付電話番号にもフリーダイヤルを導入する予定である。
 また、センターの電話応対業務の品質向上を図るため、お客様相談室では今後も引き続き、(公社)消費者関連専門家会議などのネットワークを生かし、他社のコールセンターとの情報交換や共同での勉強会開催などを通して、センター運営の改善に取り組んでいく考え。本社移転後の新しい職場環境でも、なお一層のサービス向上や機能強化を推し進めていくことにしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2014年3月号の記事