コンタクトセンター最前線(第130回):VOC活用で「お客さま第一」を体現

(株)バスクリン

入浴剤や育毛剤の製造・販売を手掛ける(株)バスクリン。同社では、問い合わせやクレームに対応するお客様相談窓口と通販コールセンターを開設。これらの二次受付を本社のCSR推進グループが担うかたちでセンターを運営している。センターに寄せられたお客さまの声の活用も重要な役割のひとつで、これまでに数々の改善を行うことで結果的にコール数の削減につながった。その取り組みは社内で高く評価され、2011年度には社内で功績功労賞を受賞した。

センター運営のベースはお客さま第一

 (株)バスクリンは、2006年に(株)ツムラの家庭用品事業を承継して分社し、ツムラ ライフサイエンス(株)として創業した。その後、2008年にツムラグループから独立。2010年には、原点に回帰すると同時に長きにわたってお客さまの健康づくりを支え、日本の入浴文化をリードしてきた自負を込めて、発売から80年を迎えたロングセラー商品である「バスクリン」を社名に採用した。
 「自然との共生を原点として、身体と心の環境の調和を図り、健やかで心地よい生活を提供すること」を経営理念に掲げ、入浴剤をはじめとする商品を通じて、お客さま、ひいては社会全体の健康づくりに貢献することを目指している同社では、お客さまを第一に考え、常にお客さまの視点に立つことを行動規範としてきた。これはお客さまや販売店から寄せられる問い合わせへの対応やお客さまの声(以下、VOC)の活用を一手に担う同社お客様相談窓口や、通販商品の受注、および問い合わせに対応する通販コールセンターの運営のベースにもなっている。

お客様相談窓口と通販コールセンターを開設

 お客様相談窓口および通販コールセンターの変遷を見ると、まず、ツムラから分社した2006年にお客様相談窓口を開設した当初は、ツムラのコールセンターで使用していた応対管理システムを使用していた。しかし、医薬品に関する問い合わせ受付をメイン業務として構築されたシステムは、家庭用品のお客さま対応には適さない部分があったことから、その翌年の2007年秋に、業務に即した応対管理システムを新規に導入した。
 また、2008年には、お客さまに負担をかけることなく、より多くのVOCに耳を傾けようと、お客様相談窓口にNTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤル・サービスを導入した。携帯電話からの問い合わせは一般加入回線やナビダイヤルで受け付ける窓口が多い中、同社では上記の理由から携帯電話からの着信も可能にしている。
 加えて、この年には通信販売をスタート。フリーダイヤルの導入と通信販売のスタートにより問い合わせ件数が増加したことから、スタッフ数の増員を図った。しかし、問い合わせ対応を主とするお客様相談窓口業務と、受注を主とする通販業務とでは窓口の性質が異なる。言うなれば、前者がディフェンスで、後者はオフェンス。そこで同社では、2009年に通販専用のコールセンターを開設し、新たにフリーダイヤル番号を設けて受け付けを開始した。
 現在のスタッフ数は、お客様相談窓口の一次受付が約10名で、常時3〜4名で対応。通販コールセンターは新聞広告や折り込みチラシの出稿に合わせて、フレキシブルな人員配置を行っている。
 お客様相談窓口および通販コールセンターのほかに、同社では、本社総務部CSR推進グループ内に両センターからのエスカレーション、およびeメールと手紙でお客様相談窓口に寄せられる問い合わせに対応する二次受付を用意。こちらは4名体制で運営しており、3拠点間で密に連携を図りながら日々の業務に当たっている(図表1)。

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 受付時間帯は、お客様相談窓口は平日の9時から17時までで、土日・祝日と夏期休暇、年末年始などは休業。一方、通販コールセンターは、9時から21時までで、夏期休暇と年末年始以外は無休としている。

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お客様相談窓口の告知には、自社のWebサイト(上)や商品パッケージ(下)を活用

拠点間の距離を縮める取り組み

 受付業務を複数の拠点で行うに当たり、同社が留意している点は一体感を醸成することだという。
 具体的には、新商品の発売時には、本社CSR推進グループのグループ長や商品企画担当が各拠点を訪問。本社部門と同様の教育を実施している。
 このほか、日々の連絡を密にすることにも注力。毎日のエスカレーションに対して電話で指導したり、応対履歴で気付いたことをフィードバックしたりしている。
 このような取り組みを地道に積み重ねていくことで、心理的・物理的な距離が縮まるのだ。
 また、お客様相談窓口での対応に当たっては、「お客様相談窓口も営業だ!」という意識を持つよう心掛けているという。その意図は、一次受付で迅速かつ的確な情報をお客さまに提供する、もしくは二次受付でクレームに誠実に対応することで自社のファンになっていただくことができれば、末永いおつきあいができるとの考えにある。攻撃は最大の防御と言うが、ディフェンスがオフェンスにもなり得るというわけだ。

応答率95%、一次解決率90%を達成

 主力商品が入浴剤であることから、お客様相談窓口に寄せられるコール数は秋冬に増加する傾向にある。問い合わせ、クレームを合計すると月間平均約1,000件で、このうち電話の利用が大半を占めている。応答率は95%以上を達成しており、常に高い目標を持っている。また、電話応対の一次解決率は90%で、エスカレーションは10%。最近では、お客さまの問い合わせ内容が複雑、かつ専門的になっていることから、エスカレーションの割合はやや増大傾向にあるという。
 商品カテゴリー別の問い合わせ 内訳は図表2の通り。同社の主力商品である入浴剤に関する問い合わせが最も多く寄せられている。次に多いのは、通販限定で販売しているヘアケア商品「髪姫」シリーズに関する問い合わせだ。2009年に通販で発売を開始したばかりの「髪姫」シリーズは、認知度向上と商品ラインナップの拡充が相まって、お客さまの関心が高まっていると同社では見ている。

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 一方、問い合わせ内容別内訳を見ると、最も多いのは香りの種類や商品バリエーションなど商品自体に関する問い合わせで、以下、販売店照会、使い方、浴槽や給湯器への影響、人体への安全性と続く。最近では、エコキュートを使用しているお客さまからの問い合わせが増えており、エコキュートのメーカー各社と足並みを揃えた回答の必要性を感じているところだという。

お客様相談窓口の取り組みが評価され、功績功労賞を受賞

 お客さまや販売店から寄せられた問い合わせやクレームの内容は、すべて応対管理システムに登録される。販売店からの問い合わせ内容については、担当営業と共有。日々の営業活動をスムーズに行うための一助としている。
 クレームや注目すべき問い合わせに関しては、お客様相談窓口のスタッフが毎日、イントラネットにアップして社長・役員以外、全社員で共有。全社一丸となって「お客さま第一」を考え行動する体制づくりを目指している。
 生産に関する案件については、品質と安全の責任者と総括製造販売責任者の3役で構成される信頼性保証室や、生産部(工場)、品質管理部、購買・生産部、製品開発部、研究所と、営業に関する案件については販売管理部、全国の営業部門と対策を検討している。検討された対策は、毎月開催されるお客様情報会議で経営層に報告され、実行前の最終検討がなされる。場合によっては、準備された対策が差し戻されることもあり、その際は、再度、当該部門で対策を検討することとなる(図表3)。時には社長自ら、お客様相談窓口に案件の進捗状況を尋ねてくることもあり、経営層のVOCへの関心の高さがうかがえる。

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 主にVOCは、Webサイトのよくある質問への反映や商品の改善を中心に活用されている。具体例のひとつとして、温泉の効果を粒状に凝縮した入浴剤「きき湯」の開け方をイラストで説明した事例が挙げられる。「きき湯」のキャップは斜めに押し上げて開けるようになっているのだが、キャップの形状からひねって開けようとするお客さまが多く、「ふたが開けづらい」という意見が多く寄せられていた。そこで、開け方をイラストに描き起こし、シュリンク(本体を包む透明のフィルム)に印刷した。これにより、開け方に関する誤解が減少。以降、同様の問い合わせは寄せられなくなったという。ただし、一度開封されるとシュリンクは捨てられてしまうことから、今後は本体へのイラスト表示に切り替えることを予定しているという。
 1人のお客さまの声が、商品の改善につながったケースもある。
 「キャップを開ける際に手を切った」。あるとき、店頭で販売しているヘアケア商品「モウガL」シリーズのトリートメントを使用したお客さまから、こんな声が寄せられたのだ。1件だけの事例ではあったが、お客様相談窓口では早速、関連部門と対策を検討。キャップのふちのとがりをなくし、丸みを帯びさせた。
 また、「『髪姫』ヘアカラートリートメントの容器が固い」という声には、容器をチューブタイプに変更することで対応した。
 これらのほか、パッケージの裏面に印刷されている取り扱い説明や注意事項の表示に関する改善は頻繁に行われている。
 お客様相談窓口では、2011年度の社内表彰制度で功績功労賞を受賞した。これは、VOC活用の仕組みを構築し、数々の実績を挙げたことと、お客さまの視点に立った、お客さまに寄り添う対応の実践を通じて「お客さま第一」を推進し、顧客満足度の向上に貢献したことが評価されたもの。スタッフのモチベーションアップに大いに役立っており、日々の業務の品質向上や、VOC活用の推進に拍車がかかることが期待される。

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各商品別、問い合わせ内容別に、よくある質問をわかりやすく紹介。Webサイトでの情報発信にもVOCを生かしている

コール増への対応とVOC活用範囲の拡大が課題

 お客様相談窓口を開設して以降、新応対管理システムの導入、スタッフの増員、フリーダイヤルの導入、そして2011年3月には東日本大震災の影響と、数々の出来事があった。これらを経た今日、センター運営は安定してきているという。
 課題としては、今後、通信販売の売り上げ拡大が予想される中、これに伴うコール増への対応が挙げられる。通販コールセンターの受付体制はもちろんのこと、エスカレーション対応体制についても拡充と効率アップが不可欠だ。
 また現状では、生産に関するVOC活用が多いため、今後は営業に関するVOC活用にも積極的に取り組んでいく意向。具体的には、販売部門との連携を強化し、ショッピングサイトの改善に取り組んでいきたいとしている。2010年度と2011年度の問い合わせ件数を比較すると、2011年度は前年比97%と若干減少している。これは今まで積み重ねてきたVOC活用の成果と見ており、今後も継続的にVOC活用に注力していくことで、さらなる効果が発揮できるものと考えている。
 加えて、営業担当者の通販商品に関する知識を厚くするべく、お客様相談窓口が主導して研修を実施するほか、営業担当者がクレームの初期対応を行った後のフォロー方法をマニュアル化して、営業担当者をサポートしていく構えだ。

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シュリンクのふたの部分に開け方をイラストで表示。これにより、開け方に関する誤解が減少し、問い合わせが寄せられなくなった

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「髪姫」ヘアカラートリートメントの容器を柔らかいチューブタイプに変更し使い勝手を改善


月刊『アイ・エム・プレス』2012年9月号の記事