日本を代表する総合食品メーカーである江崎グリコ(株)。同社お客様センターは、2010年3月にコールセンター・システムを一新し、CTIと連動させることで、過去の問い合わせ履歴に基づく応対や画面転送を含む、スムーズなエスカレーションを実現する体制を整えた。さらに、同年12月にはセンター名を「お客様相談センター」から「お客様センター」に改称。製品パッケージに「あなたの声 大切にします」というメッセージを添え、多くの声を集め、より一層活用することに注力している。
多くのお客さまの声に耳を傾ける姿勢を表現した呼称に変更
江崎グリコ(株)は、「ポッキー」「ジャイアントカプリコ」をはじめとする菓子、「ジャイアントコーン」「パピコ」などの冷菓、「2段熟カレー」「幼児食」などの食品、「パワープロダクション」といったスポーツサプリメントなどの製造・販売を手掛ける、日本を代表する総合食品メーカーである。1922年に創業し、「食品による国民の体位向上」を社是として企業活動を進めてきた同社では、現在、「おいしさと健康」を企業理念に掲げ、製品に込めた創意工夫、お客さまに満足していただきたいという思い、そしてお客さまの健康の向上に役立ちたいという創業当時の気持ちを受け継ぎ、企業活動を進めている。こうした中、「生まれたときからグリコファン」をスローガンに、幅広い年齢層のお客さまを対象に製品に関する問い合わせや意見・要望などに対応。こうした業務を通じて日々お客さまの声(VOC)に積極的に耳を傾けているのが、「江崎グリコお客様センター」(以下、お客様センター)である。
お客様センターの開設は1985年7月。当初は「消費者室」という名称で、広報部の1セクションとして運用していたが、1991年には広報部から独立して「消費者部」に昇格したほか、1994年には親しみやすさの向上を狙って「お客様相談室」に改称するなど、社内での位置付けを高めるとともに、お客さま志向を一層強めてきた。さらに、2004年4月には電話窓口に着信課金回線を導入。2010年12月には、「お客様相談センター=苦情受付」というネガティブなイメージを払拭(ふっしょく)することに加えて、お客さまの声を大切にする気持ちや、購入者はもちろんのこと購入していないお客さまにも意見を寄せてほしいという思いを込めて「お客様センター」と改称し、現在に至る。
お客様センターの電話番号に「あなたの声 大切にします」というメッセージを添えた新パッケージ。2010年12月製造分の新商品から順次、この表記に変更している
フリーダイヤルに切り換えいたずら電話を削減
お客様センターは、大阪の本社内に設置されており、社員8名、嘱託社員2名、パートタイマー12名、荷造りスタッフ1名の総勢23名のスタッフたちが勤務している。スタッフの雇用形態はさまざまだが、いずれも江崎グリコが直接雇用している。なお、このうち14名のスタッフは消費生活アドバイザーの資格保有者で、資格を持たないスタッフには取得を促しているという。
業務内容は、お客さま対応業務とVOC活用の2つに大別できる。
お客さま対応業務は、製品に関する問い合わせや苦情、使い方相談などへの対応で、受付チャネルには電話、eメール、手紙を利用。電話には、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルサービスを使用している。もともとお客様センターでは、KDDI(株)のフリーコールを使用していたが、携帯電話からの発信者番号が非通知の場合は着信しない仕組みを構築することでいたずら電話を阻止しようと、2008年4月からNTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルサービスに変更したという経緯がある。お客様センターの狙い通り、フリーダイヤルへの切り換え以降、いたずら電話は激減し、スタッフの負担を軽減することに成功した。
電話の受付時間帯は、月〜金曜日の9時から18時30分まで。基本的にはインハウスで対応しており、同社のWebサイトなどでは土日・祝日および年末年始は休業と告知している。しかし、実際には月〜金曜日の18時30分から21時までと土日・祝日の9時から21時までは対応を実施。この時間帯の対応業務については、テレマーケティング・サービス・エージェンシーにアウトソーシングしている。
受付先の切り替えには、フリーダイヤルのオプションサービスのひとつである「カスタマーコントロール」を利用。これはお客様センター内のPCからインターネット経由で、受付先や回線数の変更といった回線のコントロールができる機能だ。お客様センターでは、あらかじめ曜日・時間・受付先を設定しておくことで、自動的かつ確実な切り替えを行っている。
2010年3月にコールセンター・システムを一新
コールセンター・システムには、東芝ソリューション(株)のCT-SQUARE®FXを導入している。CT-SQUARE®FXとCTIシステムとで連携を図っており、着信番号をキーにした応対履歴のポップアップや、画面転送を含むスムーズなエスカレーションが可能だ(図表1)。このほか、応対を支援するFAQを検索・参照できる機能を有しており、均一かつ正確、迅速な情報提供やお客さま対応を実現。ボイスロギングシステムでは全通話を録音しており、音声データと文字データ(応対履歴)を一元的に管理している。
このコールセンター・システムは、2010年3月に一新したばかり。新システムに移行した後は、お客様センターと東芝ソリューションとで月1回の定例会を開催して問題点を解決、安定的な運用を実現しているという。
受付状況を見ると、2009年4月から2010年3月までにお客様センターに寄せられた受付件数は4万1,000件で、このうち85%が問い合わせ・意見・相談、15%が苦情であった。食品に関する事件や事故、人気急増の食品などニュースがあると問い合わせ件数が増えることから、過去には5万件を超える年もあったが、現在は落ち着いているという。
近年は、Twitterやmixi、Facebookをはじめ、企業が独自に構築しているコミュニティサイトなどが普及してきているが、依然として最も多く利用されている受付チャネルは電話(81%)で、以下、eメール(13%)、手紙(5%)と続く。
江崎グリコお客様センターの告知ページ。よくある質問はQ&A形式で紹介しているが、「なぜ? なに?コーナー」と題して、わかりやすくかつ親しみやすくしている
VOC活用の具体的な取り組み
年間約4万件に及ぶVOCの活用も、お客様センターの重要な業務だ。
具体的には、用件を問わずお客様センターに寄せられたすべてのVOCをデータベースに入力し、これを1週間ごとにVOC担当が読み合わせることにより課題を抽出。重要度によりA、B、Cの3ランクに分類してイントラネットに掲載する(資料1)。ここに掲載される情報は、最近の問い合わせの傾向やお客さまタイプの傾向など。新製品のリリース直後であれば、それに関する問い合わせ内容を公開している。
受付画面からVOC分類ランクを選ぶと、申し出内容がイントラネットに掲載される
ホットなトピックをまとめた週報のほか、月報、半年報もイントラネットにアップして全社で共有している。月報では、月単位である程度まとまったVOCを分析した結果をレポートしており、半年報ではそれよりも大きな流れをとらえている。
共有されたVOCは各部門で対応策を検討し、対応可能なものについては迅速に改善に着手する。VOCの中でも重要度が高いA、Bランクのものについては、各担当部署、社長、お客様センターに2週間以内に対応の方針などについての報告を行うことが義務付けられている。また、お客様センターからの製品改良提案も頻繁に行われており、実際に改良されたケースは同社Webサイト上に公開することで、お客さまにフィードバックしている(資料2)。
【資料2】Webサイトでは、お客さまの声をもとに改善した事例を紹介している
VOCが製品の改善に生かされた最近の事例では『2段熟カレー』の改良が挙げられる。ナッツアレルギーの子どもを持つ母親から、「以前はアーモンドペーストを使っていなかったのに、原料が変わったのですか?」などの問い合わせが数件あったことから、アーモンドペーストを使わない配合に変更した。
さらに、『2段熟カレー』においては、「ブロックが固くて手では2つに割りにくい」「味やとろみを調整したい」「残った半端の保存はどうしたらいいのか」といった声が寄せられたことから、旧タイプよりも使いやすく保存にも便利な「らくわけトレー」に変更した。
VOCの活用はサービスにも及ぶ。江崎グリコでは、1999(平成11)年11月11日から毎年11月11日を「ポッキー&プリッツの日」と定め、日本記念日協会から認定を受けている。ポッキーとプリッツのファンは、この日に自主的なイベントを企画し、楽しんでいるのだという。ある時、「ポッキー&プリッツの日」に結婚式を執り行うお客さまから、引き出物として使える製品はないかという問い合わせが寄せられた。あいにく、引き出物として利用できる製品はなかったが、お客さまに何かして差し上げたいと考えたお客様センターでは、11月11日の日付と「ご結婚おめでとうございます」というお祝いのメッセージを記載したカードを作って送付した。これ以降は毎年、「ポッキー&プリッツの日」にはカードを作成し、希望者に配布している(資料3)。
【資料3】毎年、用意している結婚お祝い用のカード
また、お客様センターではトラブル・誤使用の未然防止や、工場からお客様に提出する書類にもVOCを役立てている。VOC担当がお客さま目線でパッケージのコピーや文面をチェックしているのだ。
グループ会社との連携やケータイメールへの対応が課題
お客様センターでは、2010年にシステムを一新したり、センターの呼称を変更したり、大きな改革に取り組んだわけだが、まだ多くの課題が残されているという。
そのひとつは、グループ会社のお客様センターとの連携である。江崎グリコのグループ会社でもお客様センターを持っているため、各センター間の人材と情報の連携を可能にしていきたいとしている。
もうひとつは、ケータイメールへの対応である。現在、同社ではモバイルサイト限定の「Pocky友の会」を運営しているが、この会員からの問い合わせは、いったん友の会事務局を経由してお客様センターに届くため、対応が遅れがち。そこで、ケータイメールでの問い合わせを直接受け付けられるようにしたいと考えているのだ。
このほか、休日における受付体制の拡充、リスク対応力の向上、納得のいく評価と同業他社との応対レベルの比較を目的とした第三者機関による応対品質評価の実施、分析ツールの活用など、さまざまな課題が挙げられている。今後、お客様センターでは、「生まれた時からグリコファン」をより一層推進するべく、こうした課題の解決に意欲的に取り組んでいく構えである。