コンタクトセンター最前線(第46回):総合カスタマーセンターでお客様本位の経営を具現化

東京海上日動あんしん生命保険(株)

「お客様の信頼をあらゆる事業活動の原点におく」 との経営理念に基づき、お客様満足度の向上に取り組んでいる東京海上日動あんしん生命(株)。 同社では2005年5月、 岐阜県岐阜市に総合カスタマーセンターを開設。 これまで複数に分かれていたお客様対応窓口を一本化し、IVRで用件に応じた窓口を選択できるようにすることで、お客様の利便性向上を図った。

電話窓口のあり方を模索し「総合カスタマーセンター」を新設

 少子高齢化や個人のライフスタイルの多様化などにより、生活者の生命保険へのニーズは個別かつ高度になってきた。また、自由化・規制緩和の進展と業界再編に伴い、生命保険業界における競争は厳しさを増している。こうした中、東京海上日動あんしん生命保険(株)では、「お客様の信頼をあらゆる事業活動の原点におき、生命保険事業を通じて『あんしん』を提供することにより、豊かで快適な社会生活と経済の発展に貢献する」という経営理念を掲げ、その実践に取り組んでいる。
 同社のお客様本位の姿勢が実を結んでか、業績は右肩上がりに伸び、2001年度に保有契約件数が100万件を超えた。このころから、より一層お客様に目を向けて満足度の向上を図ろうとする意識が強くなりはじめ、重要な顧客接点である電話応対窓口のあり方の模索を開始。2004年から具体的な検討に入り、2005年5月、岐阜県岐阜市に「総合カスタマーセンター」の開設に至ったのである。

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 同時に、全国共通のフリーダイヤル番号を採用。これにより、従来、用件別に分かれていた電話窓口を、見込客、既契約者といったお客様の属性別に設定し、①お客様相談窓口、②契約内容変更窓口、③保険金請求窓口、④年金サポート窓口の4つの窓口をIVRで選べるようにすることで、お客様の利便性向上を図った。
 また、お客様から直接寄せられる意見や要望を今後の経営に活かしていくことも重要な目的であった。同社では、全国の支店など既存のチャネルに加えて、「総合カスタマーセンター」においても積極的に意見や要望を受け止めることで、お客様満足度のさらなる向上を目指している。
 ちなみに、同社では従来、電話窓口をコールセンターと呼んでいたが、前述のより一層お客様に注目していくという意図から、「カスタマーセンター」という言葉を採用した。

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岐阜市選択の決め手とは

 「総合カスタマーセンター」の開設に当たり、岐阜市を選択した理由はどういったところにあったのだろうか。2005年9月現在、(社)日本テレマーケティング協会が把握しているだけでも36にも及ぶ地方自治体がコールセンター誘致に乗り出しているが、同社では、これらすべての地方自治体における助成金などの施策を比較。加えて、求人倍率、地方自治体の姿勢、競合他社のコールセンター開設の動きなどを検討した結果、最終的に岐阜市に決定した。選択のポイントは、同市のITに取り組む姿勢、そして東京から2時間という交通の便の良さの3点であったが、同県・市の誘致担当者の熱意、求人や人材教育面にまで及ぶ惜しみない協力、さらに同社への理解を示してくれたことが何より大きな決め手になったという。
 現在、「総合カスタマーセンター」の規模は50席と中規模。スタッフは、レップと呼ばれる電話応対スタッフ40名、スーパーバイザー(SV)およびセンター長10名の計50名で構成されている。一部のSVとセンター長を除く大半のスタッフは現地で採用した。
 岐阜市には生命保険のコールセンター経験者が少ないため、電話応対の基本的なマナーについては、岐阜県・市で月 2 回実施している無料研修を利用することでカバー。一方、商品知識や業務知識などについては、自社で研修を行った。また、運営の柱となるSVの研修には5カ月をかけた。
 しかし、レップは数カ月の研修だけですべての業務を担い、かつお客様が満足する対応をすることは当面は難しいと言える。そこで同社では、代理店や既契約者から寄せられる比較的容易な住所変更と名義変更の受け付けからスタート。そのほかの業務については、東京の新宿と銀座にあるコールセンターで対応している。加えて、これらのセンターにはバックアップ部隊としての役割がある。万一、「総合カスタマーセンター」であふれ呼が生じた場合、その受け皿ともなっているのだ。
 また、「総合カスタマーセンター」で対応できない用件が寄せられるケースがある。こうした場合には、CTI機能を利用して、東京のセンターへコールと受付画面を転送することで、スムーズなエスカレーションを実施。岐阜と東京のセンター間にはIP電話を採用することで、コスト低減を実現した。
 今後同社では、「総合カスタマーセンター」の人材育成に継続的に取り組み、順次、東京で実施している業務内容を取り込んでいく計画。さらに、センター規模も数年後には現在の3倍に当たる150席への拡充を予定している。

応答率は90%以上を維持

 「総合カスタマーセンター」の告知には、Webサイトと毎年7月に全契約者に送付している「契約内容のお知らせ」を活用した。センターを開設した5月時点の告知はWebサイトのみにとどめることで、急激にコールが集中することを避けた。そのため、当初のコール数は1カ月当たり1,000件程度であったが、「契約内容のお知らせ」で全契約者に告知した後は、約2,000件に倍増。しかし、コール予測に基づくシフトおよびレップの応対スキル向上により、応答率は常時90%以上に達しているという。
 さらなるお客様満足度の向上を目指す同社では、より多くのお客様の声に耳を傾けようと、取り逃している約10%のコールに着目。トラフィックレポートから、受付時間終了後の17時から18時の間と、土曜日にも着信が多いことを突き止めた。このことから、平日の18時までと土曜日の受け付けのニーズは高いと考えられる。同社では、お客様のニーズを明確につかむためにマーケットリサーチを行い、ニーズがあるところから順次拡大していく計画だ。

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レップは、2台の端末(応対履歴入力用と契約情報の閲覧用)を操作しながら、顧客満足度の高い応対に努めている

「経営品質向上委員会」が声の活用を推進

 同社が「総合カスタマーセンター」開設の目的のひとつに挙げているお客様の声の反映を実現するには、いただいた情報を眠らせずに関連部門などで共有する仕組みが不可欠である。これまでも同社では、本社、支店、アンケートなどに寄せられたお客様の声を集計・分析して関連部門と役員に伝えていたが、この取り組みを強化するべく、この7月に「お客様の声収集活用システム」を構築した。
 同システムでは、フリーダイヤル、ファックス、Webメールで寄せられたお客様の声を一元的に管理。中でも、検討や改善が必要な案件については、さらに別のデータベースに登録し、「経営品質向上委員会」で検討。さらに、改善策実施までの過程を管理している。
 具体的には、eメールで進捗状況をフォロー。6カ月ごとに、案件の担当者に検討の有無を尋ねるeメールを送付し、対策を講じることが決まった案件の担当者には、対策の実施期日が近づくと進捗状況を確認するeメールを送っている。
 同社では、これまでに約款など既契約者に送付する文書の文字を大きくしたり、クレジットカード決済ができるようにするなど、お客様の声に基づきさまざまな改善に取り組んできた。最近では、インターネットユーザーが増え、生活者のITリテラシーが向上したこともあり、簡単な手続きや問い合わせにはWebサイトを利用するお客様も多くなってきたことから、2004年11月よりWebサイトでの受け付けをスタート。今後は契約内容の確認や、控除証明の再発行手続きといった機能を追加して、さらにお客様の利便性向上を図る意向だ。
 24時間、いつでも利用できるWebサイトは、お客様に1度でも利用して便利さを実感していただければ、繰り返し利用されるだろう。しかし、チャネルの選択権はあくまでもお客様にある。同社では、強引にWeb サイトへ誘導するのではなく、幅広い選択肢を提供することで利便性を高め、お客様満足度の向上につなげていきたいと考えている。

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お客様に安心してもらえる対応を目指して

 現在、「総合カスタマーセンター」の運営における課題は、レップの定着率を高めることである。また、今後センターの規模拡大を計画している同社にとっては、定着率を高めると同時に、新たな人材確保も不可欠である。
 対策としては、地元住民に総合カスタマーセンターで働きたいと思ってもらえるよう、アットホームな雰囲気作りに努めている。具体的には、クリスマスパーティーなどのイベントを企画したり、家族に職場を見学してもらったりといった取り組みを計画。さらに、総合カスタマーセンターの中だけでなく、地元との一体化を目指して、地元のボランティア活動にも参加していきたいと考えている。同社では、こうした活動から生まれる温かい雰囲気が口コミで広がり、人が集まってくることを期待しているのだ。
 一方、レップたちが働きがいを感じられる職場作りにも努めている。電話応対における働きがいとは、お客様から感謝されることととらえ、「電話をして良かった」と、お客様に安心していただける対応をするためにも、今後はより一層、研修を充実させてレップのスキルアップを図る意向だ。
 同社ではこのほかにも、これからセンターを成長させていくに当たっては、多くの取り組みが必要と考えている。その際も、「お客様の信頼をあらゆる事業活動の原点におく」との経営理念をベースとし、お客様にとって有益な取り組みであることを最優先していく意向。この取り組みが、同社にとっても有益な取り組みになると考えている。 

あんしん生命の現状_表紙

同社のディスクロージャー誌「東京海上日動あんしん生命 の現状 2005」の中でも、総合カスタマーセンター開設のニュースやお客様満足度向上への取り組みを紹介している


月刊『アイ・エム・プレス』2005年10月号の記事