創業200年の歴史を持つミツカングループ。「買う身になってまごころを込めてよい品を」 を永遠に守るべき価値観とする同グループでは、 2004年に中期5カ年計画を策定。「やがて、 いのちに変わるもの。」をビジョンスローガンに掲げ、「お客様への約束」 として「安全・安心」 と 「健康」 を、食を通じておいしく提供することに邁進している。 お客様の声に耳を傾けることは、この取り組みに欠かせないことのひとつ。 今回は、同グループお客様相談センターの現状と課題を紹介する。
時代とともに変わる“よい商品”を作るためにお客様の声に耳を傾ける
“よい商品”は普遍的なものではなく、時代とともに変化するものと考えるミツカングループでは、人々の暮らしの動向を見つめるとともに、お客様の声に耳を傾けることを重視。グループ内の情報ネットワーク整備を進め、お客様から寄せられた問い合わせや、意見・要望・指摘を、新商品開発や商品改善につなげるよう、全社的な取り組みを進めている。
この取り組みの中核となるのが、同グループお客様相談センター(以下、相談センター)である。
同グループが相談センターを開設したのは1990年のこと。広報部内に、お客様相談室の名称でスタートしたのがはじまりだ。開設当初は、専用電話を設けていなかったため、問い合わせなどは、取扱店などから支店・営業経由で寄せられるか、手紙か、本社代表電話で受け付けていた。
その後、PL法の施行を受けて本格的な受付体制を構築しようと、1995年に市販のパッケージソフトをカスタマイズしたお客様相談システムを導入。受付日、相談内容、回答内容などを蓄積し、集計・分析まで行えるようにした。続いて1996年に、より多くのお客様の声を直接収集することを目的に、製品ラベルに相談センター専用の電話番号を記載。これと同時に広報部から独立して「お客様相談センター」と名称を変更した。その後、カンパニー制(図表1)の導入により、内務を一手に担う(株)ミツカン ビジテックが相談センターの運営を担当、現在に至る。
顧客対応からリスク管理まで幅広い業務を担う
相談センターの具体的な業務内容としては、まず、製品に関する問い合わせや、意見・要望・指摘への対応が挙げられる。
対象となる製品は、酢やみりんなどの家庭用調味加工食品、納豆および各種チルド食品、業務提携をしているマコーミック製品、そして業務用製品と幅広い。用件によっては製造工場や技術部門による調査が必要なケースもあるため、こうした場合の、調査依頼から結果に基づく報告書の作成、そしてお客様への報告までも担っている。
また、エンドユーザーとの主な接点であることから、ミツカンブランドの維持・向上も役割のひとつ。ここでの対応如何で、お客様のミツカンに対する思いが変わるからだ。お客様に満足していただける対応ができれば、企業イメージの向上→ファン化→リピート購入とプラスのサイクルが生まれるが、逆に対応が悪ければ、マイナスのサイクルが生まれるのである。
そこで相談センターでは、お客様に「相談して良かった」と思っていただける応対を心掛けている。具体的には、迅速な対応、的確な回答、不安・不満に対する安心・納得の提供、謙虚に聞く姿勢、お客様の感動への共感が挙げられる。最後の感動への共感は、ミツカン製品を使って作った料理が美味しかったときや、分別キャップに感動したお客様が相談センターへ電話をかけてくることがあるのだという。
さらに、お客様が直接口にする製品であることから、リスク管理も重要な業務となっている。お客様からの問い合わせで、製品コード、賞味期限、製造工場が同じで、同様の指摘が2件以上寄せられた場合には警告が出る仕組みになっている。
フリーダイヤルのオプションサービスでフレキシブルな受付体制を構築
相談センターでは、受付窓口には主に、電話と e メールを活用。告知媒体には、製品ラベル、Webサイト、雑誌広告、啓発資料を活用している(資料1)。
【資料1】告知媒体の例 お酢の基礎知識やお酢の力を活かしたレシピ、製品に貼られているラベルの見方などを紹介している啓発資料「やさしいお酢のはなし」。裏面に、お客様相談センターのフリーダイヤル番号を記載している
電話窓口には、2004年6月より、NTTコミュニケーションズのフリーダイヤルを利用しているが、これは、同年に策定した中期5カ年計画のビジョンを相談センターとして具現化したもののひとつ。より多くのお客様の声に耳を傾けるために、通話料の負担をなくし、気軽に問い合わせてもらえる環境を整えた。最近は携帯電話しか持たない方も増えているため、携帯電話やPHSからの着信も可能にしている。
受け付けに当るのは、11名のスタッフ。センター長1名を筆頭に、主任1名、相談員9名となっている。基本的に、スタッフは社員を起用。複数の部署での勤務経験があり、事業内容や製品に精通したスタッフが対応に当ることで、迅速で的確な対応をとっている。
豊富な知識を持つスタッフが揃っているとは言え、個人の能力に頼るだけでは均一で高品質な応対を維持し続けることは難しい。相談センターでは、応対をより強力にサポートしようと、他部署で構築している製品情報、販売店情報、メニュー(レシピ)情報などのデータベースを活用している。
受付時間帯は、平日の9時から21時までと、休日の9時から17時まで。平日の9時から17時までは本社内の相談センターで受け付けるが、平日の17時以降と休日はアウトソーシングしている。相談センターでは、現在テスト的にアウトソーシングを実施。一度にすべての業務を任せるのは難しいため、家庭用調味加工食品とマコーミック製品で、緊急な用件を中心に対応している。
着信先の切り替えには、フリーダイヤルの受付先変更サービスを利用。相談センター内のパソコンで着信先を設定できるため、スムーズかつ、フレキシブルな受付体制を実現している。テレビ番組でミツカン製品が紹介されるなど、夜間のコール増が予想される場合は、切り替えを中止することも可能だ。
また、製品によっては、特定地域のみで販売しているものや地域別に味を変えているものもある。そのため、相談センターでは、通話開始前に自動音声で発信地域を教えてくれるウィスパリング機能を利用。あらかじめ発信地域を把握することで、スムーズな応対に役立っていると見ている。
全社でお客様情報を共有する仕組みを構築
公平で客観的な立場で、お客様の意見・要望・指摘を関連部門へ伝え、新商品の開発や商品の改善に活かすことも大切な業務だ。
相談センターへのアクセス件数は、月間の平均2,500件。このうち電話が90%、eメールが6%。そして、支店や営業を経由して寄せられるものや、手紙などが4%となっている。相談センターでは、受付内容とその回答をすべてお客様相談システムに蓄積。さらに個人情報以外を、30分ごとにグループ共通のデータベースに送信し、全社レベルでの情報共有を図っている(図表2)。
相談センターでは、日々、全社員がお客様情報に目を通すことを望んでいるが、時間には限りがあり難しいのが実際のところ。そこで、選りすぐった情報を希望者に eメールで配信するほか、月次、半期、年間でレポートを作成している。
また、すぐに改善できることや緊急性が高い案件については随時、関連部門へ伝達している。
加えて、デザインレビューと呼ばれる、市場調査から商品が世に送り出されるまでの開発プロセスの中で行われる会議や、同グループのトップマネジメントが主催する品質保証関連会議に参加。収集・分析したお客様の声を報告するとともに、積極的な問題提起を行っている。
これまでにお客様の声がきっかけとなって改善された商品の代表例に、分別キャップがある。これは使用済みの容器を捨てる際に本体からキャップ部分を取り外せるようにしたもので、容器リサイクル法の認知が高まるにつれてお客様の関心が高まる中、1995年に同グループが業界に先駆けて本格的に採用した。ところが、このキャップが取り外し難いという声が多く寄せられたため、つまみ部分を大きくするなどして、取り外しやすいように改良を積み重ねている。
このほか、営業時間外でもお客様が知りたい情報を得られるよう、よくある問い合わせとそれらへの回答をWebサイトに掲載している(資料2)。よくある問い合わせは、CMで紹介している料理の作り方や酢に関することで、これらについては特に情報を充実。後者については、すぅ坊というキャラクターを登場させ、楽しく学べるよう工夫されている。
【資料2】お客様情報の活用例 お客様窓口画面(左)とお酢についてのQ&A画面(右)。お客様窓口画面では、上方によくある問い合わせとその回答を、下方にお客様相談センターの電話番号や営業時間を記載することで、お客様の自己解決を促す工夫がなされている
今後、相談センターでは、関連部署との連携を強化し、よりスムーズな情報伝達とお客様の声の活用に注力する構えだ。
4月からは個人情報に関する窓口業務も担う
お客様情報の活用と合わせて、相談センターが常に努力してきたのが、応対品質の向上である。これまで、外部研修への参加やOJT、モニタリングを推進してきた。OJTは、応対が終了した直後にセンター長がアドバイスするほか、モニタリングを実施しているが、今後はより一層、迅速で的確、かつ均一な応対を実現してお客様の満足度を高めるよう、応対マニュアルの改善に努める意向。さらに、新任・中堅・管理者の階層別教育を推進するとともに、JISの苦情対応マネジメントシステムの構築、環境マネジメントシステムの認証取得、サプリメントアドバイザーの資格取得などを目指すという。
加えて、この4月から個人情報保護法が全面施行されることに伴い、個人情報に関する問い合わせにも対応していく。スタート時はマスコミの影響もあって多くの問い合わせが寄せられると考えられるが、今のところ増員はせず、現状の人員でこれに臨む方針。状況を踏まえてから体制の見直しにも着手していくという。
個人情報に関する問い合わせ窓口での対応がしっかりしていなければ、これまで築いてきた信用や企業イメージが崩れてしまう。またひとつ重要な役割を担った相談センターにエールを送りたい。