コンタクトセンター最前線(第25回):コールセンター開設でサポート体制を充実 クライアント・ファーストの具現化に取り組む

新光証券(株)

2000年4月、新日本証券 (株) と和光証券 (株) の合併により誕生した新光証券(株)。「お客様へのサービスの質」 が証券会社の生命線であるという考えに立ち、商品、情報、あるいはお客様との接点である店舗や受注・情報提供ツールなどの質の向上に注力している。 プル型営業の一端を担う同社のコールセンター、新光サンキューダイヤルの取り組みについて話を聞いた。

いつでもどこでもコンタクト ユビキタスな環境を整備

 証券会社の生命線は「お客様へのサービスの質」。そう明言する新光証券(株)では、「クライアント・ファースト」を経営理念に掲げ、2000年4月の合併以降、サービスの質の向上を目指し、商品、情報、あるいはお客様との接点である店舗や受注・情報提供ツールなどについて見直し、再構築を図ってきた。
 まず、旧日本証券、旧和光証券がそれぞれ展開していたオンライントレードサービスの統合と、コールセンターの開設に着手。2001年1月より、店舗、インターネット、電話の3つのチャネルで構成される「新光3サポート」をスタートした。これにより、顧客がシチュエーションに合わせて、いつでも、どこでも、取り引きや問い合わせができる環境を整えた。
 これには、顧客の利便性が高まるだけでなく、同社にとってのメリットもある。ひとつは、業務の集約による効率化だ。例えば、単純な内容の問い合わせにはコールセンターやインターネットで集中して対応することで、店舗では対面営業に専念することができるようになった。もうひとつは、顧客情報の集約と活用だ。店舗、インターネット、コールセンターで収集した顧客情報を一元管理することにより、CRM(Customer Relationship Management)にも取り組みやすくなったのである。

プル型営業への転身

 新光3サポートの一翼であるコールセンターの名称は「新光サンキューダイヤル」。これは旧来の営業スタイルとはまったく逆のプル型営業をコンセプトとしている。
 これまでは営業担当者が顧客を訪問したり、電話をかけたりして、証券会社側から積極的にアプローチ。いわゆるプッシュ型の営業を行っていた。しかし、インターネットの普及により自ら情報を収集して取り引きを行う顧客が増えてきたことから、顧客から寄せられる問い合わせや相談の機会を活かしたプル型の営業活動が必要であると判断したの だ。
 同社ではコールセンターの開設に当たり、支店業務の洗い出しを行った。営業担当者への電話の取り次ぎや株価照会の件数などを調べ、どの業務をコールセンターに移行すれば、支店の業務が軽減されるのかを分析したのである。この結果に基づき、コール数を予測。必要な席数を割り出した。
 こうして2000年8月にRFP(Request For Proposal)を作成。翌月にはシステムインテグレーターを決定し、同年10月にはエージェントの採用・教育に着手。2001年1月22日にカットオーバーした。

フリーダイヤルの名称を社内から募集

 新光サンキューダイヤルは東京に設けられており、1カ所で全国の顧客に対応している。
 具体的な業務内容は、①オンライントレードに関するテクニカルサポート、②商品説明や住所変更などの受け付け、③株価照会の受け付け、④受注、⑤そのほかの一般的な問い合わせ受付など。
 これらの受け付けには、NTTコミュニケーションズのフリーダイヤルサービスを利用している。導入の理由は、顧客に電話をかけやすい環境を提供すること。市内に店舗があるとは限らないため、遠方の顧客の通話料負担を軽減しようと考えたのである。
 フリーダイヤル番号は、0120-394545(サンキュー新光・新光)と顧客に認知されやすい番号を使用している。フリーダイヤルの名称は、社内公募により選定されたもの。告知媒体には、新聞・雑誌広告、出版物、パンフレット、ダイレクトメールを活用。URL と併せて記載している。覚えやすい番号のため、広告を見たらすぐに電話をかけてくださる顧客が多いという。
 受付時間帯は平日の8時30分から21時までと、土日・祝日の9時から17時まで。同社の顧客には給与所得者が多く、店舗の営業時間内に来店するのは難しい。また、勤務時間中にオフィスから電話をかけるのもはばかられる。そこで、夜帰宅してからでも問い合わせができるよう、平日は21時までの営業としたのだ。
 席数は最大100席で、常時、平均60〜65席を使用。このうち、3分の1を受注、3分の2をテクニカルサポートや各種問い合わせ受付に割り当てている。
 エージェント数は約130名。雇用形態は社員、派遣社員、業務委託とさまざま。社員と派遣社員は証券外務員資格取得者で、受注や株価照会、商品説明などを担当。業務委託はテレマーケティング・サービス・エージェンシーのスタッフで、インターネットやパソコンに関するテクニカルサポートや資料請求受付といった資格が不要な業務を担当している。
 コールセンターシステムはデフィニティ、バンティブ、オラクルDBなどで構成している。前述のように、エージェントごとにスキルを設定しているため、IVR(自動音声応答装置)を活用。顧客に用件を番号で選択してもらうことにより、迅速に適切なエージェントに電話をつないでいる。同社ではIVRのメニュー、および操作方法をホームページ上で案内(資料1)。顧客がスムーズに操作できるよう、サポートしている。

新光サンキュー・ナビ 新光サンキュー・フリー

【資料 1】新光サンキューダイヤルの自動音声応答操作方法説明画面

ナビダイヤルで急激なコール増に対応

 新光サンキューダイヤルに最も多く寄せられるコールは株価照会。全体の7〜8割を占めている。株価が大きく変動するとコール数が急激に増えて、受注などの有人対応がつながり難くなるケースがある。
 こうした場合に備えて同社では、自動音声でも株価照会サービスを提供している。これには、通話料を企業と発信者の双方で折半する仕組みのナビダイヤルを利用。フリーダイヤルの待ち呼が多くなると、ナビダイヤル番号をアナウンスし、混雑を緩和させることで、顧客の投資機会損失を防いでいる。
 ちなみに、2003年5月にフリーダイヤルに寄せられたコール数は4万件、ナビダイヤルに寄せられたコール数は9万5,000 件だったが、それ以降、株価が上昇。そのため10月にはフリーダイヤル9万5,000件、ナビダイヤル17万件が寄せられた。株価が落ち着いた11月は、3割ほど減少したという。
 このように、株価の影響を受けてコール数が増減するのが、テレフォントレードの宿命。同社では、こうしたコールの波にフレキシブルに対応することを課題としている。対応策としては、注文を最優先するなど、スキルベースルーティングを実施。このほか、保留時間や後処理時間の短縮、システムのパフォーマンス向上などに取り組んでいる。
 逆に、コール数が少ない時期もある。また、こうしたコールの波は 1日の中にもあり、マーケットが終了した後はコール数が少なくなる。そこで同社では、こうした時間帯を活用して、アウトバウンドコールを実施している。
 発信内容は、大きくわけて3つある。ひとつ目が、新光3サポートの案内。同社の開設口座数が約100万であるのに対し、新光3サポートを利用している顧客の口座数は約20万。より多くの顧客にサービスを利用していただくことが狙いだ。2つ目が、特定口座の案内。保護預り株券の特定口座受入が2003年末に締め切られるため、手続きを促進しているのである。そして3つ目が、制度変更のお知らせなどスポット的に発生する業務となっている。
 業務に当たるのは、インバウンド業務も兼務するエージェントとアウトバウンド業務専属のエージェント。インバウンドとアウトバウンドでは求められるスキルが異なるため、同社ではアウトバウンド専属のエージェントを多く起用しているという。
 また、発信業務の実施に当たっては、企業からの電話を好まない顧客もいるため、いくつかの配慮が必要である。同社では、顧客の在宅時間である夕方から夜間にかけて集中して発信しているが、高齢者宅には日中にかけるなど、顧客に合わせて発信をプログラムしている。

頭を悩ますもうひとつの課題

 同社がもうひとつの課題として挙げているのがエージェントの教育と採用だ。最近では、コールセンターの普及に伴い、エージェントの需要と供給に開きが生じているため採用により力を注いでいるという。
 採用後はマニュアルに基づき研修を実施。インバウンド業務については、ひとり立ちするまでに2カ月ほどかかる一方、アウトバウンド業務は、数週間で業務を始めることができるという。
 フォロー研修としては、随時モニタリングを実施して、スキルアップを図っている。

クレーム・要望は企画会議でフィードバック

 同社では、新光サンキューダイヤルに寄せられたコールについては全件録音しているが、コンタクト履歴については情報をある程度絞り込んでいる。
 例えば、いつ誰から株価照会があったという記録は残すが、どの銘柄を照会したかは残さない。というのも、同じ顧客が何度も株価を照会するケースが多く、銘柄も自分が保有するものが大半だからだ。こういったデータは記録しておいても、後々、何らかに活用することは難しい。さらに情報が膨大になればシステムへの負荷も大きくなるため、本当に必要な情報に限定しているのである。
 センターで登録したデータは、業務終了後にバッチ処理を行いホストデータに反映。翌日には各店舗の顧客システムと情報を共有できる仕組みになっている。
 こうして情報の共有化を図っているわけだが、センターに投資相談が寄せられた場合など、その日のうちに対応が必要な案件が発生することもある。この場合は、ペーパーベースで情報をやり取りし、迅速な対応を実現している。
 このほか、クレームや要望については、センターで集計した後、本社企画部門を通じて、必要に応じ担当部署にフィードバック。できるものから順次、改善を図っている。これまでに顧客の声を活かした具体例としては、ホームページの変更、ダイレクトメールに同封するレターの変更などが挙げられる。また現在は、NTTドコモとボーダフォンに提供しているモバイルサービスを auにも拡大しようと取り組んでいるところだ。

新光サンキューダイヤルは会社の顔

 前述の通り、現在、センターと各店舗の情報共有には時差がある。これをリアルタイムでできたほうがいいわけだが、そのためにはクリアしなければならないハードルがある。同社では、システム面はもちろんのこと、各店舗における情報の活用方法を明確化した上で、検討したいとしている。
 システムも大切だが、やはり“人”の問題抜きでコールセンターは語れない。今後、同社ではコールセンターのマネジメントと、オペレーションに当たるエージェント双方の人材育成に努めていく方針だ。
 コールセンターの対応は企業イメージを左右する。それゆえに、全社の顔であることを意識した対応が求められるわけだが、その実現のためにも、教育は欠かせない。同社では今後も、「クライアント・ファースト」を具現化し、顧客満足度を高めることに全力で臨む構えだ。

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新光サンキューダイヤルのオペレーション風景。壁にはどの席からも見えるように、目標とする保留時間、後処理時間などが書かれた紙が貼られている


月刊『アイ・エム・プレス』2004年1月号の記事