コンタクトセンター最前線(第5回):コールセンターを核とした新テクニカルサポート体制を確立

日本コンピュウェア(株)

ソフトウエア製品やプロフェッショナル・サービスを駆使したソリューションを提供する、日本コンピュウェア(株) 。 2002年4月、同社では、保守契約者を対象としたテクニカルサポート体制の強化を目的に、コールセンターを開設。 さらなる顧客満足度の向上と、業務の生産性向上を目指している。

2002年4月よりテクニカルサポート体制を一新

 米国コンピュウェアは、1973年に創設された独立系のソフトウエア・ベンダー。開発・品質管理・導入・運用管理といったアプリケーション開発の全サイクルにわたり、ソフトウエア製品やプロフェッショナル・サービスを駆使したソリューションを提供している。現在、同社が開発・販売している製品数は130以上に及ぶ。
 その日本法人として1992年に設立された日本コンピュウェア(株)では、2002年4月にコールセンターを開設。保守契約者を対象としたテクニカルサポート体制の強化を図った。
 同社では、コールセンターで専任のスタッフが全製品に関するさまざまな問い合わせを一手に受け付けることによって、顧客満足度を向上。同時に、サポート業務の生産性向上を図ることを目的としている。

コールセンターが必要な理由

 なぜ、コールセンターが必要であったのか?
 米国コンピュウェアの設立当初、「File-AID」「Abend-AID」という製品がヒット。これを契機として企業買収を繰り返し、製品のラインナップを拡充。製品ごとに営業、技術、開発、サポートを行っていた。
 これを受けて、日本コンピュウェアでも製品別に事業を展開。同社製品は、メインフレーム(大型汎用機)系、Windows系、およびマルチプラットホームの開発支援ツール、ネットワーク運用管理支援ツールを中心に30種類以上の製品を提供しており、複数のサポート窓口を設けていた。また、同社では代理店を介して製品を販売しているため、各代理店でも顧客対応が行われていた。そのため、複数の製品を導入している顧客の場合、問い合わせ窓口が分かりにくい上に、いくつもの窓口に問い合わせをしなければならない状況にあった。
 加えて、テクニカルサポートや顧客満足に対する社内の考え方もさまざま。買収を重ねた結果、複数の企業文化が混ざり合い、対応レベルにもばらつきが生じていた。さらに、製品数・顧客数の増加に伴い、このサポート体制では技術者のキャパシティーにも限界があると認識していた。
 コールセンターを設けて顧客窓口を一本化すること。これが以上の問題すべてを解決する最良の方法だったのである。

一から改革を進め意識統一を実現

 コールセンター立ち上げ経験者であれば、その産みの苦しみは容易に想像できよう。同社もその例にもれない。
 同社では、製品ごとに生じていた対応のばらつきをなくし、サポートのレベルを均一にしたいと考えていた。そこでまず、コールセンター立ち上げプロジェクトを発足。日本コンピュウェアとしての明確な対応スタンダード(業務基準)作りに取り組んだ。
 作成に当たっては、製品ごとに行われている業務を、すべて把握することが不可欠。そこで業務をひとつひとつ洗い出すための調査・ヒアリングからスタート。結果、「製品情報の問い合わせ」「講習会など有料トレーニングの問い合わせ」「製品不具合」「技術的な質問」など10種類にカテゴライズすることができた(図表1)。そこで誰が見ても分かるよう、このカテゴリーごとにワークフローを作り、業務基準書としたのである。ここでは、これまでの対応レベルを下げることなく、劣っていた対応を引き上げることに留意した。プロジェクト担当者は、このプロセスに最も苦労したという。

0205-cs図1

 また同社では、これまでの顧客対「技術者」、あるいは「営業スタッフ」というスタイルを改め、顧客対「日本コンピュウェア」というサポートを提供したいと考えた。そのためには、技術者の意識改革を行い、目指すべき方向を定めて意識統一を図ることが不可欠である。そこで同社では、業務基準書を技術者にも配布。両者の意識を統一し、一体となって顧客対応に臨める環境作りを行った。
 複数の企業文化が入り混じった中での業務基準の作成、また、コミュニケーション能力に長けている人材が少ないと一般に言われている技術者との意識統一は、同社ならではの苦労だったのではないだろうか。

技術者を一次受付スタッフに起用

 受付体制は図表2の通り。

0205-cs図2

 顧客からの問い合わせには、電話、FAX、eメール、Webを通じて対応している。さまざまなチャネルを通じて寄せられる問い合わせは、すべて一次受付で対応。ここには4名の技術者が専任スタッフとして起用されている。一次受付では、顧客の用件を正確に理解し、把握することが求められる。そのため、全製品の概要を把握している技術者を起用したわけだ。
 一次受付では、講習会のスケジュールなど各製品の担当技術者が答える必要性のないもの、OSのバージョンアップやソフトウエアの互換性に関することなど比較的容易な問い合わせに対応。それ以外のより専門的な問い合わせについては、製品サポートチームに振り分けている。
 一方、製品サポートチームは、各製品の担当技術者約40名で構成。一次受付から転送された用件を受けて、コールバック、あるいは顧客訪問を行っている。
 一次受付で技術者が対応することのメリットとしては、製品サポートチームの技術者が次のアクションを起こす前にあらかじめ必要な情報を準備しておけること。さらに、煩雑な業務から解放され、本来の業務に専念できることが挙げられる。
 電話での受け付けには、NTTコミュニケーションズのフリーダイヤルサービスを導入している。これまでは、フリーダイヤルの導入状況も窓口ごとに異なっていたが、「サービスの均一化」「顧客の利便性向上」の2つの理由から、フリーダイヤルで統一。また、同社の製品を導入していない一般の方を対象とした問い合わせ受付との差別化を図ることも挙げられる。
 受付時間帯は祝日を除く月曜から金曜日の午前9時から午後6時まで。時間外は自動アナウンスで緊急障害用のフリーダイヤル番号を案内している。同社では、時間外の一次受付をアウトソーシング。緊急障害用に電話が入ると、受付オペレータが担当の技術者に連絡を取り、技術者から顧客へコールバックするという方法で対応している。

CRMシステムを活用し顧客満足度を向上

 コールセンターの告知媒体にはDMを活用。レターとサポート体制を分かりやすく説明したパンフレットを送付した。このほか、顧客を訪問した際に手渡せる名刺サイズのカードを用意(資料1)。もちろん、ホームページも活用している。

コンピュウェア

【資料1】 コールセンターの告知用カード

 中には、コールセンターを単なる電話受付ととらえている顧客もおり、テクニカルサポート体制の変更に伴ってサービスの品質が落ちることを懸念する声もあった。そこで同社では、製品ごとに構築していた顧客情報をCRMシステムへ統合した。加えて、技術者が頭で記憶している情報も聞き出して登録。さらに、技術情報や技術担当者のスケジュールを把握できる機能を付加することで、円滑な一次受付業務の推進に必要な機能の充実を図った。
 CRMシステムを活用すれば、電話、eメール、FAX、Webを通じて寄せられたコンタクト履歴を一元的に管理できる。これにより、製品サポートチームにつないだ案件の進捗状況を把握することが可能となった。コールセンターでは、ひとつひとつの案件にコールオーナーを付け、案件が何日も放置されている場合にはコールオーナーに状況を確認。これまでの体制では起こりがちだった、技術者が忙しいために案件が放置され、滞りがちになることを防止している。

満足度の基準は十人十色 顧客の声の活用が課題

 ひと口に顧客満足と言っても、顧客によって満足の基準や求めていることが異なる。顧客満足を獲得するためには顧客が何を望んでいるのか、対応や技術力に対してどんな印象を持っているのかを知ることが不可欠。今後同社では、コールセンターが主導となり、全顧客を対象に半年に一度の頻度で顧客満足度調査を実施していきたいとしている。
 ここで課題となるのが、顧客満足度調査の結果や、日々の業務を通じてCRMシステムに蓄積された顧客の声の活用方法だ。今後同社では、顧客の声をもとに、コールセンター開設時に作成した業務基準書の見直しや、ホームページ上で公開しているFAQの充実に努めていく意向。特に後者については、順次情報をアップして質・量ともに充実させていきたいとしている。
 一方、業務改善委員会が中心となって、全社的な情報の共有化を推進中。現状、コールセンターや営業、技術といった限られたセクションのみに導入されているCRMシステムを、マーケティングや営業技術支援部などにも順次導入していく計画だ。

ニュービジネスにつながるアウトバウンドを模索

 今回のコールセンター開設によって、インバウンドの体制は整った。今後同社では、このインフラを活かしてアウトバウンドコールの展開を標榜している。
 以前、製品を導入した顧客を対象に、その後の経過や使い勝手などを伺う「ハローコールプロジェクト」を実施したことがある。この時、保守契約に入っていることすら忘れてしまっている顧客もいるという予想外な結果が得られた。同社では、多くの顧客に保守サービスを利用してもらうと同時に、保守契約数の維持・拡大を図るためにも、アウトバウンドの有効性を感じているのである。
 また同社には、コールセンターを単なる電話受付係ではなく、企業の収益に貢献できるセクションにしたいという思いがある。そのためには、既存顧客へのクロスセリングにつながる活動をしていくことが必要だ。具体的な展開はまだ明確になっていないが、顧客情報を活用して、潜在している課題を引き出せるようなアプローチを検討していきたいとしている。

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オペレーションの様子。コールセンターは東京本社内にある


月刊『アイ・エム・プレス』2002年5月号の記事