通信ネットワーク最前線(第61回):互いの理解を深めブランド・ロイヤルティーの向上を目指す

ハーゲンダッツ ジャパン(株)

1984年に東京・青山に第一号店を出店してから、その魅力的な商品で多くのお客様の心をつかんできたハーゲンダッツ ジャパン(株)。同社お客様相談室では、ひとりでも多くのお客様の声を吸い上げ、ブランド・ロイヤルティーを向上するべく努めている。

お客様と双方向のコミュニケーションを目指して

 ハーゲンダッツ ジャパン(株)では、1989年より、マーケティング部門にお客様対応専任者を設け、手紙や電話で寄せられる問い合わせや指摘に対応してきた。それがマーケティング部から独立・発展したのが、現在のお客様相談室である。
 同社のお客様は、ハーゲンダッツアイスクリームに高いブランド・ロイヤルティーを感じており、食べるシチュエーションを調べたところ“頑張った自分へのご褒美”としているお客様が多かった。また、お客様の大半がリピーターであり、ハーゲンダッツアイスクリームのファンなのだ。ひとりでも多くのお客様の声を吸い上げてニーズをつかみ、商品に反映させることで、より一層ブランド・ロイヤルティーを高めようと考えた同社では、1994年、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルを導入。お客様が電話をかけやすい環境を整えた。
 一般的に、フリーダイヤルを導入するとコール数が従来の2~3倍に増えると言われているが、同社の場合も、導入前は年間3,000件程だった問い合わせ件数が7,000~8,000件と2倍以上に増加した。
 また、フリーダイヤル導入のもうひとつの理由として、もっとアイスクリームを理解していただきたいという思いがあった。子どもから大人まで楽しめ、私たちの生活に馴染みが深いアイスクリームであるが、意外にもその商品知識はあまり普及していない。たとえば、アイスクリームは賞味期限表示が免除されているにも関わらず、同社のお客様相談室には賞味期限に関する問い合わせが多く寄せられるという。
 お客様と1対1でアイスクリームについて話ができる場は限られている。同社においてお客様相談室は、お客様と直接話しができる貴重な部署である。お客様の声に耳を傾けると同時に、お客様に知っていただきたいことも伝えていく。同社では、互いに理解を深めることのできる双方向のコミュニケーションを図っていきたいと考えているのだ。
 現在、お客様相談室ではフリーダイヤル電話、手紙、eメールを活用してお客様に対応している。
 お客様相談室の告知媒体には、全商品のパッケージ、ギフト券、ギフト券用封筒のほか、ホームページを活用。また、雑誌記事の問い合わせ先にもお客様相談室のフリーダイヤル番号を記載するなど、お客様の目に触れるものすべてを活用してお客様相談室の告知に努めている。

ホームページのトップ画面

ホームページのトップ画面(http://www.haagen-dazs.co.jp/home.html)。
一番目のいく、中央ロゴのすぐ下にお客様相談室の記載がある


受付体制の拡充に注力

 同社お客様相談室は、東京都目黒区にある本社内に設置。ここで全国のお客様からの問い合わせ、および要望・指摘などの対応を一手に引き受けている。セキュリティの都合上、お客様相談室には社員のみ入室が許されており、外部の人間は一切入ることができなくなっている。
 前述の通り、お客様相談室では、フリーダイヤルの導入以降、着々とコール数が伸びてきたことに加え、食品関連の事故の余波を受け、さらにコール数が増えてきた。そこで、2001年1月にフリーダイヤルを1回線増設し、オペレータを1名増員したほか、土曜日の受け付けも開始し、お客様相談室の受付体制を拡充した。
 現在、オペレータ数は6名で、交代でシフトを組み対応に当たっている。内訳は2名が同社社員、4名が派遣社員で、このうち5名が電話と手紙に対応し、1名がeメールと電話に対応している。また受付時間帯は、月曜日から土曜日の9時10分から17時30分までで、日曜日と土曜日以外の祝日は休業となっている。
 また、同年5月には、NECのiView工房を導入した。導入の理由としては、今後強化していく予定のeメールの対応履歴をそのまま蓄積できることと、カスタマイズが容易なことを挙げている。開発着手から約2カ月半でカットオーバーすることができたという。現在はコールサポート機能のみの稼動となっているが、この10月よりeメールサポート機能の開発に着手する予定となっている。
 お客様センターでは、今後も引き続き、受付体制の拡充に努めていく意向だ。

フリーダイヤル・サービスを効果的に活用

 受付状況を見ると、問い合わせ、および要望・指摘の件数は、フリーダイヤル電話、手紙と一般電話(代表からお客様相談室に転送されてきたもの)、eメールを合わせて、年間約1万2,000件。それぞれの割合は、フリーダイヤルが85%、手紙と一般電話が5%、eメールが10%となっている。
 お客様相談室では、全体の85%を占める電話応対を効果的、かつ効率的に行うために、フリーダイヤルの基本機能をうまく活用している。
 同社の商品は、現在30種類以上にもおよび、その中には地域限定のものもある。たとえば「クリスピーサンド」は、発売当初は全国展開していたが、予想を上回る売れ行きにより店頭での品薄・品切れ状態が続いた。現在は、安定供給を図るために販売エリアを関東に特化している。また同社では、首都圏を中心にショップ(専門店)をオープンして販売を行っているが、東北より北への出店はしていない。これらに関する問い合わせをいただいた場合、お客様の発信地域によって回答が異なるため、あらかじめお客様の発信地域がわかっていれば、スムースで的確な対応をすることができるわけだ。
 お客様相談室では、ご指摘をいただいたお客様には住所、氏名、電話番号をうかがい、お詫びのお手紙を差し上げるほか、後日、アンケートにも協力していただいているが、単なる問い合わせのお客様に関してはこれらの情報はうかがっていない。そこでフリーダイヤルの基本機能を活用することにより、お客様の発信地域を把握しているのである。また、レポート機能により、都道府県別、時間帯別コール数を把握している。

お客様相談室のオペレーション風景。

お客様相談室のオペレーション風景。お客様の声に
熱心に耳を傾け、真摯な対応に努めている様子がうかがえる


欠けている面を補い、良い面を伸ばしてスキルを向上

 システムも欠かせない要素のひとつではあるが、お客様対応に一番大切なのはコミュニケーション能力であるというのが同社の考え。派遣社員については、派遣会社の教育担当者がモニタリングを実施し、必要に応じて後日研修を行うほか、2カ月に一度はマン・ツー・マンでの研修を実施。また、社員については外部研修を利用して、スキルアップを図っている。
 またお客様相談室では、この6月に、お客様相談室を客観的、かつ総体的に評価するために、モニター調査を実施した。これは、同社のお客様相談室のほかに、食品メーカーや化粧品メーカーなど数社のお客様対応窓口に電話をかけ、その対応を比較するというもの。
 この調査による同社お客様相談室の評価は、「お客様の話を理解しようとする姿勢が強く見られるが、説得力がない」というものだった。この説得力のなさは、経験が浅いことに起因していると考えられる。1日1日、確実に経験を重ねて自信をつけていくことが不可欠と言えよう。同社では、欠けている面を補う一方で良い面を伸ばし、スキルアップを図っていきたいとしている。
 また、この結果を受けて、対応が良かった他社のお客様対応窓口にオペレータがお客様になりかわって電話をかけ、良い対応を体験するという研修を行った。

電話をかけてくるお客様の気持ちとは

 先のモニター調査により、プロの目から見たお客様相談室の総体的な評価はわかった。では、お客様はお客様相談室の対応をどう評価しているのだろうか。
 お客様相談室では、過去7年間に寄せられたお客様からの意見・要望・指摘を蓄積したデータベースを保有しており、そこには約6万件のお客様の声が蓄積されている。この中から、ご指摘をいただいたお客様をピックアップし、年に2回、郵送によるアンケート調査を実施している。
 直近の同調査は、2001年2~3月にアイスクリームが溶けているというご指摘をいただいたお客様を対象に実施した。この回収率は約80%。なんとも驚異的な数字だ。これも、同社のアイスクリームのブランド・ロイヤルティーが高く、お客様がファン化していることの表れと言えるだろう。
 お客様に率直な意見を自由に記入していただけるよう、アンケート用紙には、フリーのコメント欄を設けているが、多くのお客様から何らかのコメントが寄せられたという。そこには、「どきどきしながら電話をかけたけど、かけて良かった。」といった内容のコメントが多くあり、お客様は勇気を出して電話をかけてくるのだということがわかった。
 お客様相談室では、電話をかけてくるお客様の気持ちを理解し、すべてを受け入れて聞く姿勢を大切にしていきたいとしている。

お客様の声の共有とその活用が課題

 同社への意見・要望・指摘は、ショップに直接寄せられる場合もある。その場合は、ショップからお客様情報カードによりお客様相談室に報告される。お客様相談室では、すべてのお客様の声を把握しているのだ。また、ショップの店長からお客様にお詫びの手紙を送る場合も、お客様相談室でその内容をチェックしてからでなければ送ることができない仕組みになっている。これは、同社からお客様へ発信する情報や表現を統一すると同時に、複数の目で確認することで、ご指摘とそれへの回答に対する公平な見方をすることを目的としている。
 現在お客様相談室では、多く寄せられた問い合わせとその回答を、ホームページ上のFAQに掲載するかたちでお客様の声を活用しているが、社内でのお客様情報の共有化はまだまだといったところ。現在、経営陣には日報を配信しているほか、この8月からは月報の配信もスタートした。月報では、お客様相談室やショップの店頭に寄せられた指摘を全件記載しているほか、新商品への要望なども報告している。
 今後は、iView工房の機能拡充を図ることで、蓄積したお客様の声をエリアマネージャーにまで公開して広く情報の共有化を図り、商品開発やショップでのサービスの向上に役立てていきたい考えだ。ただ、この場合、他部署の社員がiView工房へ積極的にアクセスしてこなければ情報を活かすことができない。そこでお客様相談室では、営業部門やショップの関心を促すために、営業拠点を訪問してお客様情報の共有化を目的としたミーティングを開催するほか、全国店長会など店長が集まる場所でお客様の声を伝えるという試みを実施している。
 この時に留意するべき点は、個人情報の漏洩を防ぐことである。あくまでも活用するのはお客様の声であって、お客様の個人情報ではないのだ。
 「お客様の気持ちを理解する」「お客様の話を聞く」という同社の対応姿勢は非常に好感がもてるところ。お客様との双方向コミュニケーションを推進し、ブランド・ロイヤルティーの向上を目指す同社の、今後の取り組みに注目していきたい。

お客様相談室のページ

お客様相談室のページ。ここでは、「バーゲンダッツの由来」「賞味期限について」
「アイスクリームの保管方法について」といった、よくある問い合わせとその回答を掲載。
まずはじめにFAQを利用していただくための工夫として、画面上方にFAQを、
下方でお客様相談室のフリーダイヤル番後を告知している


月刊『アイ・エム・プレス』2001年10月号の記事