自社通販で集めたお客さまの声を「やわらか食」の商品開発などに生かす

キユーピー(株)

キユーピー(株)は10年ほど前から、介護が必要な高齢者や病気療養中の人でも安心して手軽に食べることのできる「介護食」の通販事業を展開。おいしさにこだわった商品ラインナップが支持を集め、会員数は順調に伸びており、累計で約10万人。会員の声に気づきを得て、商品開発に役立てている。

食材を軟らかく、とろみを付けたレトルト食品「やわらか食」

 食品メーカー大手のキユーピー(株)は、10年ほど前から、介護が必要な高齢者や病気療養中の人でも安心して手軽に食べることができる加工食品「介護食」の通販事業を展開している。
 高齢者や病人は、食べ物をかみ砕く咀嚼や食べ物を飲み下す嚥下の機能が低下した場合や、塩分や糖分、タンパク質など摂取する成分の制限が必要とされる場合、健常者と同様の食生活が送れず、固さや成分に特別な配慮が施された治療食が必要となる。代表的な治療食には、消化吸収を良くするために食べ物を液状にした流動食がある。
 その一方で、必ずしも流動食などの治療食が必要な状態にはないが、体調不良や身体機能の低下などさまざまな理由から、健常者と同じ食事を食べることに困難を感じる人も多い。また、高齢化や核家族化が進み、高齢者が高齢者を介護する“老老介護”がクローズアップされるなど、介護に当たる家族の負担も大きく、社会的な支援の必要性が指摘されている。
 同社の「介護食」は、こうした社会的なニーズを背景に、高齢者や病気療養者など食生活に特別な配慮が必要な幅広い層をターゲットに開発された商品群で、売り上げは拡大基調にある。
 主力となっているのは、食材を軟らかくしたり、とろみを付けたりした「やわらか食」で、長年、同社が培ってきた加工食品の開発・製造ノウハウを強みに、おいしく食べてもらえるよう味にこだわり、飽きずに継続的に食べてもらえるよう商品ラインナップを充実させている。「やさしい献立」というブランド名を採用し、雑炊、おかず、デザートなど57品目を販売。いずれも調理の手間がかからないレトルト食品の形態で、1食分を想定した分量に小分けされている。中心価格帯は1食当たり150~200円(税抜き)だ。
 食材の固さは、食べる人の咀嚼能力に合わせ、「容易にかめる」「歯ぐきでつぶせる」といった、日本介護食品協議会が制定する4つの「区分」のいずれかに該当するよう加工され、商品パッケージにこの「区分」をわかりやすく記している。
 同社の「介護食」の販売状況を見ると、病院や介護施設向け業務用が販売額全体の5割強を占めており、市販用の5割弱のうち、ドラッグストアやスーパーなどの店舗での販売分が5分の3、小売や卸売の事業者が独自に運営する通販サイトなどでの販売分が5分の1、そして残る5分の1、全体の約1割が、同社の通販事業による市販用の売り上げとなっている。「やわらか食」の販売額は公表していないが、店舗での販売分だけでも、その出荷額ベースでの売上高は20億円程度の規模に達しているという。

新聞広告で新規開拓 メルマガやDMでリピート促進

 10年ほど前から「介護食」の自社通販を始めた同社だが、それ以前にも、栄養補助食品のサプリメントの通販に取り組んでいた経緯がある。通販で取り扱う商品の選定基準のひとつは、ターゲット層が限定的で販売量が比較的少ないなどの理由から、一般の卸売りを通じた店頭販売には適さないこと。サプリメントも「介護食」も、こうした条件に該当する商品であると判断したという。また、「介護食」については、購買層となる高齢者に行動範囲が狭まり、買い物に不自由を感じている人が多いことも、通販で取り扱う大きな理由だった。ただし、同社のやわらか食「やさしい献立」については、その後、店頭でも販売されるようになり、現在に至る。なお、販売価格については、店頭販売と同水準となっている。
 現在、「介護食」の通販は、関連会社である(株)トウ・キユーピーを通じて運営。通販サイトの「キユーピーアヲハタネットショップ」が販売や受注の中心的な役割を担う。主要な商品を掲載したカタログも半期ごとに発行し、購入客や電話などで問い合わせがあった人に送付しているほか、展示会の会場などでも配布している。
 新規顧客の開拓については、高齢者層に比較的影響力が強いとされる新聞広告が中心。最も反響が大きいのが、全面や5段のカラー広告で、敬老の日などに年2回、全国紙やブロック紙に掲載。「やわらか食」は、一般にはまだなじみが薄いジャンルであることから、商品特性や利用シーンの訴求を重視し、例えば、「ストレスのない介護が互いの幸せにつながる」といった体験者のコラム入りで紹介している。食材の固さの「区分」ごとに、人気商品で構成するお試しセットを用意。初回購買者に、まずは「やわらか食」の味の良さや扱いやすさを実感してもらおうとの狙いがある。
 注文は、通販サイトの申し込みフォームをはじめ、電話、ファクス、郵送で受け付けているが、最も利用が多いのが、電話。特に高齢のお客さまからのコールには時間をかけ、わかりやすく説明するなど、丁寧な対応を心掛けている。過去の全面広告の掲載時には、予想を上回るコールが集中したこともある。
 リピート購買を促す方法としては、希望者にメルマガを配信しているほか、DMも定期的に発送。メルマガについては、高齢者層にも、当初の予想以上に高い割合の読者がいるという。「介護食」の通販を利用する顧客は、高齢者を中心に年1ケタの割合で順調に伸びており、累計の会員規模は10万人程度に達している。

コールセンターで得られる 貴重なマーケティング情報

 世界的に例のない高齢化の進行によって、「介護食」はますます需要拡大が見込まれているが、同社にとってもこの分野はまだ研究途上のジャンル。精力的な商品開発が継続されており、市場のニーズの把握が重要な課題となっている。
 商品開発のためのマーケティング情報の収集方法としては、①医師や栄養士、介護関係者のヒアリング調査、②専門会社に委託する市場調査、③通販のコールセンターで集められた顧客の声の活用がある。特に③は、商品を実際に食べる人やその家族からの商品に関する具体的な要望や意見から、貴重な気づきが得られるケースが少なくないという。
 こうしたマーケティング情報を活用し、2013年8月には、「やさしい献立」の全面的なリニューアルを実施。商品パッケージのデザインや商品名を、高齢者にも見やすく、わかりやすいよう、さらなる改善を加えた。また、固形の肉や魚を食べやすく加工することができる製法を用いた「鶏と野菜のシチュー」「豚汁煮込みうどん」「牛ごぼうしぐれ煮」の3品を追加。さらに、食欲の減退した人にも好んで食べてもらえるよう、イチゴやリンゴなど果物を原料に、ゼリー状に加工した「とろけるデザート」と、果肉をすりおろし、なめらかに仕上げた「すりおろし果実」の新シリーズを投入。
 今後は、顧客・購買データの分析を精緻化し、商品開発や通販事業の活性化に役立てたい考えである。

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通販の主力商品にもなっている「やさしい献立」シリーズのラインナップ。今年8月に全面的にリニューアルした


月刊『アイ・エム・プレス』2013年10月号の記事