「健康づくり教室」を新規獲得の起爆剤としてシニア層を優良顧客に

(株)東急スポーツオアシス

フィットネスクラブを関東や関西で展開する(株)東急スポーツオアシスは、シニアを対象に、ストレッチ運動や手軽な筋力トレーニングを指導する「健康づくり教室」などに取り組んでいる。スポーツになじみの薄かった層に運動を習慣化してもらい、フィットネス会員の拡大につなげる狙いもある。

60代以上の会員は増加傾向 全体の25%に

 (株)東急スポーツオアシスは、1985年に東急不動産(株)の100%出資で設立され、フィットネスクラブの1号店を大阪府吹田市江坂に開設。現在は、首都圏や近畿地方を中心に、トレーニングジムや温水プールなどの施設を持つフィットネスクラブ31店を運営する。2012年には、新規事業として、ダンスやバレエなどの発表会や練習に利用するステージとスタジオを完備した新業態の施設「THE☆STAGE」をオープンさせるなど、積極的な成長戦略を推し進めている。
 フィットネスクラブを継続利用する会員は、2012年3月末現在で10万2,711人。会員の男女比では、45対55で女性が多い。一般にフィットネスクラブの会員は、女性の方が多くなっており、同社でも、過去には7割程度を女性が占めていたこともある。会員の年代は、男女ともに40代が最も多く、全体の約2割を占める。平均年齢では、同社の設立当初は35歳前後だったが、現在は50歳前後。継続して利用する会員が年を重ね、平均年齢を押し上げてきた。若い年代は募集すると集まるものの、定着しづらいとの事情もあり、業界全体がこのような傾向にあるのだという。
 このように会員構成が変化する中で、特に60代以上のシニア層は、継続利用する会員の高齢化に伴い増加傾向にあり、約25%を占めるまでになっている。こうしたシニア層は、明確な目的意識を持って体力づくりに努める傾向が強く、体力や目的に応じて負荷をコントロールしながらフィットネスのプランやメニューを活用。同じ施設に通う利用者との交流も活発で、まさに生涯にわたって利用する優良顧客になり得る。
 とは言え、新規会員の拡大を目指す同社にとっては、若い世代の定着が難しいこともあり、こうした優良なシニアの利用をいかに拡大するかが、経営的に大きなテーマである。これまでスポーツになじみの薄かったシニアには、フィットネスクラブを訪れることへの心理的なハードルが高い。また、シニアの健康維持にフィットネスが有効であることが社会的に十分浸透しているとは言いづらく、「お年寄りがフィットネスに通うのは、逆にからだに悪いのではないか」といった先入観から、否定的に受け止められてしまう風潮もなお根強いという。

フィットネス初心者向け 介護予防事業を14自治体から受託

 同社がシニア層の新規会員の拡大に向けた取り組みを開始したのは、高齢者福祉の分野で、介護予防に対する行政の意識が高まりつつあった2006年。東京都は、住民の健康づくりのための施設として新宿区の健康プラザ「ハイジア」を運営しているが、当時、都から同社に対して入居の打診があったことが、転機となった。シニア市場の成長性に着目していた同社は、これを快諾し、シニア専用施設として「新宿エクササイズルーム」を整備。20坪ほどのスペースに高齢者専用のスタジオを設けて新宿区から受託した介護予防教室を開催、介護予防のプログラムの提供を始めたことで、開設当初から運営に弾みがついた。
 その後、早稲田大学エルダリー・ヘルス研究所との共同研究により、介護予防の医学的な知見に基づく独自のプログラムを開発するなどしてソフト面を強化し、既存のフィットネスグラブにおけるシニア向けプログラムの提供も開始。こうして同社では、フィットネスの経験のないシニアに体力づくりを習慣化してもらう独自のノウハウを蓄積してきた。現在は、シニア向け施策の企画などの担当部署であるヘルスケア事業に3人を配置。フィットネスクラブなどで一般高齢者向けに実施している「健康づくり教室」と、自治体から受託する介護予防事業が、2つの大きな柱となっている。
 「健康づくり教室」は、「新宿エクササイズルーム」のほか、各地のフィットネスクラブ12店で実施。週1回60分で、料金は原則として月額平均5,250円。いすに座ったままの姿勢で行えるストレッチ体操や手軽な筋力トレーニングなど、体力に自信のない人でも無理なく行えるメニューで構成される。定員は会場の施設によるが、多くて15人程度で、高齢者向けの運動指導に関する専門知識を持つインストラクターが指導。利用者には「膝の曲げ伸ばしが楽になった」「階段を上り下りできる体力が付いた」などと好評だ。12施設で約120人の利用があるという。
 また、自治体から受託する介護予防事業は、フィットネス初心者の地域住民に体力づくりの手軽なプログラムを提供して、運動を習慣化してもらうのが狙い。委託先の事業者を一般競争入札で選定するケースが多いが、同社の場合はフィットネスクラブの充実した施設を会場にできることを強みに、随意契約で受託するケースもある。現在、大田区など都内のほか、埼玉県川口市や大阪府大阪狭山市など14自治体から介護予防プログラムの実施を受託している。
 介護予防には、運動を継続することが効果的であることから、まずは「健康づくり教室」や介護予防事業で少しずつ無理なく体力を養ってもらい、フィットネスクラブの入会への流れを作っている。

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「健康づくり教室」の様子

フィットネスを通じて心理的なケアも

 こうした展開の一方で、同社では、シニアの運動指導を担当する人材の養成にも力を入れている。地方独立行政法人の東京都健康長寿医療センター認定の「介護予防運動指導員養成講座」も年間3~4回のペースで開催。インストラクターや介護関連の有資格者が対象で、過去の受講者は、「健康づくり教室」や介護予防事業の運営を支える人材の主力ともなってきた。
 同社では今後も、シニア会員の拡大を図っていきたい考え。新規獲得のプロモーションについては、従来、若い女性のF1層向けが中心で、シニアを意識した施策は実施してこなかったが、新たにシニア層の拡大に向けた施策を投入していく方針。また、シニア会員に施設を気持ち良く利用してもらうには、シニアの目線に立った接客も重要なポイント。特にシニアは、従業員との人間的なコミュニケーションを重視する傾向が強いが、若手の従業員は対応に戸惑うケースもあることから、こういった内容を盛り込んだ研修の実施なども検討している。
 こうした活発な営業展開の一方で同社では、急速な人口の高齢化を背景に、自宅に引きこもりがちな高齢者が増加している実態を問題視している。介護予防事業の対象者の中には、以前は自宅に引きこもりがちだったという人も少なくない。「初めは電車に乗るのが怖かったが慣れてきた」「教室に参加するために外出するようになり、生活に張りが出てきた」といった声も聞かれる。介護予防の運動指導においても、前向きな気持ちで取り組んでもらうと効果が得られやすいといい、心理的なケアの重要性を指摘している。
 こうした問題は、従来の医療や介護の枠組みだけでは対処しづらく、これまでノウハウや知見を培ってきた同社としては、フィットネスクラブの立場から高齢者福祉の分野にも積極的にかかわっていきたい考え。自治体や医療機関とも連携して、フィットネスクラブの施設を、地域の介護予防にこれまで以上に役立てる仕組みづくりなどを目指す調査研究のプロジェクトにも参画していくことにしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2013年3月号の記事