「お客さまの立場で考えよ」顧客本位の徹底で高いリピート率を維持

オイシックス(株)

安全性の高い食品の通信販売で知られるオイシックス(株)は、2012 年に、花を中心としたギフト通信販売の(株)ウェルネスを吸収合併。ウェルネス事業部担当のカスタマーサポートでは、マニュアルを設けず、顧客満足度を最優先した電話応対でお客さまの心をつかんでいる。

コールセンターをオイシックス本社内に移転

 安全性に配慮した有機野菜や無添加加工食品の宅配 サービスで知られる通信販売のオイシックス(株)は、2000年の創業。全国の牛乳販売店や酒類販売店を通じたチラシ配布により注文を受けるユニークな宅配事業からスタートし、現在では売り上げのほとんどを占めるECサイトの「Oisix(おいしっくす)」は、食の安全を志向する消費者層の支持を集めて、売り上げを伸ばし続けている。
 2011年10月には同じく通信販売で生花や食品などのギフト商品を扱う(株)ウェルネスを買収して完全子会社化、2012年4月にはオイシックスがウェルネスを吸収合併した。ウェルネスは1993年の創業で、カタログやネットを通じて事業を展開し、業績を伸ばしてきた。本数や花色を指定できるバラの花束や、名前などが入れられるオリジナルラベルのワインなどが人気商品だ。同社はこの合併によって、ギフトサービスの強化や商品構成の充実など、合併によるシナジー効果の創出を目指している。
 こうした中、2012年10月には、旧ウェルネスのコールセンターを、東京都品川区にあるオイシックス本体のコールセンター内に移転。ここで、ウェルネス時代からコールセンター業務に携わってきたコンシェルジュ(オペレータの呼称)4人が、生花やグルメを扱うECサイト「Wellness(ウェルネス)」への電話およびeメールによる問い合わせに対応している。
 コンシェルジュの呼称は、お客さまをおもてなしするとの意味合いから採用している。コールセンターでは、コンシェルジュに顧客応対業務における大きな裁量権を与える「権限委譲」や、マニュアルに頼らない「脱マニュアル化」による独自の運営手法を実践しているが、これはウェルネス時代に企業文化として確立、実践してきたコンセプトを継承したものである。

生花のギフトサービスを支える独自の企業文化

 同事業部のコールセンターの電話受付時間は、平日の午前10時から午後6時までで、日祝は休業。社員3人とアルバイト1人のコンシェルジュの1日の対応件数は、電話とeメールを合わせて80 ~ 100件である。また、電話やeメールの内容を見ると、商品の注文についてはECサイト経由が大半を占めているため、注文はごく一部。従って商品に関する問い合わせや相談などが中心となっており、クレームなどへの対応も重要なミッションとなっている。
 同事業の運営に「脱マニュアル化」や「権限委譲」が採用されている背景には、取扱商品が、鮮度が重視され、時間の経過とともに品質が低下する生花や食品のギフトであるという事情がある。特に生花は、出荷や配送の過程で、花びらや花の咲き具合が刻一刻と変化する。例えばバラなどの品種では、細やかな配慮をしていても、花冠の付け根の部分でしおれてしまうベントネック現象が発生したり、冬場の寒冷地では輸送中の凍結で花びらが変色したりすることもある。しかし、同社が取り扱っているのは、記念日のお祝いなどとして贈られるギフトであるため、指定の本数がそろい、指定通りの日時に遅延なく配送されることが必須の条件である。
 そのため、商品の品質や配送中の保管状態に最善を期していても、生花の状態や品質にかかわるトラブルやクレームの発生は避けられないものであるという。このような場合、同社では、お客さまと相談した上で、代替策を提供している。特にギフトはお客さまの気持ちを伝えるものであり、商品の交換や返金といったマニュアルに基づく画一的な手順にとどまらない臨機応変な対応が求められる。
 例えば、届けられた生花の品質が損なわれているというクレームが入り、お客さまから、品種や本数など注文時と同条件の商品提供を求められたケースでは、速やかに代替品を届けられるよう、担当のコンシェルジュが届け先の近辺の生花店をネット検索などで探し、配送までを依頼することもある。生花の価格は当然、生花店によって違いがあるが、品種や本数などお客さまの希望の条件を満たすことを最優先する。これら代替品の調達にかかわる判断は、生花店の選定やコストなども含めて、すべて担当のコンシェルジュに委ねている。それゆえ、コンシェルジュには、高いコミュニケーション能力や判断力が求められる。同社のコンシェルジュはいずれも、それらの能力を備えた経験豊富な40歳代の男女である。
 こうした企業文化は、お客さま対応に対するウェルネス特有の経営思想によって醸成されてきた。ウェルネスでは、「すべてはお客さまの立場になって考える」という経営理念を実感として理解するため、新入社員は入社後、全員がコールセンター業務を経験してきた。「母の日」や「父の日」が控える4月から6月の繁忙期に、入社後、間もない新人がコンシェルジュとしてお客さま対応の最前線に立ち、お客さまに叱咤されながら、さまざまな状況やご要望への対応方法および電話応対のノウハウを現場の実践を通じて身に付けていくのが慣例となっていたのである。
 そのため、ウェルネス時代は、コールセンターの運営状況に応じてすべての社員が適宜、お客さまからのコールを受けることができた。ごく基本的なルールを除いては電話応対のマニュアルもスクリプトもFAQも存在せず、新人オペレータ向けに文書化された研修のカリキュラムがあるわけでもないが、お客さま対応の業務全般をスタッフ各自の判断や方法論に委ねることによって、対応品質を向上させ、極めて高いリピート率を維持してきたのだ。この文化は今もオイシックスの中で継承されているという。

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ギフトを受け取ったお客さまが送り手にお礼の気持ちを伝えられるよう、商品に同梱しているポストカード(上)と、お客さまへの感謝の気持ちを込めてお送りしているクローバーの種(下)。こういったアイデアも、直接、お客さまと接するコンシェルジュの意見から生まれてくる

週次の顧客アンケートを点数化しモチベーションアップにつなげる

 こうした運営スタイルを採っていたことから、ウェルネス時代には応答率や応答時間といった一律のKPIは導入しておらず、コンシェルジュの業務を定量的に評価できない面があった。だが、同事業部のコールセンターがオイシックス側のセンターと統合的に運営されるようになったことで、従来はシステム的に実現できていなかったコールセンターにおける顧客のコミュニケーション履歴の管理・閲覧などが初めて可能となった。現在、同センターでは、コンシェルジュのモチベーションアップの目的も兼ねて、KPIの整備を進めているところだ。例えば、お客さまに対して、満足度に関するアンケート調査を毎週1回実施。この評価を点数化し、常に一定の水準を獲得することをチームとコンシェルジュの目標にしている。
 なお今後は、オイシックス側とコールセンター分野の人事交流などを活発化させ、コールセンター運営の新しい伝統を創造していく考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2013年2月号の記事