工業用電子部品の通信販売を展開するアールエスコンポーネンツ(株)では、2008年からFCR(一次対応完了率)の向上を目指したさまざまな取り組みを展開。トレーニングや面談などを通じて継続的にスタッフの意識を改革し、ホスピタリティの向上につなげている。
「カスタマーサービス」部門はお客さま対応の最前線
1937年に英国で創業し、現在では世界160以上の国や地域でビジネスを展開する工業用電子部品の通信販売会社、アールエスコンポーネンツ。その日本法人として、1999年3月に設立されたアールエスコンポーネンツ(株)では、2012年12月、全社的な組織変更に伴い、コールセンター部門を「CSフロントオフィス」と「CSバックオフィス」からなる「カスタマーサービス」部門として再編。従来から進めてきた“マニュアルに依存しないお客さま対応”を一層、加速させている。
同社は行動指針(RS The way we work)の中で、“CUSTOMER FOCUSED”を掲げ、顧客志向経営を推進しているが、「カスタマーサービス」部門はその同社のお客さま対応の最前線である。「CSフロントオフィス」では20名強のスタッフで、問い合わせ対応および受注処理業務を、「CSバックオフィス」では10名強のスタッフでテクニカルサポートやイープロキュアメント(インターネットを活用した部品や資材の調達)などの受注業務を担当。エグゼクティブと呼ばれる現場スタッフの雇用形態は正社員または契約社員であり、いずれにしても直接雇用とすることで、長期にわたりスキルアップを図り、顧客サービスの品質向上を実現している。業務は横浜市保土ヶ谷区の本社内1拠点で行い、平日の9時から18時まで、1日平均350~400コールに対応している。
同社「カスタマーサービス」部門では、定量的にはアバンダン(途中放棄=接続待ちの状態で、お客さまが電話を切ること)比率、エグゼクティブ1人当たりの1日の処理件数などの指標を用いてセンター運営の効率化を進めてきたが、その一方でセンターを利用する顧客の満足度向上に積極的に取り組んでいる。特に2008年からは、顧客満足度を大きく左右するFCR(First Contact Resolution=一次対応完了率)の向上をテーマとしたさまざまな施策を展開している。
エグゼクティブの“名乗り”を徹底
同社がFCR向上のためにまず着手したのが、トレーニング内容の見直しである。
グループのアジアパシフィック全体として、その第一歩に位置付けたのは、コールに対応する際、あいさつの後、エグゼクティブが氏名を名乗ることの徹底。基本的かつ単純なことではあるが、氏名を名乗ることは「私が責任を持って対応いたします」という姿勢の表れとして重要だ。それと同時に、苦情対応のあり方をパターン化し、それぞれのパターンのポイントをつかむためのトレーニングを実施することなどで、各エグゼクティブの対応能力の向上を図った。
また、各エグゼクティブのホスピタリティを確認するために、エグゼクティブを管轄するチームリーダーによるモニタリングを実施。特に各エグゼクティブの“口調”や実際のお客さまの“反応”などを中心に対応内容の確認を行い、問題があれば逐次是正を行っていった。
さらに取り組み当初は、回答可能なお問い合わせであるにもかかわらず、「この問い合わせに自分が回答してよいのか」という質問をしてくるエグゼクティブも少なくなかったことから、チームマネージャーとチームリーダーが定期的に行っている1対1の面談時などに、FCR向上の意義を繰り返して説明。また、例えば製品不良など、対応不可能な問い合わせとは何かを明確に示して、それ以外の内容の問い合わせには一次対応完了を目指すということを社内で再確認した。
加えて、特に「CSバックオフィス」で行っているテクニカルサポート業務については、「できません」「(対応する製品が)ありません」といったネガティブな対応を徹底的に減らす取り組みを推進。お客さまのニーズを100%満たせない場合でも、関連する情報の提供を行ったり、お客さまが探している製品の代替品や類似品、特にお客さまの緊急性が高いと判断される場合には競合他社の商品も提案したりといった対応を行っている。
同時にエグゼクティブの対応をサポートする環境の整備にも注力している。現在はエグゼクティブ1人当たり2台のPCモニターを配置。例えば、お客さまが見ているのと同じWebサイト画面と社内の製品情報システムやFAQを掲載したポータルサイトを同時に確認しながら対応できる体制を整えることで、円滑な対応ができるようにしている。
アールエスコンポーネンツでは、1人当たり2台のPCモニターを配置し、エグゼクティブがお客さまと同じWebサイトを見ながら、サポートを提供できる体制を整えている
取り組みを通じてエグゼクティブの意識向上が顕著に
このような取り組みの結果、2011年度から実施している「カスタマーサービス」部門が対応した顧客を対象とする満足度調査のスコアは上昇を続けており、直近では10点満点で平均8.7点という高い評価を獲得している。さらに、(社)企業情報化協会が主催する「優秀コンタクトセンター表彰制度」において、2012年度の「優秀賞」を獲得するなど、対外的にも高評価を得ている状況だ。
同じく2011年度から年2回実施している意識調査の結果からも、エグゼクティブの意識が向上していることは明確だ。この調査は、「会社を代表した対応ができているか」「自分の役割を理解しているか」といった設問について10点満点で回答し、同時にコメントを行うというものであるが、回を追うごとに“ポジティブ(7点以上)”の比率は増加。「仕事の内容に満足しているか」という設問について“ネガティブ”な回答をしている場合でも、コメントの内容を見ると、「もっとできるはず」「もっと高いレベルになりたい」といった前向きな姿勢が示されているケースが多いという。
なお、ホスピタリティ向上とトレードオフの関係にあるととらえられがちな生産性については、アベレージではほとんど変化がないとのこと。特に同社が展開するB to Bのビジネスにおいては、通話時間の長さが満足につながるケースは少ない。むしろ、いかにお客さまのニーズを理解して迅速かつ的確な対応を行えるかが満足につながる傾向があることから、ホスピタリティの追求が、結果として生産性の向上にもつながっている側面があるようだ。
今後については、組織変更や業務プロセス変更などに柔軟に対応できるセンターの実現を目指していきたいという。例えば、2012年にはオンラインチャットによる対応を開始し、チャットによるサポートがない場合と比較して約10倍のコンバージョン率を達成するという成果を獲得。今後も新たなツールやチャネルを積極的に取り入れ、トレーニングやミーティングなどを通じて定着を図ることで、顧客満足度の向上や売り上げへの貢献を果たしていきたい考えだ。さらに、センターのあり方や将来的なミッションなどについても、全社的な要請をベースに自発的に発言する機運を高めていく。個々のエグゼクティブの対応能力を継続的に向上するとともに、収益への貢献度の高いセンターの実現を図っていく意向である。