お客さまの利便性を追求し会員証や情報配信機能を備えたアプリを提供

(株)ユナイテッドアローズ

独自のポイントプログラムを運用しているセレクトショップ大手の(株)ユナイテッドアローズは、会員証機能を持つスマホ向けアプリの提供を始めた。メルマガの代わりに情報を配信できる機能も備えており、同社は、CRM戦略を支える新しいツールとしてスマホを活用したい考えだ。

CRM戦略の一翼を担うポイントプログラム

 アパレル業界で、デザイナーズ・ブランド商品やオリジナル企画商品をミックスした独自のセレクトショップ業態を築き上げ、全国に約190店舗を展開する(株)ユナイテッドアローズ。新店効果やネット通販の好調から、2012年3月期のグループ売上高は1989年の創業以降初めて1,000億円の大台を突破し、3期連続の増益となった。こうした業績好調のひとつの要因として、顧客ロイヤルティの向上に向けたCRMへの地道な取り組みが着実に成果を上げていることがある。
 そのCRM戦略で中心的な役割を果たしているのが、会員向けポイントプログラムの「UNITED ARROWS LTD. HOUSE CARD(ユナイテッドアローズ ハウスカード)」である。現在の会員登録者は約160万人で、店舗やネット通販で商品を購入する会員は、年間60万人強。会員による売上高は総売上高の半分程度を占めており、増加傾向にあるという。
 現行のポイントプログラムは、原則的に、お買い上げ1,000円ごとに1ポイントを付与するもので、2007年から運用されている。それ以前は店舗ブランドごとに異なる会員制度が併存していたが、お客さまに複数の会員カードの管理を強いることになるなど運用上の課題から、全社共通のプログラムに移行した。
 顧客ロイヤルティの向上を至上命題とする同社のポイントプログラムは、継続的に運用を見直し、お客さまの利便性やメリットを追求してきた。2010年には、セール品にも3,000円につき1ポイントの付与を始め、2011年には、アウトレットもポイント付与の対象に加えている。こうした改善が会員の新規獲得や定着につながっていることから、今年8月には、会員証機能を備えたiPhone対応アプリの無償提供を始め、以前からの磁気テープ付きプラスチック製会員カードと2本立てにした。アプリは独自に開発したもので、会員証機能のほかにも、お勧め商品など最新情報が閲覧できる「ニュース」、クーポンやセール情報が得られる「スペシャル」などのメニューがある。
 スマホ向けアプリによる会員カードのソリューション自体は、小売業界にも導入事例が少なくない。しかし、今回のアプリ導入に当たって同社が際立つのは、CRM戦略の中で新しい可能性を持つスマホをどう使いこなしていくか、従来の施策と整合性を取りつつ、自社のマーケティング環境に適したひとつの解を導き出していることである。

メルマガ配信を拒む会員向けの代替コミュニケーションの役割も

 今回、提供を始めたアプリは、多様な情報配信機能も備えている。例えば「ニュース」は、ECサイトの新着情報を閲覧できるメニューで、ユーザー側で配信を希望する情報のカテゴリを設定できる。また「スペシャル」は、顧客の属性や購買履歴のデータ分析により抽出したセグメントごとに、お得な情報を届けるものだ。新着の有無や件数は、アプリを起動しなくても、スマホ画面のアイコン表示で確認できる。
 こうした情報配信機能は、従来型のメルマガに限界が見えてきたことへの対策でもある。同社では会員へのメルマガ配信も実施しているが、最近の傾向としてポイントプログラムの入会時に配信を拒む会員が一定数いることを問題視。今後、メルマガにネガティブな反応を示す層に対する代替アプローチとしても、アプリの有効性を検証していくことにしている。
 今回の開発に当たり会員証にバーコード方式を採用したのは、レジ付属の商品スキャナーでスキャンできるというメリットがあったためだ。この方式だと、会員IDをバーコード化して携帯端末の画面に表示することで会員証として最低限の機能が果たせるので、必ずしもアプリを使わなくても認証が可能となる。そこで、今回のアプリ導入に併せて、会員専用サイト上に、ログインすると会員IDがバーコード表示される機能を追加。フィーチャー・フォンであっても、サイトにアクセスできれば、認証ができるようになった。
 会員認証の手段をアプリと会員専用サイトに求めたことで、従来のプラスチック製カードを携帯することに煩わしさを感じていた層に新しい選択肢を提示。また、カードを持参し忘れた会員に再発行する必要がなくなるため、コストの削減も期待されている。
 アプリには、住所や電話番号などの登録情報を変更するメニューも加えた。同社のポイントプログラムは、貯まったポイント数に応じ、店舗で使えるギフトカードを定期的に送付する仕組みだけに、せっかくのギフトカードが会員の転居などで不着となる件数をなんとか減少させたいとの思いからだ。今年8月には、ギフトカードの送付を年1回から、年2回に増やすなどサービスを見直しており、ギフトカードのお届けをお客さまとの大切なコミュニケーションの機会としていく考えである。
 アプリの告知については現時点ではまだAndroidに対応していないなどの理由から大々的には行っておらず、店頭とWebサイトが中心となっているが、ダウンロード件数はリリース後2カ月で、既存会員を中心に約8,000件に達している。

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蓄積ポイントが表示されたHOME画面(上)/会員が希望する情報を配信する「ニュース」(中)/会員証にはバーコード方式を採用している(下)

新規会員獲得の仕組みも整備

 従来からの入会の手続きは、まず来店時にお客さまに会員カードを渡し、その後、お客さま自身が会員専用サイトのフォームから必要な情報を登録することで完了する。そのため、実際に入会する人数よりも多くのカードを配布しているのが実状だった。
 しかし今回のアプリを新規会員の獲得に使えば、アプリだけで入会の手続きを完了できるので、同社にとってはカードの配布ロスの防止につながる。現在はまだ、店頭でのカード配布を入会の最初のステップにしているが、将来的には、カードレスの仕組みを整備していく方針だ。
 また、今後は、アプリの機能のバージョン・アップやコンテンツの拡充も予定している。なお、Android対応アプリに関しては、近くリリースの予定で準備を進めているという。
 同社のネット通販においては、スマホからの購買がすでに3割に達しており、将来、スマホが今以上に存在感を増すことは間違いない。もっとも、同社も、今後のアプリの売上効果や行く末を読み切れているわけではない。カタログやDMといった在来のメディアも活用しながら、スマホのポテンシャルを見極めていきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2012年11月号の記事