Webチャネルの利用拡大へ カタログとスマホをリンクする通販業界初のサービス

オットージャパン(株)

世界最大級の通販企業グループの日本法人、オットージャパン(株)は、カタログにスマホをかざすだけで商品情報が閲覧できる業界初のサービスを始めた。紙媒体からWebへとチャネルの転換を図るスケールの大きな試み。今後の展開に注目が集まりそうだ。

カタログにかざすと商品情報が閲覧できる

 通販カタログで気に入った商品を見つけたら、専用アプリを起動したスマートフォンをページにかざせば、Webサイトに誘導され、商品情報などが閲覧できる――。女性向けアパレルやファッション雑貨の通信販売を手掛けるオットージャパン(株)では、6月から、こうした斬新なサービスの提供を会員向けにスタートさせた。肉眼では見えないデジタルコードを埋め込む特殊な印刷技術とスマホ向け専用アプリの「オットー・インフォリーダー」を組み合わせたサービスで、国内の通販業界への導入は初めて。従来の紙のカタログからWebへのシフトを進める同社は、話題性もあるこのユニークなサービスをWeb利用拡大の“起爆剤”にしたい考えだ。今後はアプリのバージョンアップを重ねる方針で、顧客接点の増大や利便性の向上など、スマホを軸とした独自のWebマーケティング戦略を練っている。
 同社は、アパレル通販を中核事業に、欧米をはじめ世界20カ国でビジネスを展開するドイツのオットーグループの日本法人。6月公開のデータによると、世界の全123社で構成されるグループの年間売上高は約116億ユーロ(約1兆1,000億円)で、従業員数は約5万3,000人という世界最大級の通販企業グループである。
 日本法人は、ラグジュアリー路線のカタログ通販『オットーウィメン』を主力に、25年以上にわたる通販事業の実績をもつ。総会員数は約600万人とされ、40代から50代の女性がボリュームゾーン。会員向けカタログは、約100万人に発送されている。2012年2月期の売上高は約130億円で、販売チャネル別の売上構成比では、カタログが約7割、Webが約3割となっている。
 今回同社が、スマホ向けサービスを開始した背景には、紙媒体からWebに通販チャネルの転換を進めるオットーグループ全体の販売戦略がある。やはりカタログ通販から出発したドイツ本国では、数年前にカタログとWebの売上構成比が逆転。顧客に、インターネット利用率の高い若い世代が多いという事情はあるものの、日本国内の数値とは逆に、Webによる売り上げが全体の7割を超えている。日本でも、Webは拡大基調にあり、新たな顧客層を取り込んでいく意味でも、Webチャネルを重視している。一方のカタログについては、廃止までは想定しないが、中長期のトレンドとして、その位置付けがWebチャネルを補完するものに変化していくと見ている。
 こうした現状認識から、同社では、カタログとWebという2大チャネルの連携を強め、カタログの利用が中心のお客さまにWeb利用を促す仕組みづくりを急いでいる。例えば、Webチャネルの利用が多い会員向けには、従来のカタログに替えて、ひと回りサイズが小さく薄い通称“Webカタログ”を送付している。掲載する商品を“売れ筋”や“売り筋”に絞り込み、Webサイトの利用を前提に、情報量を大幅に削減。購買履歴データの分析から送付リストを抽出し、レスポンス率を検証しつつ、送付先を増やしてきた。現在の対象は約8万人となっており、コスト削減にもつながっている。

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通常の『オットーウィメン』がA4変型判・200ページ超なのに対して、通称“Webカタログ”はB5判・68ページ。この特定のページにスマホをかざすと、詳しい商品情報などが見られる

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「オットー・インフォリーダー」のローンチに先立って開催されたお客さまの座談会の様子

紙媒体とWeb を結び付ける“ハブ”としての機能に期待

 こうした中で今回のスマホ向けサービスを打ち出したわけだが、今のところスマホによる購買はそう多くはない。全体の3割にようやく届いたWebによる売上高の2割というのが現状だ。にもかかわらず、パソコンでもフィーチャーフォンでもなく、スマホに着目したのは、急速に普及が進んでいるスマホという携帯端末に、紙媒体とWebを結び付ける“ハブ”の役割となる可能性を見出したからにほかならない。
 目には見えないデジタルコードを印刷物に埋め込む特殊な印刷技術は“電子透かし”と呼ばれ、専用アプリのデジタル処理によって初めて検出できる。国内では、音楽業界でアルバムの販促用フライヤーに採用されたケースはあるが、通信販売のカタログに採用した例はなかったという。今回、大日本印刷(株)の協力を得て、まだ珍しい手法をあえて採用したのには、他社に先駆けて先進的なソリューションを導入することで、Webの利用拡大に本腰を入れる企業姿勢を市場に強く印象付ける狙いもあった。長年のカタログ通販の印象が強いだけに、Web利用を意識付けるには、強いインパクトのある施策が必要だと考えたのだ。
 現在、“電子透かし”の特殊印刷は、Web利用の多い会員向け“Webカタログ”の表紙や裏表紙、冒頭のページなど、注目度の高い数ページに限って用いている。最初に、iPhoneかAndroidか、いずれかの規格に対応した専用アプリをダウンロードしさえすれば、使い方は難しくはない。アプリを起動させ、ページにかざすだけで、内蔵のカメラから取り込まれた画像データからデジタルコードが識別され、誘導先サイトのURLに自動変換される。ページの全面にコードを埋め込めるので、ページのどこにかざしても良く、バーコードをスキャンするQRコードのように、所定の位置でカメラの焦点を合わせる煩わしさもない。

ハードとソフトの両面からサービスを拡充する方針

 一般になじみの薄い手法であることから、導入に当たって、誌面では、利用方法の告知と同時に利用促進のプロモーションを展開。人気モデルの前田典子さんを起用し、専用アプリ経由でしか閲覧できないスペシャル・コンテンツやプレゼント企画を用意している。新しいサービスの普及にかける同社の意気込みのほどがうかがえる。
 同社ではこの取り組みに関して、2012年を本格的な展開を控えた「導入フェーズ」と位置付けている。今後の「本格運用フェーズ」では、段階的にアプリをバージョン・アップしていく構想で、会員限定のセール情報などをスマホの画面にポップアップ表示できるプッシュ型の発信機能も実装する方針。こうした追加的な開発に対する技術面の柔軟性や自由度が高いことも、そもそもスマホ向けサービスの導入を決めた理由のひとつだった。
 同社では当面、商品検索機能を充実させることによって、短い空き時間にもアクセスしてもらえるようにし、顧客接点を増大させることを目標としているが、次のステップでは、購買に直結する仕掛けも順次投入しつつ、継続的に会員に浸透を図っていく考えだ。
 常に携帯しているスマホの待ち受け画面に「オットー」のロゴが入ったアイコンが表示されていれば、それだけ存在が身近になり、購買回数アップなどにつながることが期待できる。特殊印刷を施した“Webカタログ”は10月までに「盛夏号」「秋号」「秋冬号」の3冊が発行されており、同社によると、利用は予想以上に好調という。利用データを分析したところ、1回だけではなく、繰り返し利用する会員の割合が高く、今後の利用定着や拡大が期待されている。
 スマホを活用した今回の施策は、スマートフォンの普及率が欧米に比べて高いという事情に根差した日本法人独自のアプローチであるが、本国ドイツからの注目度も高い。今後の展開によっては、カタログにスマホを連動させるプロモーションが、グループの成長戦略として世界に水平展開されていく可能性もある。


月刊『アイ・エム・プレス』2012年11月号の記事