日本の宅配ピザ事業において先駆者的役割を担ってきた(株)ドミノ・ピザ ジャパンでは、Twitterの公式アカウント取得・運用開始から間もない2010年5月にアクティブサポートをスタート。この分野においてもわが国における先駆けとして、多くの知見・ノウハウを蓄積しつつある。
わが国におけるアクティブサポートの先駆者的存在
日本において宅配ピザ事業の先駆者的役割を担ってきた(株)ドミノ・ピザ ジャパン。同社では2010年4月のTwitterの公式アカウント取得・運用開始から間もない2010年5月、アクティブサポートをスタートした。
従来、チラシをポスティングしてサービスの訴求を図り、電話・ファクスで注文を受けて、商品を配達するというスタイルで成長を続けてきた同社では、2003年からインターネットによる受注を開始。以後、SEM(Search Engine Marketing:検索エンジンマーケティング)・SEO(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化)、各種インターネット広告、メールマガジン配信など、さまざまなかたちでWebマーケティング施策を展開し、これらの施策の効果によって、インターネット経由の受注比率は年々増加している。
そうした中で同社のマーケティング施策におけるWebマーケティングの重要性も年々増してきたが、2009年ごろから、その舞台となるインターネットの世界が大きく変化。TwitterやFacebookに代表されるソーシャルメディアが台頭し、これに伴いWebマーケティングの領域においても、従来の企業から生活者への一方通行の情報発信だけでなく、生活者の発信力をてこに、企業から発信する情報を増幅しようとする取り組みが目立つようになってきた。
同社ではこのような認識の下、2009年10月ごろから、当時、特にユーザーの急増が見込まれていたTwitterの活用について検討を開始し、2010年4月には公式アカウントを取得して、運用をスタート。そして同年5月には、“ドミノ”や“ピザ”などのワードによる検索を行い、これらのワードを含むツイートに返信して、「ご利用ありがとうございます」といったメッセージを伝える取り組みを開始した。当時、日本国内でアクティブサポートに着手している企業はほとんど存在しておらず、その意味で同社は、わが国におけるアクティブサポートにおいても先駆者的存在であると言えるだろう。
あえて人手をかけて“ 血の通った”コミュニケーションを展開
同社がアクティブサポートを含むTwitterの運用上で心掛けているのは、臨機応変な“血の通った”コミュニケーションを行うこと。例えば、同社ユーザーの“ドミノ”や“ピザ”などのワードを含むツイートについて、「ご利用ありがとうございます」といったメッセージを伝えるだけであれば、bot(Twitterに自動的に投稿するプログラム)を活用することもできるが、同社ではあえて人手をかけて、またテンプレートなども用いずにフレキシブルな対応を行うことで、濃密なコミュニケーションを成立させることを目指している。
対応主体についてはマーケティング部門、商品開発部門、お客さま対応部門など、複数の部門に属する正社員が、曜日別に担当するかたちを採っている。対応時間などは特に設定しておらず、時には深夜にも対応を行うなど、可能な範囲での24時間対応を行っている。また、自分の担当曜日以外もTwitterをチェックしているスタッフが多く、特に専門分野に関連するツイートには積極的に対応している。なお、アクティブサポートの開始当初はひとつのキャラクターを設定して対応に当たっていたが、リアリティのある対応を目指すという観点から、ほどなく各担当者がそれぞれの立ち位置からの対応を行う体制に移行。現在でもその体制を継続している。
現在、アクティブサポートの対象とするツイートを検索するためのキーワードは、“ドミノ”“ピザ”のほか、“宅配”“デリバリー”など。検索のための特別なツールなどは導入しておらず、Twitterの基本機能を活用している。対応件数は、新メニューの発売などのトピックスやバズの発生状況などにより変動するが、1日平均20~30件前後。内容的には、不満やクレームは1割程度であり、大半は「○○がおいしかった」など、ポジティブなものが中心となっている。なお、対象者の大半は同社の利用経験があるユーザーであるようだが、同社が店舗展開をしていないエリアのユーザーの「ドミノ・ピザを食べてみたい」といったツイートに対応することもある。つまり、企業ブランド確立のため、同社の顧客以外も対象としてコミュニケーションを展開しているのだ。
実際のやり取りは、ワールドワイドのドミノ・ピザチェーンで統一されたソーシャルメディア・ポリシーに則って行われているが、トーン&マナーについては、基本的に個々の対象者に合わせて変えており、顔文字などを使った比較的フランクなコミュニケーションが展開されるケースも多い。
そのほか、コミュニケーション上の留意点としては、販売促進のための情報発信とは一線を画すことが挙げられている。これはTwitterなどのソーシャルメディアはあくまでも文字通り“社会的”なメディアであるという認識に基づくものであり、特にアクティブサポートにおいては、対象となるツイートをきっかけとした“コミュニケーション”の展開という位置付けを明確化することで、販促色が前面に出ることに伴う“炎上”などの危険性を回避している。
「宅配ピザのドミノ・ピザ」では、各部署の担当者が曜日ごとの当番制で、アクティブサポートを実施
アクティブサポートをきっかけとする広範囲なクチコミの発生を目指す
同社がマーケティング施策の一環としてTwitterを活用すると同時に、一歩踏み込んでアクティブサポートを実施する目的は、コミュニケーションを通じて同社への親近感の醸成を図り、ファンを拡大することにある。その意味で同社が重視しているのが、アクティブサポートをきっかけとするOne to Oneのコミュニケーションをいかに増幅・波及させ、広範囲なクチコミの発生へとつなげていくかということだ。
この点については、方程式を見出すことがなかなか難しいが、例えば最近では、東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催される世界最大級の同人誌即売会である「コミックマーケット」(通称「コミケ」)会場に訪れたユーザーからの、「コミケ会場にもピザをデリバリーしてもらえるのかな」といったツイートに対して、「ドミノ・ピザなら配達しますよ」といったアクティブサポートを行ったところ、広範囲なクチコミの発生につながり、結果として同会場からの注文が相次いだ。こういった経験を通して、徐々に知見やノウハウが蓄積されつつあるとのことだ。
また、アクティブサポートなどのためにTwitterの傾聴を行う中ではさまざまな発見があり、ビジネスを見直す材料となっている。例えば、外国人向けの英語版サイト限定で、日本語版サイトにはない割引率の高いキャンペーンを展開したところ、Twitter上に「こんなお得なキャンペーンがあって、日本人でも注文できるよ」といったツイートが出現。同社では「よくご存じですね」と返信したが、このようなケースを通じて、生活者のインターネット上での情報収集力や感度についての認識を改めることも少なくないようだ。
事業の効率性アップのために、すでに4割を超えているWebサイトからの注文比率のさらなる向上を目指す同社において、ソーシャルメディアの活用によりWebサイトへの誘導を図ることは事業全体における重要なテーマのひとつとなっている。その中でアクティブサポートについては、まだまだトライアルの段階にあると認識しているが、今後、その精度をさらに高めることで、成果の拡大を図っていきたい考えである。