社会に愛され、社員を奮い立たせる企業文化をつくるメソッド社のメソッド(方法論)

メソッド社

革新的でスタイリッシュなホームケア商品が人気を呼び、急成長したメソッドは、長期的な成長を見据えて企業文化の再確認を行い、「5 つのコア・バリュー」を打ち立てた。3段階からなる独自の採用の仕組みにこだわるなどして、このコア・バリューの具現化に全社を挙げて取り組んでいる。

急成長のゆがみがもたらした、企業文化の危機

 「身体にも環境にもやさしく、目にも心地良い」をコンセプトに画期的なホームケア商品を次々と市場に投入しているメソッド(Method)。植物性原料のみを使用した8倍希釈の洗剤など革新性に富む商品を世に紹介するだけでなく、世界的に有名な産業デザイナー、カリーム・ラシッド氏とのコラボによる洗練されたパッケージ・デザインで米国の生活者を魅了し、今日では全米の4万を超える店舗で商品が販売されるまでになっている。2010年には日本進出も果たした。
 メソッドの共同創設者エリック・ライアン氏とアダム・ロウリー氏は「成功の源泉は企業文化」と明言する。しかし、創設当初から企業文化を念頭においていたわけではない。
 創業6年目の2006年。それはメソッドにとって飛躍の年であった。同社のスタイリッシュなエコ商品は各種メディアに取り上げられ、販売数量において200~300%の成長を遂げ、競合他社の羨望の的となった。年商も前年の倍の3,200万ドルを突破。急ピッチな事業拡大をまかなうための増員に次ぐ増員でオフィスは手狭になり、社員の机が廊下や会議室を占拠した。
 想像だにしなかった順風満帆の成長ぶりに嬉しい悲鳴を上げる傍ら、経営陣の間には危機感が漂い始めていた。「メソッド“らしさ”が損なわれつつある」という危機感である。
 「メソッドの成功要因は企業文化にある。企業文化を育成し、強化し続ける、それができない限り、長期的な成長維持はあり得ない」と実感したメソッドの経営陣は、当時、サンフランシスコ、シカゴ、ロンドンの3都市に散らばっていた幹部社員、総勢90人を集め、合宿を行うことにした。日常の業務から離れ、ただひたすらに企業文化について語り合うことが目的だった。

企業文化の「レシピ」はどう書く?

 合宿を通してわかったことは、社員の多くが「ザ・メソッド・ウェイ(メソッド流のやり方)」を求めているということだった。より形式化されたコミュニケーション、キャリア・プラン、人事考課、採用や研修の仕組み…。メソッドの流動性や自由さ、破天荒さを愛し、その社風を守りたいと願いながらも、よりどころとすべき仕組みの欠如に社員は戸惑いを感じていたのだ。
 調理に例えれば、それまでのメソッドは、腕の良い料理長(経営陣)が勘でおいしいスープ(企業文化)をこしらえてきたようなものだった。しかし、レストランが大きくなり料理人が増えた今、そのつくり方をレシピに書き、皆に伝授せざるを得なくなったということだ。
 企業文化のレシピを書く上でメソッドがまず着手したのは、材料を明確化することだった。合宿の場を利用して、メソッドの経営陣は「社員が大切にしている共通の価値観(コア・バリュー)」を書き出していった。そして、合宿後、複数の部門から社員の協力を募り、コア・バリュー委員会を形成した。合宿の時に作成したリストに「カルチャー・アイドル」と呼ばれる模範的人材や委員会の意見を加え、煮詰めた末に完成したのが次の「5つのコア・バリュー」である。

1.メソッドを“普通じゃない”会社として維持する:あえて“普通じゃない”ことに意義がある。また、楽しまなければ大きな成果を出すことはできない。
2.マクガイバーだったらどうするか?:80年代の人気TV番組『冒険野郎マクガイバー』のように機略に富んだ「解決屋」であれ。どんな時でも「できない」を「できる」に変えよ。
3.模倣ではなく、革新せよ:リスクを恐れず、とにかくやってみる。試行錯誤の中に、思いもよらない飛躍は生まれる。
4.協業、協業、また協業:部門の垣根を越えた意見交換、コミュニケーション、助け合い。何事においてもオープンで肯定的な姿勢。
5.徹底的に気遣う:同僚、顧客、取引先、環境…。対象は何であれ、徹底的に気遣う。常に利益よりも使命を優先する。

 レシピの材料となる「コア・バリュー」が出揃ったところで、メソッドでは、会社の日常的な業務にコア・バリューを反映させるあらゆる仕組みをつくり上げていった。そのひとつの例として、ここではメソッドの採用の仕組みのごく一部を紹介しよう。

メソッドがこだわる採用の仕組み

 メソッドでは、「カルチャー・フィットと能力」の2つの点で適任者を見つけることに徹底的にこだわる。適任者が見つからなければ、何カ月も席を空けておくことも珍しくない。メソッドの採用は3段階からなるプロセスである。第一に面接、第二に課題発表、第三にオン・ボーディングだ。
 1つ目のプロセスでは、メソッドの入社希望者は、人事部や自分が配属を希望する部門だけではなく、ほかの複数の部門の担当者とも面接をする。例えばIT部門配属希望者でも、経理部や広報部の担当者とも面接をするということだ。これは、希望者と企業の相性を精査する機会となるだけでなく、「採用は全社員の仕事である」というメッセージを強烈に打ち出す。
 2つ目に、脈があるとみなされた希望者に対しては課題が出される。課題は3問からなり、うち2つは会社の事業に直接関連する戦略的質問と戦術的質問、そして3つ目は、「メソッドを“普通じゃない”会社として維持するためにあなたができること」という質問だ。
 課題発表の内容から実践能力、長所や短所、その人特有のクセなどの洞察が得られるのももちろんだが、課題発表はカルチャー・フィットのリトマス検査にもなる。課題に取り組むことについて反抗的な、あるいは嫌々ながらの態度をとる人は採用不可だ。実はメソッドでは、過去にCEO候補をこの理由で選抜から外したこともある。
 3つ目がオン・ボーディング。日本語ではあまり耳慣れないが、人事用語で、新しい環境に馴染んでもらうための入社直後のプロセスを指す。メソッドの入社初日のメイン・イベントは、新入社員が自分の肩書きを選ぶことだ。これは、メソッドを“普通じゃない”会社として維持する仕組みであるとともに、新入社員の当事者意識や会社や自分の仕事に対する愛着を高めるという意味もある。メソッドのCFOは「浪費家」であり、商品開発担当副社長は「商品大帝」である。
 企業文化をつくるのは人。「人」を選ぶ採用は企業文化のゲート・キーパーだ。近年のアメリカでは、面接からオン・ボーディングまでの一連のプロセスが特に注目され、さまざまな試みが行われている。

企業文化の「出汁」とは?

 おいしい味噌汁に出汁が欠かせないように、企業文化には「コア・バリュー」のほかに忘れてはならない材料がもうひとつある。それは、コア・パーパス(会社の存在意義)だ。
 メソッドでは、企業文化の構築に着手するに当たり、お手本としたい会社6社を選び、独自の調査を行った。その結果、学んだことのひとつは、「強い企業文化をもつ会社は、社員が確固たる『意義』を感じて働ける環境を意識的につくり出している」ということだ。
 高い社会意識をもつ生活者が主流化する中で、「利益を超えた意義をもつ企業」が、買い手からも、そして働く人からも支持を集める時代になっている。その中で、「環境を守り、楽しく快適な暮らしを守る」という意義が、メソッドの社員や顧客を結ぶ強力な粘着剤となっていることは言うまでもない。

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取材・執筆 ダイナ・サーチ、インク 石塚しのぶ氏

月刊『アイ・エム・プレス』2012年9月号の記事