全日本空輸(株)では、ANAマイレージクラブ会員の中でも特に旅が好きな会員を対象とした自社コミュニティサイト「旅達空間」を開設。情報発信とコミュニケーションの機能を備えた同サイトでは、5万人の参加メンバーのクチコミを中心に、旅に役立つ情報を満載することでファンの育成を目指している。
情報発信機能とコミュニケーション機能を兼ね備えた「旅達空間」を運営
昨今、羽田および成田の首都圏空港の発着枠拡大、航空自由化の加速など航空業界を取り巻く環境は新たな局面を迎えている。こうした中で全日本空輸(株)(以下、ANA)では、首都圏空港拡張というチャンスを生かして収益の改善を図るとともに、環境の変化に強い事業構造を確立して安定黒字化を実現し、品質、顧客満足、価値創造で「アジアNo.1の航空企業グループ」となることを目指している。
1952年の創業当時と現在を比べると、ビジネスモデルも大きく変わった。インターネットの普及に伴い、従来の旅行代理店経由や電話による販売からWebサイトでの直販へのシフトが進み、今や、ANAにとってインターネットはビジネスに不可欠なチャネルである。そして、昨今のソーシャルメディアの爆発的な普及と相まって、お客さまとのコミュニケーション・チャネルとしても、インターネットはなくてはならないものとなっている。
ANAが運営する自社コミュニティサイト「旅達空間」は、旅好きのお客さまへ旬な旅の情報や限定特典・商品、お楽しみ情報をインターネットで届ける会員制サービス「旅達」の会員を対象とした旅の総合情報サイトである。①旅達空間会員が旅先での出来事やおすすめスポットなどを自由に発信するクチコミ、②ANAの客室乗務員が女性の旅を応援する「ANA Latte」や、日本各地のお祭りやイベントを紹介する「日本のお祭り・イベントガイド」などANAからの情報発信、③ANAグループ、および提携先の宿泊施設を利用したユーザーの声を集めた宿泊施設評価、④買い物やレストラン、レジャー施設で使えるオンラインクーポンなどで構成されており、情報発信機能とコミュニケーション機能を兼ね備えたコミュニティサイトとなっている。「旅達空間」内の情報は誰でも自由に閲覧できるが、クチコミとそれに対するコメントを書き込むには、フライトやショッピングでANAのマイルが貯まる「ANAマイレージクラブ」と「旅達」の会員であることに加えて、「旅達空間」へのメンバー登録が必要だ。
5 万人の旅好きが集う
メンバー募集は、航空券の予約などを受け付けるANAのメインWebサイト「ANA SKY WEB」や旅達会員向けのメールマガジン、機内誌、ツアーパンフレットなどを活用して行っているほか、年に1回程度、マイルをフックとした登録キャンペーンを実施している。ANAでは、書き込みはせずに情報を閲覧することも参加ととらえており、募集方法の中でも直接「旅達空間」へ誘導できるメールマガジンを、参加の一歩を踏み出してもらうための効果的なツールと位置付けている。
メンバー数は右肩上がりで増加しており、2012年5月現在、約200万人の旅達会員のうち約5万人が「旅達空間」にメンバー登録。男女比は6対4で、いずれもANAの利用頻度が高く、情報を第三者に伝え、かつそれに対して評価を得ることにモチベーションを感じる人が多いという。
「旅達空間」が現在のスタイルを確立するまでにはさまざまな変遷があった。ANAでは、ソーシャルメディアがブームになる前の2000年台初頭に、「ANAフレンドパーク」の名称でANAマイレージクラブ会員限定のコミュニティサイトを開設、お客さま同士の情報交換を促進していた。その後、情報サイトの重要性の高まりや、2007年4月のANAマイレージクラブ会員の中でも旅好きなお客さまを対象とした会員制サービス「旅達」の開始を受け、2007年12月にサイト内に点在していた旅情報と「ANAフレンドパーク」を集約し、「旅達空間」を開設した。2010年4月には地域パートナー、および提携パートナーからの情報を強化し、旅の総合情報サイトとしてリニューアル。会員同士のコミュニケーションという単一の機能から旅の総合情報サイトとして内容と機能を拡充させたことにより、旅の準備や旅先で活用したり、旅の後でクチコミを投稿したりと、シーンに応じてさまざまに利用できるコミュニティサイトへと進化を遂げてきたのである。
押し付けがましくなくエッジのきいたクチコミが人気
「旅達空間」の一番人気は、旅達会員によるクチコミだ。ANAでは人気の理由を、企業からの情報提供は、押し付けがましく感じられる場合があるが、第三者が発信する情報にはそれがないためと推察している。
もうひとつ、根っからの旅好きならではの視点でとらえたエッジのきいた情報が多いことも人気の理由として挙げられる。クチコミ件数は月間500 〜1,000件。特にテーマを定めず、書き込みの自由度を高めることで参加メンバーが気負わずに書きたいことを書き込めるようにしていることが、書き込みの障壁を低くすると同時に情報の質を高めることに寄与している。
宿泊施設の評価に関しては、宿泊先を検討する際の選択の一助にしてほしいというのがANAの考え。施設評価の閲覧者がそのまま「ANA SKY WEB」内で宿泊予約をするケースは徐々にではあるが増えており、売り上げへの貢献度は決して小さくないと評価している。
各コンテンツの評価指標としては、クチコミ、ANAからの情報発信、オンラインクーポンについては月間ページビュー(以下、PV)を採用している。現在、クチコミは約30万PV、ANAからの情報発信は約18万PV、オンラインクーポンは約6万PVであり、いずれも増加傾向にあることから、情報が役立てられているものととらえている。宿泊施設評価については、売り上げへの貢献度を用いており、今後もこの数値を追っていく。また、ファンを育てるという意味での評価指標としては、繰り返し「旅達空間」を訪問するリピーター数と、新規メンバー数を用いており、こちらも順調に推移している。
旅好きの会員のためのお役立ち情報を集めた「旅達空間」。クチコミ情報が一番の人気だ
クチコミの母数を増やしより一層、役立つサイトを目指す
SNSはいわば情報の“掛け流し”のようなもので、拡散を主としているのに対して、「旅達空間」は情報を蓄積していくところであって、お客さまが求める時に求める情報を提供することを主眼としている。今以上に役立つWebサイトへと成長するためには、より多くの情報を参加メンバーに発信してもらい、クチコミの母数を増やす必要がある。インセンティブを用意すれば短期間でクチコミを増やせるが、情報の質を考えると最善策とは言い難く、いかにしてメンバーの投稿へのモチベーションを高めていくかが当面の課題だ。
クチコミ母数を増やすためには、参加メンバーの増大も欠かせない。現在ANAでは、「旅達空間」のほかにも、「空と旅のひろば」「SocialSkyPark」といった自社コミュニティサイトやFacebookのファンページなどのソーシャルメディアを活用している。これらも使いつつ「旅達空間」を知ってもらうこと、そして登録手続きの簡素化を図ることで、参加メンバーの増大に注力していくという。
一方で、ANAから発信する情報についてもより一層、役立つものにしていく必要がある。情報スピードが加速する中、ほかの自社コミュニティサイトやソーシャルメディアと差別化を図りながら、旬の情報を発信していきたいとしている。