(株)ヤマダ電機では、2003年9月から運用している社内資格制度をベースに、従業員が職責ごとに求められる業務レベルを充足する体制を確立。さらに、「家電アドバイザー」制度など、外部機関が運営する資格制度も活用しながら、接客レベルの恒常的な維持・向上を図っている。
公平な実力・実績主義を推進するため社内資格制度を運用
1973年4月に群馬県前橋市で個人創業した家電販売店を礎に1983年9月に設立され、現在では直営店およびフランチャイズ店により日本全国2,700店舗以上の巨大ネットワークを構築するまでに成長した(株)ヤマダ電機。2010年には国内専門量販店として初めて年間売上高2兆円を達成するなど、家電量販店業界のみならず、国内流通業界を代表する存在としての地位を確立している。
同社では、年々増え続ける従業員の業務レベルを維持・向上することを目的として、2003年9月から社内資格制度の運用を図っている。
同社では、個人商店として営業を行っていた時代に、多店舗化を行ったところ、従業員教育が行き届かずに接客レベルを保てなくなって業績不振となり、結局、出店した店舗を閉店して本店のみに集約せざるを得なくなった苦い経験を持つ。このことから、法人化し、企業規模が飛躍的に拡大した今日でも、創業者で現在も代表取締役会長兼代表執行役員CEOを務める山田昇氏以下、全社的に従業員教育の重要性についての強い認識がある。また、山田氏が創業以前、会社員として働いていた時に、日本企業独特の年功序列の評価制度に疑問を抱いたことなどから、従業員の評価については、公平な実力・実績主義が貫かれている。社内資格制度はこのような企業風土を体系化したものであり、同社の人事制度の根幹をなしている。
なお、同社で社内資格制度の運用を担当しているのは従業員教育を担当する人材開発室の有資格推進室であり、7名のスタッフが試験内容の設定やテキストの支給などの業務に当たっている。
職責に応じた知識・ノウハウの取得を求める
同社の社内資格制度では大きく一般、中間、上級の3段階を設け、さらにそれぞれに1~3級の等級を設定。合計9段階での運用を行っている。
まず、一般については、同社の経営理念や就業規則の理解、基本的な接客マナー、担当商品分野の商品知識などの習得を求めるものであり、正社員、契約社員のほか、パートタイム社員でも意欲があれば試験を受けることができる。合格者についてはパートタイム社員から契約社員、契約社員から正社員といった登用の道も用意されていることから、相当数のパートタイム社員が受験しているようだ。試験の内容は筆記試験とロールプレイングなど。特に近年では、顧客の潜在ニーズを引き出すための“聞き出す”力を重視している。合否については試験の結果のほか、日常の営業成績なども加味して判定。一般の最高位である1級を取得した従業員は、中間管理職になるための候補者教育を受けることができる。
中間の試験の内容は、一般の内容に加えて、労働基準法や独占禁止法などの関連法規、チーム・マネジメントや数値管理のノウハウなど、中間管理職として必要な知識。筆記試験の結果と、部下を含めたフロアの売上実績などを加味して合否が判定される。中間の最高位である1級の取得者は、上級管理職になるための候補者教育を受けることができる。
上級の試験の内容には、中間の内容に加えて、店舗マネジメントのノウハウや、古物営業法といった同社の営業上、必要となる法律知識などが含まれる。中間と同様に、筆記試験の結果に、部下を含めた店舗の売上実績などを加味して合否が判定される。
なお、試験は一般、中間、上級とも年3回実施されている。
これらの試験については、社内試験であることから受験費用などは掛からない。テキストについては誰でも確認できるようになっていて、これらを使って各従業員が自分で時間を捻出し、必要な知識の習得に努めるかたちである。この資格制度は報酬や昇格とも密接にリンクしていることから、全般的に従業員の受験意欲は高く保たれているようだ。なお、平均すると筆記合格率は約50%、最終合格率は約20%となっており、当然のことながら高位の資格ほど低い傾向にある。また、取得した資格は永続的なものではなく、1年ごとの更新制となっており、昇格を望まない従業員でも資格を維持するためには年1回、同一等級の試験を受けて合格することが必要となる。試験内容が各商品分野の最新トレンドなどを踏まえたものとなっていることから、日常的な情報収集を行っていない従業員では、降級となるケースもあるとのことだ。
ヤマダ電機の研修風景
外部機関が認定する資格の取得も推奨
この社内資格制度は、店舗網が拡大し続け、2011年度だけでも100店舗以上を出店した同社にとって、必要な人材を育成するために不可欠であると同時に、接客レベルの維持・向上にも大きく寄与している。高位の資格を取得するためには顧客の満足を得る接客を行って売上実績を上げることが必須であり、また、前述のように担当商品分野について恒常的に情報収集を行っていなければ降級もあり得ることから、常に最新の商品知識を身に付けておくことが求められているのである。
実際に、社内資格制度の運用開始以降、店舗網が急速に拡大しているにもかかわらず、従業員の接客内容などについてのクレームは減少傾向にあり、反対に親切・丁寧な接客に対するお礼の電話やeメールなどが寄せられるケースが増加しているとのことである。
なお、同社では接客レベルを向上するための試みとして、社内資格制度のほかに外部機関が運営する資格の取得も推奨している。
特に利用が活発なのは、(財)家電製品協会が「消費者の商品選択、使用方法、不具合発生、廃棄等へのアドバイスを適切に行うための知識・技能」を持つ販売スタッフの育成を目的に運営している「家電製品アドバイザー」制度。2011年3月時点で、テレビ・DVD/HDDレコーダー・メモリーオーディオ・ビデオカメラ・デジタルカメラ・PCなどの映像・音響・情報通信関連の製品を対象とする「AV情報家電」部門で434人、エアコン・冷蔵庫・洗濯機・電子レンジ・IHジャー炊飯器などの製品を対象とする「生活家電」部門で368人、双方の部門を兼ね備えた「家電製品総合」部門で389人の資格取得者がおり、今後も一般職の1・2級取得者などを中心に受験を推奨することで、取得者のさらなる増加を図る。そのほか、例えばPC売り場のスタッフにはPCメーカーなどが独自に設定している認定資格の取得を推奨するなどして、売り場単位での接客レベルの向上も図っている。
なお、これらの資格取得については、試験に関する情報の提供など側面的な支援は行うものの、例えば受験料などは各従業員が負担するかたちである。ただし、合格者については手当を支給するなど報酬面で遇しており、この部分でも“やる気”と“能力”がある人材を高く評価する公平な実力・実績主義が徹底されている点が、同社の取り組みの大きな特徴と言えるだろう。