店舗販売により顧客の利便性向上と新たな顧客層の開拓を実現

オイシックス(株)

青果物、肉・卵、魚、加工食品などのインターネット通信販売、店舗宅配事業を手掛けてきたオイシックス(株)では、2010年11月、恵比寿三越内に初の直営店をオープン。2011年3月には2号店として二子玉川東急フードショー店もオープンし、現在2店舗体制での運営を行っている。

恵比寿三越内に念願の直営店を開設

 2000年6月の設立以来、サービス理念である「一般のご家庭での豊かな食生活の実現」を目指し、青果物、肉・卵、魚、加工食品などのインターネット通信販売、および牛乳宅配店・酒販店などのルートによる店舗宅配事業を手掛けてきたオイシックス(株)。
 最近では、東日本大震災に伴う福島原発事故によって生じた東北・関東エリアの一次産業産品の安全性に対する生活者の不安と風評被害に対応すべく、青果物、乳製品、卵、鮮魚の「全アイテム」について「流通前」の検査を「毎日」実施する体制を、多くの流通業者に先駆けて築き上げた。このような「安全性、栄養価、価格、味といった観点で厳選した食材をお届けする」揺るぎない姿勢が多くの生活者から高く評価されており、主力のインターネット通信販売部門の購入経験者数は2011年3月時点で約60万人にも及んでいる。
 また、2010年3月にはインターネット・ショッピングモール「Yahoo!ショッピング」とID・ポイント・決済の連携を開始するなど積極的な事業展開を進め、業績面でも設立から10年を経てもなお高い成長率を持続し、2011年3月期の売上高は対前年比17.8%増の82億1,027万円に達するなど、数あるeコマース企業の中でも、その動向が注目される存在となっている。
 「おいしくて体に良いものを苦労せずに食べたい」という顧客の声に応えることを目指す同社では、常に顧客の利便性の向上を意識しており、店舗販売についても、購入ルートの選択肢を増やすという観点で、設立後、比較的早い段階からその可能性を模索していた。その中で、例えば、2008年5月に「美しく健康で快適な」ライフスタイルを提唱するコンビニエンスストア「ナチュラルローソン」での青果物の販売を開始するなど、さまざまな取り組みを進めてきたが、2010年11月、ついに百貨店・恵比寿三越内に初の直営店をオープン。さらに、2011年3月、東京都世田谷区の二子玉川東急フードショー内に2号店をオープンし、現在2店舗体制で展開を行っている。

インターネット通信販売顧客の分布状況をベースに出店エリアを検討

 同社が直営店出店の具体的な検討を開始したのは2010年の初め頃。同社のインターネット通信販売事業の顧客が数多く存在する首都圏の中でも、特に集中度が高い東京・城南地区を初出店エリアとして選定し、エリア内でさまざまな可能性を検証した結果、恵比寿三越への出店を決定した。なお、二子玉川東急フードショーへの出店においても、周辺地域に同社顧客が比較的多く存在していることが決め手となった。
 売り場づくりにおいては、同社の既存顧客の「新商品を試食してみたい」「購入前に実際に商品を見てみたい」というニーズに対応することに加え、“安全・安心でおいしい食品”には興味があるが、インターネットへの親和性の低さから、これまで同社を認知していなかったような新たな顧客層を開拓するというテーマが設定された。その結果、例えば品揃えにおいて、顧客が一から調理することを前提とした“素材”だけでなく、3万8,000通り以上の組み合わせを試せる「オーダーメイドサラダ」の提供を行うなど、気軽にトライアルができる環境を整えるための試みが数多く行われている。
 同社にとって、ほぼ初めての経験となる対面接客の担い手となる店舗スタッフについては、その大半を新規採用した。なお、採用に当たっては青果物に関する知識よりもホスピタリティを重視した人選を実施。採用後、同社商品部門のスタッフがレクチャーを行ったり、商品供給先の農家に話を聞きに行かせたりすることで、知識面のカバーを行ったとのことである。

インターネット通信販売の売れ筋商品を中心に品揃え

 品揃えについては、基本的にはインターネット通信販売と同一の商品を取り扱っているが、容易に売り場スペースを拡大することができるインターネット上と異なり、物理的な制限があることから、インターネット通信販売の売れ筋商品を中心に、売り場面積21.1坪の恵比寿三越店では100アイテム前後、同14坪の二子玉川東急フードショー店では、数十アイテムに絞り込んでいる。なお、価格については梱包・配送コストが不要となることから、総じてインターネット通信販売より低めに設定しているとのことである。
 顧客に“安全・安心でおいしい”という点を訴求することは、販売形態が異なっても大きく変わらないが、店舗ではインターネット通信販売で中心となっている文章による詳しい商品説明をすることは難しいため、なるべく試食をしてもらい、おいしさを体感してもらうなど、店舗販売独自の対応を行っている。また、例えば「無農薬」「化学肥料不使用」など、同社ならではの訴求ポイントについては、アイコン化してプライスPOPに表記するなどの工夫を凝らしている。

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オイシックスの恵比寿三越店。人気のオーダーメイドサラダはサイ ズによって680円、780円、880円。3万8,000通りの組み合わせが可能だ

顧客が生活シーンやライフサイクルによってチャネルを選択できる環境の実現を目指す

 顧客層については、恵比寿三越店では比較的高齢の近隣在住者や周辺のオフィスワーカー、二子玉川東急フードショー店では30~40代の母親層や直結する東急田園都市線・大井町線二子玉川駅の通勤利用者などが中心で、いずれも大半は女性。前述の「オーダーメイドサラダ」で実施しているスタンプカードサービスを多くの顧客が利用するなど、すでにリピーターも数多く獲得している。
 また、店舗では、インターネットやマスメディアでの露出を通じて同社をなんとなく知っていたが利用経験はなかったという層も、利用者として取り込めている模様である。
 なお、同社では、店舗販売をインターネット通信販売事業の補完ではなく、あくまでも単独の事業として成立させ、顧客が生活シーンやライフサイクルによってチャネルを選択できる環境を実現していきたいと考えている。また、将来的には店舗事業を食品スーパーにまで発展させたいという希望も持っており、現状の2店舗における展開は、それぞれにおいて採算を確保しながらも、店舗販売を強化する上でノウハウを蓄積するための貴重な場として位置付けられている。
 その中で、例えば接客において、インターネット通信販売事業で蓄積した、生産者ならではの“農家のレシピ”などを活用して、試食を交えて“おすすめの食べ方”を紹介することが有効であることなどがわかってきている。今後も、店舗販売とインターネット通信販売の共通点、相違点を見極めつつ、効率的に両事業の拡大を図っていく方針だ。


月刊『アイ・エム・プレス』2011年8月号の記事