“ランナーのランナーによるランナーのためのランニング・コミュニティー”を運営

アディダス ジャパン(株)

アディダスジャパン(株)は2008年2月、「アディダス ランニング共和国」を設立。Webサイトとリアル拠点の連携により、ランニング初心者からエリートランナーまでのあらゆる層のランナーを対象にさまざまなサポートを提供し、ランニングに対する意欲・興味の継続を図っている。

コミュニティーを通じてあらゆる層のランナーを対象とするサポートを提供

 三本線のロゴで知られる世界的なスポーツ用品メーカー、アディダス社の日本法人として1998年に設立されたアディダスジャパン(株)は、2008年2月、“ランナーのランナーによるランナーのためのランニング・コミュニティー”として「アディダス ランニング共和国」を設立。Webサイトとリアル拠点の連携により、ランニング初心者から全国レベルの競技会に参加するエリートランナーまでのあらゆる層のランナーを対象とする各種サポートを提供している。
 「アディダス ランニング共和国」では、特に参加資格などは設けておらず、Webサイト上でメールアドレスとパスワード、ニックネーム、活動エリアなどを登録することにより、誰でも“国民”になることができる。“国民”になるとマイページで自らのランニングに関する目標管理ができるほか、Webサイト上に用意されている「共和国ランナーQ&A」(ランニングに関する質問・回答コミュニティー)、「ランニング検定」などのコンテンツの利用が可能となる。また、日本全国の同社製品の取扱店舗を拠点に定期開催しているランニングクラブや、同社が“皇居ランナー”の活動拠点として2010年2月から東京都千代田区平河町で運営している「adidas RUNBASE」をベースとする「RUNBASEランニングクリニック」などのランニング・イベントにも参加することができる。
 同社が「アディダス ランニング共和国」を設立した最大の目的は、2007年に東京マラソンがスタートしたことを契機にランニングブームが盛り上がる中で、恒常的にランナーをサポートする仕組みを用意して、ブームを一過性のもので終わらせないようにすることだ。例えば、東京マラソンには毎年多くの参加申し込みがあるが、実際に参加できるのは抽選に当選した人などごく一部であり、ランナーが東京マラソンへの参加だけをモチベーションにランニングを継続することは難しい。また、ランニングは基本的に1人で行うスポーツであるが、日常的なトレーニングまで1人で行っていると、孤独感から徐々に走る意欲を失っていくことも考えられる。その中で「アディダス ランニング共和国」では、Webサイトやリアルなイベントなどを通じて、ランナーに連帯感と日常的な“仲間と走る”機会を提供することで、ランナーのランニングに対する意欲・興味の継続をサポートしているわけだ。
 ランニングシューズを中心とするランニング用品を提供するメーカーとしては日本では後発に位置する同社には、このような取り組みを通じてランニング用品分野でのブランドを確立したいという思いももちろんある。しかし「アディダス ランニング共和国」においては、ランニング市場全体の活性化に主眼が置かれ、少なくとも現状では自社製品の拡販の場とはしていない。実際に、“国民”の登録に当たっても同社製品の使用は条件になっておらず、また、Webサイトによる通信販売なども行っていない。本来的な意味での生活者参加型のコミュニティーとしての運営が貫かれていると言えるだろう。

中・上級レベルのランナーを中心に6万人強が“国民”として登録

 「アディダス ランニング共和国」の“国民”は2011年2月現在、6万人強。属性的には男女比はほぼ5:5、年代は40代中心、地域ではほぼ人口分布に比例するかたちで東京在住・在勤者が最も多くなっている。また、ランナーとしてのレベルでは中・上級者が中心。ランニング・イベントでも初級者向けのものは比較的集まりが悪い一方、中・上級者向けのものでは参加希望が多く、高倍率の抽選になるケースもあるとのことだ。
 「アディダス ランニング共和国」は2008年2月の設立時には、福士加代子選手、増田明美さん、市橋有里さんなどの著名ランナーをはじめ、著名アスリートや著名タレント、さらにはマラソンの世界記録保持者ハイレ・ゲブレセラシエ選手などを“建国”メンバーとして迎え、大々的な記者発表を行うなどして広く周知を図った。しかしその後は、口コミを中心とする地道な活動を続けており、同社製品取り扱い店舗や製品パッケージなどを通じた告知も行っていない。これは、いたずらに“国民”数を増やすよりも、“国民”の多くが積極的・自発的な参加を継続する充実したコミュニティーの実現を目指すという姿勢に基づくものであり、今後もこの方針を継続していく意向である。

将来的には“国民”とのコラボレーションによる製品づくりも

 「アディダス ランニング共和国」は、前述の通り、生活者参加型のコミュニティーとしての運営が貫かれており、自社製品の拡販の場とは位置付けられていない。しかし、“国民”からのニーズも多いことから、必要に応じて製品に関する情報の提供などは行っている。
 例えば同社では、世界で1足しかない自分専用のランニングシューズを作成できるカスタマイズサービス「mi Performance(マイパフォーマンス)」を展開している。専門スタッフが実際にお客さまの正確な足のサイズを計測し、左右ともにフィットするサイズを選択。カラーもカスタマイズができ、刺繍も入れられるというものだ。全国の同社製品の取扱店舗を随時巡回して行っており、実施スケジュールや開催店舗に関する情報をWebサイト上に掲載し、参加を促している。
 また同社では、ランニングスタイルやレベルなどに応じて数多くのランニングシューズをラインナップしている。これらの中から自分に合った一足を見極めるのは容易ではないことから、購入前に試してみたいという声が数多く寄せられている。そこで同社では、Webサイトを通じて同社のランニングシューズ「adizero」シリーズを最大4足まで3泊4日、送料のみの負担でレンタルする期間限定サービスを開発。これを「アディダス ランニング共和国」“国民”に訴求するといった試みが行われている。
 今後の課題としては、「デジタルスタンプ」の見直しが挙げられている。これは、設立時から運用していた各種イベント参加時にスタンプを押す「パスポート」を引き継ぐかたちで2010年2月から運用されているものだ。Webサイトへの書き込みやコンテンツの利用によりポイントが貯まり、貯まったポイントをオリジナルグッズとの交換、特別イベントへの参加応募などに使えるといった、いわゆるポイント・プログラムであるが、“国民”の利用意欲は必ずしもあまり高くない。同社では、そもそも趣味的要素の高いランニングをサポートするコミュニティーとして、ポイント・プログラムなどで利用を喚起する必要があるのかといった点について検討を行っており、今後、将来的な廃止を含めた見直しを進めていく方針である。
 一方、新たな試みとして、“国民”とのコラボレーションによる製品づくりを検討中。現状ではアイデアレベルであり、具体的な実施スケジュールは定まっていないものの、今後、実施手法を含めた具体的な検討を進め、実現につなげていきたい考えである。

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ランニング・イベントの一つ“アディダスナイトランナーズ”の実施風景

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3月1日から開始した、「adizero」シリーズを最大4足までレンタルできるサービス「クツカス」の申し込み画面


月刊『アイ・エム・プレス』2011年4月号の記事