販売店との協力体制をベースに購入前後の情報提供に注力

パイオニア(株)

草分け的存在としてカーナビゲーション・システム市場をリードするパイオニア(株)では、実用性とユーザーの“驚き”につながる付加価値という2つの視点で製品をブラッシュアップ。その魅力を販売店を通じてユーザーに伝えていくことなどで、顧客満足度の向上を図っている。

2つの視点で使用価値を追求

 1990年に世界で初めてGPSカーナビゲーション・システムを発売して以来、カーナビゲーション・システム市場をけん引し続けるパイオニア(株)。
 同社のカーナビゲーション・システムにおけるフラッグシップモデルである「カロッツェリアサイバーナビ」は、顧客満足度に関する調査・コンサルティングの国際的な専門機関である(株)J.D. パワーアジア・パシフィックによる「2010 年日本ナビゲーションシステム顧客満足度調査」の市販据え置き型ナビセグメントにおいて、3年連続の第1位を獲得した。
 メーカーである同社にとって、顧客満足の最大の源泉は、当然のことながら製品が提供する使用価値である。同社ではその使用価値を大きく2つの視点でとらえている。
 1つ目は実用性。いかに顧客の不便や不満を解消するかということだ。カーナビゲーション・システムの基本的な機能は、言うまでもなくユーザーを目的地まで“ナビゲート”することであるが、その過程には、検索、目的地設定などいくつかのステップが必要となる。このようなステップを簡素化し、わかりやすいものにすれば、ユーザーの満足度は高まるだろう。
 また、ドライバーによっては「有料道路はなるべく通りたくない」「多少細い道でもなるべく近道をしたい」など、さまざまな希望を持っているケースもあるので、そのような希望に対応する機能を付加すれば、満足度をさらに高めることも可能になると考えられる。
 同社では、このような実用性の向上を、製品購入者から送付される「愛用者カード」上のアンケート、一般生活者を対象とするインターネット・リサーチ、販売店スタッフなどを通じて集めた“顧客の声”をできる限り反映させ、定期的に製品のリニューアルを行うことにより実現している。
 2つ目はユーザーの“驚き”につながる付加価値。ユーザーの期待を上回る機能によって、“感動”を演出しようとするものである。例えば、「カロッツェリアサイバーナビ」では、走行前に燃費がわかる業界初の「エコ・ルート探索」機能を搭載しているが、このような機能は、一般的なユーザーがカーナビゲーション・システムに求める機能を超えたものと言えるだろう。
 こちらについても“顧客の声”が間接的なヒントになることはあるが、基本的には研究開発部門で新機能のベースとなるような技術を開発し、その中から営業部門や保守・サービス部門などを交えた会議などを通じて新たに装備する価値があるものを選定して実用化につなげる、といった手法が採られている。

取扱販売店を通じた購入前後の情報提供を促進

 カーナビゲーション・システムが市場に登場してから約20年が経過し、自動車ユーザーにとってその利用はごく一般的なものとなっている。また、メーカー各社が比較的安価で購入できる「ポータブルナビ(PND)」を発売したことなどにより、ある意味ではコモディティ化が進みつつあるとも言える。
 しかし一方、「カロッツェリアサイバーナビ」のようなオーディオ一体型の据え置き型ナビでは、高機能化、言い換えれば機能の複雑化が進んでいる。従って、この分野においては、いかにユーザーの機能に対する理解度を高めて、これを使いこなしてもらえるかが、製品の使用価値、ひいては顧客満足度を大きく左右することとなる。
 同社ではこのような認識から、取扱説明書やその要約版である「スタートブック」において、例えば「○○機能」など、専門的でユーザーにとってわかりづらい表現を、誰にでもわかるような「□△ができる」といった表現に変えるなどの取り組みを行っているが、取扱説明書や「スタートブック」を読まないユーザーも増加傾向にあることから、それだけでは十分とは言えない。
 そこで同社が力を入れているのが、実際の顧客接点となるカー用品店などのスタッフを通じた購入前後の情報提供である。
 例えば、新製品発売時には販売店用の「新製品導入マニュアル」を作成。それに基づいて、各販売店を管轄する同社の営業担当者が講師役を務め、閉店後にカーナビゲーション・システムの販売・取り付け担当者などを対象とする商品勉強会を開催している。勉強会は時には3~4時間に及ぶこともあるが、同社が業界でも最大規模の営業担当者を配置し、きめこまかい巡回営業を通して、販売店との間に良好なコミュニケーションが築けていることから、多くの販売店が協力的であるとのこと。
 さらに、店舗担当者の製品への理解が深くなることで、実際の接客の際にさまざまなメーカーの製品の中で同社製品を推奨してもらえるケースが増えるといった副次効果も生まれているようだ。

アフターフォロー体制にも万全を期す

 カーナビゲーション・システムは単独で使用されるシステムではなく、自動車に装備されて使用されるシステムである。また、近年では、例えば通信機器や携帯型音楽プレーヤーなどの外部機器と接続して使用されるケースも増えている。従って、不具合が生じた場合、その原因がカーナビゲーション・システム自体にあるのか、自動車や接続機器にあるのかがすぐには判明しないこともある。
 そこで同社では、電話やeメールなどでの問い合わせに対応するカスタマーサービスセンターに、自社のカーナビゲーション・システムの実機のみならず、接続可能な外部機器などもできる限り設置し、ユーザーと同様の環境で動作状況などを確認しながら応対ができる体制を整備。それでも症状や原因が確認されない場合には、ユーザーの実車で確認することもあり、原因追求に努めることを基本方針としている。
 また、新製品発売時には、技術部門の担当者が講師となって、カスタマーサービスセンターのスタッフを対象に勉強会を開催しているほか、カスタマーサービスセンターで問い合わせを受けた後、最終的には技術部門に照会して解決した案件などをFAQとしてWebサイトにアップするなど、ユーザーが快適に製品を使用し続けられる環境づくりに努めている。
 一方、カーナビゲーション・システムでは、いかに道路データがアップデートされているかが使用価値を大きく左右する。そこで同社では、「カロッツェリアサイバーナビ」のユーザー登録を行った人を対象に、購入後3年間に及ぶ最新データの無料ダウンロードサービスを提供している。この結果、登録を行うユーザーが大幅に増加した。
 これに伴いユーザーのメールアドレスも把握できることから、最近では、メールマガジンによるユーザーとの恒常的なコミュニケーションにも注力している。同社ではこれらの各種コミュニケーションを通じて、ユーザーの製品への理解を深め、さらに有効活用してもらうことで、顧客満足度の一層の向上につなげていく意向である。

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走行前に燃費がわかる業界初の「エコ・ルート探索」機能を搭載した「カロッツェリアサイバーナビ」画面


月刊『アイ・エム・プレス』2010年12月号の記事