ユーザーの能動的な検索に頼らない新たな“気付き”を演出

(株)キャリアデザインセンター

(株)キャリアデザインセンターでは2009年5月、ユーザーの能動的な検索以外に、ユーザーにマッチすると思われる求人広告を提示する機能を追加、「@type」にレコメンドエンジンを導入した。導入の結果、求人広告の閲覧数は10~15%増加し、異業種間の転職促進にも寄与している。

エンジニア向けを中心とする求人情報を掲載する転職サイト

 (株)キャリアデザインセンターでは2009年5月、運営する転職サイト「@type」にレコメンドエンジンを導入。サイトユーザーの求人情報との出会いの多様化を図っている。
 「@type」は同社が2000年4月から運用している転職サイトだ。1993年7月に設立された同社は、従来、1994年5月に創刊した『type』などの転職情報誌を中心に、エンジニアを中心とする求職者と企業の橋渡しをしてきた。こうした中、職探しの中心が紙媒体からインターネットに移行してきたことを受けて同サイトを開設。2004年にはサイトをリニューアルし、紙媒体・Webの両軸で転職情報ビジネスを展開している。
 「@type」は求人広告の掲載料を収益源としている。広告掲載企業の業種は、転職情報誌『type』と同様にIT関連企業が中心だが、近年では業種が拡大する傾向にあり、エンジニアのほか、営業、コンサルティングなど幅広い職種の求人広告が掲載されている。
 一方、ユーザーは主に首都圏に在住する20~30代のビジネスパーソンが中心。「@type」では求人情報のほかにもキャリアごとの適正年収診断などの報酬関連情報やキャリアアップのための講座・資格、年収アップ術や福利厚生制度の年収換算など、転職に関連する多彩なコンテンツを掲載している。このため今すぐに転職を考えている層だけではなく、いざという時のために恒常的に情報収集をしておこうという、いわば転職潜在層を含めた幅広いユーザーを抱えており、ユニークユーザー数は約100万人にも及んでいる。
 なお、同サイトは誰でも閲覧することができるが、会員登録をすると、登録した経験職種やスキルと企業が求める条件との間でシステムが自動的にマッチングを行い、求人情報を届ける仕組みの「スキルマッチング」機能が利用できるほか、これに則したメールマガジンも受け取れるため、具体的な転職活動を進めている層を中心に登録が進んでいる。

レコメンド情報だけを見られるページも設置

 同社が「@type」にレコメンドエンジンを導入した目的は、ユーザーの能動的な検索以外に、マッチングが良いと思われる求人広告を提示する機能を追加することにより、1ユーザー当たりの求人広告閲覧数を増加すること。
 ドリルダウン型の検索では条件に合った求人広告は探せるが、想定外の業種でマッチングが良いという求人広告に行き当たる可能性は低い。そこで、レコメンドによって新たな“気付き”を与えることで、ユーザーと広告掲載企業の双方により多くの“出会い”の場を提供することを目指したものとも言える。なお、同社ではレコメンドエンジン導入の2カ月前に当たる2009年3月に、「@type」内でのユーザーの行動履歴に基づいて企業からのスカウトメールを送信する「行動ターゲティングスカウト」というサービスを開始しており、レコメンドを利用することでその対象ユーザーの絶対数を拡大するという狙いもあった。
 レコメンドエンジンの選定においては、費用のほか、きめ細かいニーズに対応できる柔軟性や拡張性などを重視。比較的後発でありながら機能面が充実し、費用面もリーズナブルな(株)ホットリンクのASP型サービス「レコナイズ」を採用することとした。なお、ASP型サービスを採用した理由としては、Web上での行動履歴情報はデータ量が多く、組み込み型ではサーバー負荷が大きいこと、およびASP型サービスの方が専門性を生かした新技術のキャッチアップが容易であることが挙げられている。
 2010年9月現在、「@type」内でレコメンド情報を掲載するスペースは、トップページをはじめ気になる求人情報をユーザーが保存しておく「検討中リスト」ページなど11カ所。レコメンド情報を一括してチェックできる「アクションマッチングリスト」ページも設けており、ユーザーがレコメンド情報に触れる機会はかなり多い。
 レコメンドの手法としてはユーザーごとの行動属性をベースとする協調フィルタリングによるものが中心だが、このほか閲覧数をベースとした人気ランキングなどに基づくレコメンドも行っている。なお、会員登録しているユーザーに対しては、個人属性情報とひも付けたレコメンドも技術的には可能であるが、「行き過ぎたレコメンドは逆効果になる可能性があり、また、ASP型サービスの利用において個人属性情報までも適用範囲とすることには問題がある」という認識から、現在は行動属性情報のみをベースとしたレコメンドに限定している。

応募者のバリエーション拡大により異業種転職が成立するケースが増加

 レコメンドエンジン導入後、求人広告の閲覧数は10~15%程度増加。閲覧数のうちどの程度がレコメンド経由によるものかについては、厳密な検証は行っていないが、同社では増加分はほぼレコメンド経由ではないかとの認識を持っている。なお、閲覧から応募へのコンバージョン率にはそれほど大きな変化は生じていないが、閲覧数の増加に伴い、応募数は確実に増加しているとのことだ。
 レコメンドエンジンの導入効果は、このような定量面にとどまらない。ユーザーの能動的な検索だけに頼らない仕組みを構築したことにより、新たな“気付き”による応募が増加したのだ。これを企業側から見ると、応募者のバリエーションが拡大したことになる。つまり、これまでは限られていた異業種間の転職が成立するケースも増加しているわけで、そうした意味では、ユーザーと広告掲載企業の双方により多くの出会いの場を提供するという当初の目的は、ある程度達成されていると言えよう。
 しかし、Webサイトはいわば“生き物”であり、恒常的な刷新なしにはマンネリ化が避けられない。同社でもこのような認識の下、定期的にマイナーチェンジを行っており、レコメンドについても、ユーザーが過去に閲覧した経験のある求人広告をトップページに掲載しないようにするなどの改善を図っている。また、異なるロジックによるレコメンドを並行して提示し、その成果によって優れたロジックを採用するABテストなども常に行っており、これらを通じて、ユーザー、広告掲載企業の双方が満足できるレコメンドの実現を目指している。
 さらに、今後については、前出の「行動ターゲティングスカウト」を含め、サイト全体でユーザーの求職ニーズと企業の求人ニーズの最適な“出会い”をさらに追求していく意向であり、特にユーザーの待遇や勤務地などに関する希望を含めた「スキルマッチング」機能の充実化を図っていく。そして、レコメンド情報を集めた「アクションマッチングリスト」もさらに充実させていくことで、これらを両輪とした転職サイトとしての利便性をさらに高めていく方針である。

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ユーザーにマッチすると思われる求人広告を提示する機能を追加した「@type」のトップページ(左)。レコメンド情報を一括してチェックできる「アクションマッチングリスト」のページ(右)


月刊『アイ・エム・プレス』2010年11月号の記事