書店店頭でデジタルサイネージを活用した新メディアの可能性を検証

ほんやチャンネル

(株)ニッセンと日本出版販売(株)は、書店店頭におけるデジタルサイネージによる情報発信メディア「ほんやチャンネル」の実験を共同で行った。今回の実験では、首都圏の書店50店舗の店頭にデジタルサイネージ機器を設置。雑誌・書籍広告のほか、近隣の飲食店や映画館などの情報も発信し、書店店頭のメディア化の可能性を探った。

通販と出版取次の大手企業が共同で書店を舞台とするデジタルサイネージ活用実験を実施

 (株)ニッセンと日本出版販売(株)(以下、日販)は2009年10月下旬~2010年3月、共同で書店店頭における高機能なデジタルサイネージ(DS)による情報発信メディア「ほんやチャンネル」の実験を行った。
 通販大手のニッセンでは、従来から書店ルートでのカタログ配布ネットワークを有しており、書店の可能性に注目していた。その中で今回の実験では、新しいメディア事業としてのDSの可能性の検証と、DSのリーダー部分にタッチした顧客にメルマガを発行するなど、通販事業におけるマーケティングとの連動効果の確認を狙いとしていた。
 一方、国内最大の出版取次会社である日販では、出版不況と言われる中で、DSが書店の店頭活性化と集客アップに寄与するか、またDSを活用することで、新たなビジネスモデルを確立できるかを検証するべく、今回の実験に取り組んだ。
 「ほんやチャンネル」の舞台となったのは、日販がマーケットニーズに応じた的確な商品供給による効率的な販売を目指して展開しているwww.project(トリプルウィン・プロジェクト)参加店で展開している店頭強化策「パワーレイアウト」の契約店。首都圏の大型チェーン書店を中心に、ビジネス街、住宅地など、さまざまなロケーションの50店が選ばれた。なお、店舗側の負担はDS設置スペースと電源の用意だけであったため、比較的好意的に受け入れられた。

液晶ディスプレーとLEDの組み合わせにより多彩な情報を提供

 今回の実験で採用されたDS機器は、LED看板などに定評がある東和メックス(株)の「BRID」。同機はネットワークを介して、コンテンツの更新などを店舗や時間ごとに自由に行える最新型のDS機器であり、液晶ディスプレーとLEDによる情報表示板の組み合わせにより、多彩な情報提供ができる。また、今回の実験でサービス開発やコンテンツの制作・配信などのオペレーションを担当したストリートメディア(株)が開発した、「おサイフケータイ」に対応してクーポンなどを発行するソフトウエアも組み込まれており、情報提供だけにとどまらない立体的なマーケティングへの活用も可能となっている。
 なお、実験の開始に当たっては、日販、東和メックス、およびストリートメディアの担当者が、各対象店舗を訪問。DS機器のセッティング、出力音量の調整、店舗担当者に対する操作方法説明などを実施した。その結果、実験期間中において、店舗担当者の電源の付け忘れをネットワーク上で検知し、連絡して注意を促すといったことはあったものの、特に大きなトラブルはなかったとのことである。

雑誌・書籍広告を中心に近隣の飲食店や映画館などの情報も発信

 「ほんやチャンネル」で発信したコンテンツは、雑誌を中心に書籍・コミック・DVD・CDなど、書店で取り扱う商品の広告、店舗で行うフェアやイベント情報、週間売上ランキングや天気予報など。そのほか、近隣の飲食店や映画館などの情報も発信し、「おサイフケータイ」を通じてクーポンを発行するなど、地域におけるマーケティング・メディアとしての可能性も検証した。なお、コンテンツの配信は実験開始当初はSDカードなどを介して行うかたちとしていたが、後半からは無線インターネットを通じた配信に切り替えた。
 コンテンツの中心となる雑誌・書籍広告については、実験期間中の出稿費用を無料としたこともあり、多くの出版社から積極的な出稿があった。なお、コンテンツ全体の30~40%がこのような広告主が用意した素材、残りの60~70%はストリートメディアが新たに制作した素材とのことである。

プロモーション対象とした雑誌・書籍などの売れ行きは確実に向上

 「ほんやチャンネル」の成果については、現在、コンテンツ発信データとプロモーション対象とした雑誌・書籍などの売上データを照合するといったかたちで検証しており、最終的な評価はこれからという段階である。
 しかし、少なくとも定性的な印象としては、プロモーション対象とした雑誌・書籍などの売れ行きは通常よりも向上し、特に店舗側の担当者が発信コンテンツに陳列やPOPを連動させるなど、積極的な活用を図った店舗では顕著な拡販効果が見られたとのこと。DSが書店の販促ツールとして一定の効果を発揮することは間違いないと言えそうだ。
 一方で、近隣の飲食店や映画館の情報などと連動したクーポンについては、特にユーザーの認知度が低かった実験期間前半では利用者が少なく、課題を残す結果となった。実験期間後半でも、店舗担当者が積極的に説明を行うかどうかが利用の多寡を決めるといった傾向が見られたとのことであり、人手を掛けずにユーザーの認知度を高める仕組みをいかに構築するかが、今後のテーマと言える。
 ニッセンと日販では、今回の実験結果に基づき、今後、「ほんやチャンネル」の本格展開をどのように行っていくかを検討していく方針である。その中で最も大きな課題としては、広告出稿を有料化した場合、どの程度のクライアント企業を獲得できるかという点が挙げられる。特に昨今では、インターネット広告の普及などに伴って、広告に関して投資対効果を重視する傾向が高まっていることから、クライアント企業を説得できる具体的な販促効果を提示できるかどうかが、DSの書店店頭における販促・広告メディアとしての活用の成否を分けるカギになることが考えられよう。

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書店店頭における高機能なデジタルサイネージによる情報発信メディア「ほんやチャンネル」実験のもよう

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ネットワークを介して、コンテンツの更新などを店舗や時間ごとに自由に行える最新型のDS機器であり、液晶ディスプレーとLEDによる情報表示板の組み合わせにより、多彩な情報提供が可能

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おサイフケータイに対応してクーポンなどを発行するソフトウエアも組み込まれており、情報提供だけにとどまらない立体的なマーケティングへの活用ができる


月刊『アイ・エム・プレス』2010年6月号の記事