“資産形成のパートナー”を目指した事業展開を行う(株)東京スター銀行では、店舗数の少なさをコールセンター、インターネットバンキング、eメールなど、複数チャネルを連携させることでカバー。今後もeメールアドレス登録済み口座の比率向上などにより、顧客との非対面によるパーソナル・コミュニケーションを強化していく意向だ。
非対面型のコンタクトチャネルに比重
“Financial Freedom”を企業理念に掲げ、顧客一人ひとりを「お金の悩みから解放する」ためのサポートを行う“資産形成のパートナー”を目指した事業を展開している(株)東京スター銀行。同社は2001年6月に創業、首都圏を中心に展開してきたが、現在は地方へも積極的に進出している。
同社では、店舗展開では個人顧客にターゲットを絞った営業戦略を展開。特に近年では、預金連動型住宅ローン「スターワン住宅ローン」や、借り換え専門ローンの「おまとめローン」など、積極的なテレビCMを打つなどして世間の注目を集めている。
店舗数は2009年10月現在、首都圏を中心に36本支店。そのほか最近では、ATMネットワークの拡充に注力し、コンビニエンスストアのサークルKサンクス、スーパーマーケットの西友、その他地方のショッピングセンター、公共交通機関の施設などへの設置を進めた結果、総設置数は約2,500台に達した。しかし、店舗数ではいわゆるメガバンクなどと比較した場合、まだまだ少ないのが実情だ。現在、同社の事業展開においてはインターネットバンキングやコールセンターなどの非対面型コンタクトチャネルも、店舗同様重要な位置を占めている。
同社顧客(口座保有者)のプロフィールでは、50代以上の層が中心となるが、預金連動型住宅ローン「スターワン住宅ローン」の中心的な利用者層である30~40代のビジネスマン層なども増えてきている。また、最近では高金利型の定期預金などに関心を持つ50代女性なども増加しているとのこと。地域的にみると、店舗展開と比例して首都圏の顧客が多いが、拠点のある地方都市や郵送での口座開設などを通じ、全国に分布している。
店舗数が少ない同社の新規顧客獲得パターンとしては、テレビCMを中心とするマス広告によって同社商品に興味を覚えた見込客が、コールセンターやWebサイトにアクセス、商品に関する詳細な情報を得て契約に至るというかたちが主流だ。従来はWebマーケティングにおいても、新規顧客獲得を目指した施策が数多く行われていたが、近年では効率面からの判断により、Webマーケティングの重点は既存顧客に対するアップセルやクロスセルに移行しており、チャネルごとの役割分担が明確化されている。
目的が異なる2種類のeメールを配信
同社のCRM戦略において重要な役割を占めているのが、eメールによるコミュニケーションである。
同社が配信している主なeメールとしては、毎月1回15日に配信しているマンスリーニュースレター「スタータイムス」と、月に2~3回不定期に配信しているキャンペーンメールがある。
「スタータイムス」は2009年4月から配信を開始した。内容はファイナンシャルプランナーによる資産運用に関する連載や新規店舗開店のお知らせなど。また、2009年9月からは、より双方向性を高めることを目的に、クイックアンケートなども実施している。ターゲットはeメールアドレス登録済みの口座保有者全員(配信拒否者を除く)だ。
一方、キャンペーンメールの内容は、新しい金融商品やサービスの紹介が主のもので、興味を持った人が表示されているURLをクリックすることにより、詳細な説明のためのWeb画面を表示、その場で申し込みを行って情報収集できるようになっている。ターゲットは「スタータイムス」と同様にeメールアドレス登録済みの口座保有者全員(配信拒否者を除く)だが、口座開設チャネル(店舗、インターネットバンキング、コールセンター)と、年齢、性別、居住エリアなどを組み合わせてセグメンテーションを行い、コンテンツの順番を入れ変えるなど多少異なる内容のeメールを配信している。
「スタータイムス」とキャンペーンメールでは、その目的が明確に異なる。「スタータイムス」の目的は同社に対する親近感の醸成である。従って、具体的な金融商品の紹介などはあまり行っていない。一方、キャンペーンメールについては、具体的な金融商品を紹介し、販売を拡大するためのツールとなっている。
複数のチャネルの連携によりマーケティング施策の効果を最大化
同社では、複数のチャネルの連携により、マーケティング施策の効果を最大化する試みを数多く行っている。その代表的な例が、キャンペーンメールに対するコールセンターからのフォローコールである。
対象となるキャンペーンメールは、外貨預金や投資信託など、ターゲット顧客に合わせた旬の金融商品の推奨を目的としたもの。これらの配信対象者に、商品の理解度を確認し、さらなる推奨を目的とするため、配信後数日以内にアウトバウンド・コールを行っている。なお、同社においては、eメールで商品を知り、コールセンターからのフォローコールで購入意志を固め、インターネットバンキングや店舗で購入するなど、購買行動が複数チャネルにまたがる顧客も少なくないが、このような場合でも各チャネルで情報を共有し、スムーズな取引ができるよう連携を密に取っている。
また、店舗とコールセンターの連携にも積極的だ。例えば同社では、2009年5月に広島、同6月に神戸に新支店をオープンしたが、オープン時には「オープン記念キャンペーン」として高金利の定期預金などを設定したため来店客が殺到し、店頭での待ち時間が長くなってしまったことがある。そこで、店頭でコールセンターへの誘導を実施。また、コールセンターで行っている支店代表電話受け付けに問い合わせがあった場合は、店舗が混雑している旨をあらかじめ伝えることで、クレームの発生を防止した。
そのほか、同社では2009年9月にWebサイトをリニューアルしたが、この際にもコールセンターのスタッフによる“品評会”を実施し、実際の使い勝手などに関する意見を聴取して、改善につなげたとのことである。
eメールアドレス登録済み口座比率の向上が課題
同社のCRM戦略における今後の課題としては、eメールアドレスのさらなる獲得が挙げられる。もちろんコスト削減や環境保護の観点から紙DMの削減は大切なことではあるが、何より、ターゲット・セグメントの細分化やeメールを配信した顧客の行動分析のため、eメールによるマーケティングを非常に重要な手法として位置付けている。その実現のためにeメールアドレス登録済み口座の比率を高めていくことが、大きなテーマになっているというわけだ。
さらに将来的には、現在検討を進めているチャネル横断型のマーケティング・データベースの整備が完了することを前提に、イベントマーケティングを行うためのキャンペーン・エンジンの導入なども検討している。また、外部の異業種企業とのeメールプロモーションに関するコラボレーションなども行っていきたい考えである。
コールセンターからのフォローコールにより、キャンペーンメールの効果向上を図っている