デジタルカメラやICレコーダーといった映像関連製品の製造を手掛けるオリンパス イメージング(株)。同社では“1件でもVOC”の考えの下、カスタマーサポートセンターを中心にお客さまの声を製品づくりに生かす取り組みに注力している。2008年2月に発売したコンパクトデジタルカメラが「カラーユニバーサルデザイン認証」を取得した。
3つの“IN”をモットーにお客さまの声の活用を推進
オリンパス(株)は、90年の歴史を持つ光学機器メーカーである。体温計や顕微鏡の国産化からスタートした同社は、そこで培った光学技術を基盤に医療用の胃カメラや工業用ファイバースコープ、双眼鏡にカメラなどへと事業を拡大していった。
2004年には、映像事業と医療事業を分社し、オリンパス イメージング(株)とオリンパス メディカルシステムズ(株)を設立。以降、オリンパスでは顕微鏡をはじめとするライフサイエンス事業と工業用顕微鏡に代表される産業関連事業、オリンパス イメージングではデジタルカメラやICレコーダーといった映像事業、そしてオリンパス メディカルシステムズでは内視鏡をはじめとする医療事業を担っている。
オリンパスグループの経営理念は「生活者として社会と融合し、価値観を共有しながら事業活動を通じて新しい価値観を提案し、人々の健康と幸せな生活を実現する」ことを目指す「Social IN」である。
そのために「INvolement/社会との統合」、「I N s i g h t / 社会との価値観の共有」、そして「INspiration/新しい価値の提案」の3つの“IN”をモットーに、既存概念の打破による意識改革、つまり“顧客原点の行動”を推進している。具体的な取り組みとしては、カスタマーサポートセンターを中心にお客さまの意見・指摘・要望といったVOC(お客さまの声)を収集し、これを貴重な経営資源ととらえて製品づくりに生かしている。
同社がVOC活動に注力し始めたのは2006年から。カスタマーサポートセンターでは、同センターに寄せられる月間1万7,000~2万件のVOCおよび、修理センターなどに集まった声をデータベース化、テキストマイニングツールを使用して内容・頻度・分類などをキーに分析。その結果から課題を見いだし、経営層と関連部門の代表が参加するVOC会議に提起している。
VOC会議では、改善・是正・予防策を検討して、製品・サービスのほか業務プロセスの改善を推進。お客さまのニーズを満たす製品やサービスを提供することにより、最終的にはお客さま満足度の向上につなげることを目指している。
少数でも重要な声がある ひとりのお客さまの声から改善を実施
これはひとりのお客さまの声がきっかけとなって行われた改善例である。同社では、VOC活動においては単純に量だけで判断するのではなく、たとえ1件であっても重要と考えられる要望については改善提案を行っている。
「色覚の個人差を問わず、見やすい表示にしてほしい」 こんな声がカスタマーサポートセンターに寄せられた。そのお客さまは色覚に障がいを持つ方で、デジタルカメラの充電器のランプが赤色や緑色で、その表示を明確に判別することができなかったのである。
この訴えを聞き流してはならないと考えたカスタマーサポートセンターでは、VOC会議で課題として提起。約1年の歳月をかけて改善を図った。そして、2008年2月に発売したコンパクトデジタルカメラにおいて、ランプの色を充電中は赤色から赤橙色に変更し、充電完了時は緑色から青色にすることで、色覚の個人差を問わず多くの方に見やすいデザインを実現したのである。
この改善がきっかけとなり、同社ではデジタルカメラで初めて「カラーユニバーサルデザイン認証」を取得した。
余談だが、はじめに「視覚の個人差を問わず見やすい表示にしてほしい」という声を寄せてくれたお客さまに、同社から改善した旨の報告をしたところ、とても喜んでいただけたという。
現在同社では、カラーユニバーサルデザインを製品の標準仕様にするべく取り組むとともに、ほかの商品分野でも認証を拡大することを目指している。2008年度には、デジタル一眼レフカメラ「E-620」とICレコーダー「V-72」において、同認証を取得した。
VOC活動を成功させるポイントは現場の理解と社内風土の醸成
VOC活動における留意点のひとつは、現場の理解を得ることだろう。というのは、製品の課題をフィードバックしても現場との調整がつかず、思うように改善が進まないことが多いからだ。
以前は同社においても同様だった。製品の不具合情報をフィードバックしても、現場からは「件数が少ない」「時間がない」「使用する部材が決められている」「規格は私が決めているのではない」といった声が聞こえてくるばかり。現場のスタッフはメーカー視点を捨てることができず、結局は被害者意識から抜け出せずにいたのである。
この状況を脱却するために、カスタマーサポートセンターではVOC会議で参加者にお客さまの“生の声”を聞いてもらうという施策を考えた。普段、お客さまの生の声を聞くことのない人たちにとって、生の声は非常にインパクトが大きいものだ。加えて、競合他社や市場の状況を徹底的にリサーチした結果を裏付け情報として提示。これにより、VOC活動を阻んでいた現場の“できない理由”や“メーカー視点”を打ち破ることができ、今日ではVOCでPDCAサイクルを回すまでに進化しているという。
VOC活動の推進においては、お客さまを大切にする社内風土の醸成も不可欠である。現在同センターでは、VOC会議に参加しない社員にもお客さまの生の声を聞いてもらっているほか、オリンパスグループを挙げてのCS教育講座も実施している。新入社員を対象にした「品質管理基礎講座」、入社3~5年目の中堅社員を対象にした「顧客満足実践の基礎」、そしてマネジメント層を対象とした「顧客の声を活かしたCS実現」である。2008年度の受講者数は、2007年度比約3.7倍となった。同社では、これらの取り組みにより、経営理念である顧客原点の考え方が浸透してきたものと見ている。
VOC活動の初期においては、トップダウンで推進することが効果的である。しかし、活動を継続していくためには、トップダウンでなくても自然とPDCAサイクルが回っていくことが理想的だ。同社では今後もより一層、お客さまを大切にする企業風土を醸成し、根付かせていきたいとしている。
「カラーユニバーサルデザイン認証」を取得したμ7020(上)、オリンパス・ペンE-P1(中)、Voice-Trek DS-750(下)