リスク回避・商品改良・サービス拡充などあらゆる分野でVOCを活用

江崎グリコ(株)

「おいしさと健康」を理念とする総合食品企業・江崎グリコ(株)では、お客様相談センターなどに寄せられるVOCを、「製品リスクマネジメント会議」を通じてリスク回避に役立てるほか、ビジネスのヒントとなる内容については、社内イントラネットなどを通じて全社的に共有。商品改良、サービス拡充など、さまざまな分野で役立てている。

VOCの収集・活用を事業活動の中心に据える

 1922年に創立され、「グリコ」「ビスコ」などのヒット商品を次々と世に送り出してきた江崎グリコ(株)。現在では、「おいしさと健康」を理念とする総合食品企業として、菓子、冷菓、加工食品、健康食品を製造・販売するほか、長年取り組んできた基礎研究に基づく新素材の提供や、オフィスで菓子や冷菓の配置販売を行う「オフィスグリコ」事業なども展開。さらに、グループ会社を通じて乳製品、乳幼児用粉ミルク製品、ハム・ソーセージなどの畜産加工食品の製造・販売も行っている。2009年3月期の連結売上高は2,890億円に及んでおり、まさに日本を代表する食品メーカーの1社と言えよう。
 同社では、1985年に顧客対応の専門部署として広報部内に「消費者室」を開設。その後1991年には、同セクションを広報部から独立させ、「消費者部」に昇格(1994年に「お客様相談室(センター)」に名称変更)させるなど、以前から顧客対応に意欲的に取り組んできたが、さらに2005年11月には、「お客様対応マニュアル」を改訂し、その内容・運用がクレーム対応の国際規格である「ISO10002(JISQ10002)」に適合していることを宣言した。このマニュアルは「顧客第一」の考え方の下、経営トップおよび全社員の責任・役割を明確化。さらに「計画」「実施」「監査」「マネジメントレビュー」といったマネジメントシステムを通して全社員の意識とスキルの向上を図るものであり、それに則り、特に顧客対応のあり方については、「お客様満足のための対応方針」として、「私たちはお客様のお申し出に耳を傾け、迅速・適切・誠実に対応します。さらに、お客様の声を経営に反映させ、すべてのお客様から信頼される事業活動を行います」とうたっている。まさにVOC(顧客の声)の収集・活用を事業活動の中心に据えている企業であるということができるだろう。

顧客からのクレームに対応してリスク回避のための全社的会議を週4回開催

 「お客様対応マニュアル」に基づくクレーム対応の全社的体制の中心となっているのが「製品リスクマネジメント会議」だ。この会議は同社の「製品リスクマネジメント規定」の中で、その目的を
①最新のお客様からの品質に関するお申し出(クレーム情報)と、工場での原材料潜在クレーム情報を関連部門で共有し、重要性、緊急性、拡大性を判断する。同時に常に関連部門の判断基準を合わせる
②その中から至急に対応すべきもの、他の工場、他のラインに展開し、対応すべきもの等をピックアップし、対応方針、担当部門を決め、PDCAを回す
③これを繰り返す中で、トラブルの重要性、緊急性、拡大性についての担当者の「感受性」を高め、トラブル・お申し出の情報を共有し、各自がスキルアップしていくことで、品質トラブル、お申し出(クレーム)の減少、原材料潜在クレームの減少につなげると規定されている。
 品質保証部が中心となって、祝日や夏休み・年末年始の休みを除く毎週火~金曜日、8時45分から9時30分に実施されており、同社およびグループ会社の社員は事前の手続きなく、誰でも参加できる。毎回参加しているのは、品質保証部のほか、お客様相談センター、製造部、技術開発部、菓子開発研究所、食品開発研究所、冷菓開発研究所、グリコ食品安全センター、資材部の各担当者で、そのほか、さまざまな部署の担当者を加え、参加者は毎回20人前後に及んでいる。
 会議の開催に当たっては、お客様相談センターが前回会議の開催日から会議の前日までに寄せられたクレームのうち「品質管理(製造)」(おもちゃに関するものを除く)、および「その他苦情」に分類されたものの一覧表を、会議前日夕方に検討資料として主要参加部門および送付希望先にeメール送信。当日はその内容について討議を行い、対応を決定する。これにより問題の拡大を防ぐ対応がなされており、いわばリスク回避のためのVOC活用ということができるだろう。

商品改良のヒントとしてもVOCを積極活用

 同社でのVOC活用分野はリスク回避ばかりではない。商品改良のヒントとしてもVOCを積極的に活用している。
 お客様相談センターが受け付けている問い合わせやクレームの件数は、電話やeメールなど、年間約5万件に及んでいる。内容としては、特定商品の販売店に関する問い合わせなど、センター内の対応のみで完結するものが多いが、中には商品改良につながるような、商品に関する問い合わせやクレームも少なくない。
 意見やクレームの中で、改善すべきことや周知する必要があることを、受付者が、重要度によりA、B、Cの3ランクに分類し、社内イントラネットに掲載する。この情報は、全社員が閲覧できる。なお、このうち、重要度が高いA、BランクのVOCについては、各担当部署から社長、およびお客様相談センターに対して、2週間以内に対応の方針などについての報告を行うことが義務付けられている。
 また、問い合わせやクレームについては、センターの担当スタッフ2名が読み合わせや分析ツールにより課題を抽出。「CUSTOMER’S REPORT」として関係部門に配布している。さらに、お客様相談センターからの製品改良提案も頻繁に行われており、2008年度では年間46件の提案が行われている。
 このような体制・施策の下、VOCに基づいて行われた商品改良の例は数多く、それらは同社のWeb上の「お客様のお声でさらに良い商品ができました」というコーナーでも紹介されている。
 例を挙げると、「マカダミアプレミオ」という商品について、「マカダミアプレミオを食べたら何だか塩がきいているような感じがします。大きな箱の方には塩が付いていると書いてありましたが、小さい袋の方にも付いているのでしょうか?」という問い合わせが寄せられたことに対応し、小袋にも「マカダミアナッツの表面に塩がついています」という旨の表記を加えた。また、自販機で販売している「セブンティーンアイス」については、「子どもが食物アレルギーだが、自販機では購入前に原材料確認ができない」といった声が寄せられたことから、まずは、必要に応じて問い合わせができるよう、自販機にお客様相談センターのフリーダイヤル番号を記載。さらに、その後の製品・パネル入れ替え時以降、全製品について使用している7大アレルゲンの表示を行うこととした。これらの施策の結果、「安心して購入・利用できる」という感謝の声も数多く寄せられるなど、具体的な顧客満足度向上につながっている。
 さらに同社では、VOCに基づいた顧客サービスの拡充も行っている。例えば、やはりVOCを基に東京医科大学八王子医療センターの管理栄養士と共同開発した「カロリーコントロールアイス」は、「80kcalという低カロリーなのにおいしい」と、摂取カロリーに気を使っている人を中心に人気を集めているが、現状では販売店が少なく、販売店を問い合わせる声も数多く寄せられている。そこで同社では、Web上で展開している「グリコネットショップ」の取り扱いアイテムに同商品を追加、全国どこでも同商品を入手できる体制を整えたのだ。
 同社では今後もこのような施策を継続し、より高いレベルでの顧客満足を目指していく方針である。

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VOCの活用で小袋の表記を改めた「マカダミアプレミオ」(左上) 7大アレルゲンを表示する「セブンティーンアイス」(左下・右)


月刊『アイ・エム・プレス』2009年10月号の記事