消費者との共同開発から新しいフレーバーが誕生

カルピス(株)

1917年の創業以来、“健康”を企業活動の大きなテーマに、お客さまの“からだの健康”にとどまらず、おいしさによってもたらされる“心の健康”に役立つことを企業理念にしてきたカルピス(株)。同社商品の愛飲者との絆を深める目的で始めたプロジェクトを通して、ユーザーとの共同開発による新商品が誕生した。国内の清涼飲料業界では初の試みとなる、そのプロセスを紹介する。

SNSユーザーとの共同開発

 2007年に創業90周年を迎えたのを機に、新・企業スローガン「カラダにピース CALPIS」を掲げるカルピス(株)。1917年(大正6年)の創業以来、“健康”を企業活動の大きなテーマに、“からだの健康”だけではなく、おいしさによってもたらされる笑顔が象徴するような“心の健康”も含め、「健康価値創造企業」を目指している。
 飲料業界では“老舗”である同社が、最も大切に考えているのが、消費者との“絆”である。乳酸菌飲料「カルピス」という同社商品に親しんでいる愛飲者に商品開発のプロセスに参加してもらうことで喜びをともに味わい、絆を深められたらと、同社の飲料事業部スタッフが消費者参加型の商品開発を発案。2008年5月7日~8月31日までの4カ月間にわたり、(株)ミクシィが運営するソーシャル・ネットワーキングサービス(SNS)『mixi』に公認コミュニティを開設し、実際の飲料開発のプロセスに則して「フルーツカルピス®開発プロジェクト」を展開した。具体的には、「フルーツカルピス」の新しいフレーバーやキャッチフレーズ、パッケージデザインのアイデアをコミュニティのトピックに自由に書き込んでもらい、アイデアが出揃ったところで、コミュニティのメンバーに投票してもらうかたち。国内最大手のSNSで、清涼飲料では初めて消費者と共同開発した新製品を発売することで、乳性果汁飲料の定番となっている同社の「フルーツカルピス」のブランド強化を図る狙いもあった。
 この「フルーツカルピス」は、「カルピス」とフルーツの組み合わせが織り成す独自のおいしさが楽しめる乳性果汁飲料シリーズとして、幅広い層の生活者から支持されている商品で、プロジェクト開設当初のラインナップは、2月に発売した“桃”、5月に発売した“ゴールデンパイン”の2アイテム。2008年1~9月の販売数量は前年比8割増と好調に推移している。
 プロジェクトの告知を同社Webサイトや『mixi』サイト上でのバナー広告、同社商品のパッケージ上などで行ってきた結果、フレーバーについては700件、キャッチフレーズについても160件を超えるアイデアが寄せられ、その後に行われたメンバーの投票や、後述する限定試飲会での意見をもとに新たなラインナップを開発。この11月17日から全国販売を行っている。価格は500ミリリットル入りペットボトルが147円、1.5リットル入りペットボトルが347円(ともに税込)。

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「mixi」公認コミュニティ「フルーツカルピス 開発プロジェクト」

ありそうでなかったミックスフルーツ&カルピス

 700件を超えるアイデアは、プロジェクト開始から3週間ほどで集まり、『mixi』ユーザーからの投票を経て、フレーバーは「ミックスフルーツ」に決定。フレーバーが決まった後は、『mixi』ユーザーとその家族や友人を招いた試作品の限定試飲会を開催し、試飲した感想や要望を反映させながら、最終製品を完成させていった。
 今回のプロジェクトで作り上げられた「『フルーツカルピス』ミックスフルーツ&カルピス」は、「カルピス」にりんご、洋梨、みかん、バナナといった4つのフルーツテイストを溶け込ませた“華やかな”味わい。『mixi』ユーザーからの意見をもとに洋梨の風味をアクセントにすることで、「フルーツカルピス」ならではの新しい「ミックスフルーツ」の味に仕上がっているという。
 パッケージデザインについては、同社が制作した3案の中から、『mixi』ユーザーの投票によりベースとなる案を決定し、『mixi』ユーザーとの共同企画であることを伝えるロゴと、キャッチコピーである「みんながとけあう」を記載。キャッチフレーズは、同じくmixiメンバーから寄せられた160件に上るアイデアの中から、メンバーの投票で「みんなの大好き実ったよ!」に決定。以来、店頭POPなどで使用している。
 共同開発の進捗については、同社のオフィシャルサイト内の「フルーツカルピス」ブランドサイトにおいて、「フルーツカルピス開発新聞」を配信し、ユーザーに報告をすることで、ユーザーとの一体感を醸成してきた。
 コアとなるターゲットは10~40代を想定しているが、ペットボトルという特性上、オール・ターゲットとして取り扱い、コンビニエンスストアをはじめ、量販店で販売している。

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ユーザーのアイデアから生まれた新フレーバー「ミックスフルーツ&カルピス」

ユーザーのアイデアから生まれた新フレーバー

 従来品との相違点として、ユーザーと一緒に商品を作り上げたことがあるが、「フルーツカルピス」のブランドから「ミックスフルーツ」というフレーバーが今回、初めて発売された点も大きいという。
 今回発売された新商品のプロモーション展開としては、Webサイト上での告知をはじめ、新商品の発売前に情報誌などで特集記事を組んだり、5月、8月に発売された「フルーツカルピス」のペットボトルのパッケージ上で告知を行ってきた。
 販売目標は50万ケース(1ケース24本)。発売間もないこともあり、販売実績は公表していないが、同商品の取り扱いについては、『mixi』ユーザーと一緒に作り上げたことが、販売サイドからの高い評価につながった。
 同社では、『mixi』という媒体が消費者との直接的なコミュニケーションを図る上で、非常に魅力的な媒体であると認識している。
 課題としては、700件を超えるアイデアが集まったことで、その絞り込みに時間がかかったことがあるという。実際、最終的に絞られた5つのフレーバー(ミックスフルーツ、はちみつレモン、りんご、オレンジ、梨)をユーザーからの投票によりひとつに絞る最終の段階では、どのフレーバーに決まるのか分からないため、5つのテイストの開発を同時に進めるなど苦労したという。しかし、今回、採用となった「ミックスフルーツ」以外の4つのテイスト(はちみつレモン、りんご、オレンジ、梨)においても、『mixi』ユーザーから「すりおろしのりんごにハチミツを加えたら」などといったユニークなアイデアが多数寄せられた。同社では今後も、新しい価値を創造し続ける企業として、消費者の期待に応えていきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2009年1月号の記事