伝統的な紹介制度に加えてCGMを媒体とする口コミの活性化にも取り組む

(株)ファンケル

1980年の創業以来、「“不”のつく言葉を世の中からなくすこと」をテーマに事業を展開してきた(株)ファンケル。敏感肌に悩む女性の間での口コミや紹介によって認知度を高めてきた同社では、創業間もない時期から口コミや紹介をフォローする仕組みづくりに取り組み、高い成果を上げてきた。さらに最近では、外部の化粧品サイトなどで展開される同社が直接関与しない口コミにも注目。活性化を図るべく、さまざまな取り組みを行っている。

創業間もない時期から口コミや紹介をフォローする仕組みづくりに着手

 1980年の創業以来、“不安”“不便”“不満”“不快”など、「“不”のつく言葉を世の中からなくすこと」をテーマに事業を展開してきた(株)ファンケル。無添加化粧品からスタートした取扱商品は、栄養補助食品、発芽米、青汁など、着々とその分野を広げてきた。最近でも、例えば2008年6月に主力商品のひとつである「ファンケル洗顔パウダー」のリニューアルを行うなど、独自の研究に基づいた商品の改良や新商品の開発に積極的に取り組んでおり、その商品ラインナップは日々充実化が進んでいる。
 通信販売からスタートした販売チャネルについても、1995年から直営店舗の展開を本格的にスタートし、2006年には通信販売を主体とする企業で初めて全都道府県への出店を達成。また、Webサイトについても積極的な活用を図るなど、マルチチャネル化を推進している。
 敏感肌に困っている女性の“不満”を解消する無添加化粧品の通信販売からスタートした同社では、元々ターゲットとなる敏感肌に悩む女性の間での口コミや紹介によって認知度を高めてきたこともあり、口コミや紹介をフォローする仕組みの構築には早い段階から取り組んでおり、1980年代の半ばにはすでに紹介制度をスタートさせていた。TVCMなどマスメディアを利用して新規顧客を獲得する手法は、同社にとってはいわば後発の手法であり、口コミや紹介こそが同社にとって新規顧客獲得の伝統的な手法とも言えるのだ。特に近年では、母親から娘など身近な関係での口コミによって、世代を超えて新たな顧客が生まれるケースも増加しており、口コミや紹介が同社のビジネスに与える影響は増しこそすれ、減ることはない状況が続いている。

安定的に優良顧客を獲得する紹介制度

 現在、同社が化粧品の通信販売において展開している紹介制度は、既存顧客が電話やハガキで無料の「ご紹介セット」を申し込むと被紹介者に届けられるというもの。その後、被紹介者が通信販売で化粧品を購入すると、10%の割引価格が適用され、紹介者にも「10%OFFハガキ」が届けられる。さらに紹介者・被紹介者の双方に「選べるプレゼント申込ハガキ」が届けられ、化粧品・健康食品3品の中から希望の1品がプレゼントされる仕組みだ。
 一方、健康食品の通信販売では、被紹介者が初回注文において、「紹介による注文である旨」と、キーワードとなる紹介者の「登録電話番号」と「お気に入り商品」を伝えると、10%割引きで購入できるかたちが採用されている。紹介者に「10%OFFハガキ」が届けられ、さらに紹介者・被紹介者の双方に「選べるプレゼント申込ハガキ」が届けられる点については化粧品の通信販売の場合と同様だ。なお、制度の概要については、化粧品、健康食品とも、主に同社が発行する情報誌上で訴求している。
 また、Web上で展開している「ファンケル情報コミュニティ」では、2008年10月から「クチコミ投票キャンペーン」を展開している。これは、化粧品、健康食品などの対象商品について、お気に入り商品の詳細ページから“クチコミ投票”を行い、ニックネームやコメントを入力すると、「商品のクチコミをみる」ページに掲載され、同時に自動的に抽選の対象になるというもの。その中から毎月抽選で10名に3,000円相当の“お楽しみ袋”がプレゼントされる仕組みとなっている。
 なお、通信販売における新規顧客獲得施策の中で、紹介制度は安定的な成果を上げる施策のひとつとなっており、しかも紹介制度による顧客は全体傾向と比較して継続率が高い。いわば“優良顧客が優良顧客を生む”という好循環が実現されているというわけだ。

ファンケル

「クチコミ投票キャンペーン」が紹介された「ファンケル情報コミュニティ」

発信情報のキーワード化により同社にとって望ましい内容での口コミを促進

 以上のように同社では、紹介制度が有効に機能しているが、同社では、特に化粧品の分野での口コミ効果は、このような目に見えるかたちでの紹介によるものにとどまらないと認識している。インターネットの普及により、口コミの在り方が多様化しており、例えば、外部の口コミサイトなどでの評判が、売れ行きに直結することも少なくないからだ。実際に同社の顧客調査でも、化粧品購入の意志決定過程において、70%前後は口コミが影響しており、しかも最重要要因となっているケースが多いとのことであり、同社はこのような同社が直接関与しない口コミについても活性化を図るべく、さまざまな取り組みを行っている。
 現在、取り組みの中心となっているのは、情報誌やWebサイト、メールマガジンなどの各種媒体において、特にインターネット上での口コミにつながりやすいようなかたちでの情報提供を行うことだ。具体的には、従来、文章や数値データなどで提供していた情報を、なるべく簡素化してキーワード化。特に訴求したいキーワードについては繰り返し表現することで、外部の口コミサイトやブログなどで発信される情報に数多く盛り込んでもらうことを狙っている。
 メーカー色が出てしまってはCGMならではの客観性を損なうことにもなってしまうという判断から、あくまでも情報提供というレベルにとどめており、発信者に対して何らかのオファーを提供することで発信内容を操作するようなことは行っていないが、現状ではある程度、同社の意図する方向での口コミが行われているようだ。また、Web上で情報が増幅していく効果も表れており、今後もこのような口コミの活性施策を継続していく方針だ。

紹介頻度の高い顧客はロイヤルティやライフ・タイム・バリューも高い

 紹介制度を通じて、新たな顧客を紹介してくれる顧客のプロフィールについては、年齢や居住エリアなどデモグラフィックな部分での特徴はさほど見受けられないとのことであり、同社では、むしろ性格や考え方などの影響が大きいと考えている。なお、一定期間に区切ってみると、全体と比較して同社商品を使い始めてから間もない顧客が多い傾向が見受けられるが、長期的な視点で考えると、同社商品に対するロイヤルティの高い顧客、ライフ・タイム・バリュー(LTV:顧客生涯価値)の高い顧客など、同社が優良顧客と認識している層と紹介頻度の高い顧客は一致する傾向が強く、その相関性は非常に高いとのことだ。
 一方、外部の化粧品サイトやブログなどのCGMで口コミを発信する顧客の特性については、現状では十分な把握はできていない。特に通信販売においては、購買データはほぼ100%を把握できているが、口コミの発信状況などの購買以外の情報については、定期的な顧客調査などによって把握を試みているものの、全体動向の確認にとどまっており、個々人の情報として購買データと紐付けすることは難しいからだ。その中で今後はさまざまなセグメンテーションによって、顧客カテゴリーごとの発信力の強弱を明らかにすることなどにより、それぞれのカテゴリーに適した口コミ活性化施策などを検討していく意向である。


月刊『アイ・エム・プレス』2008年12月号の記事