ユーザーのさまざまなニーズに合わせた携帯電話の豊富なラインアップに定評があり、2007年12月に発売されたPANTONEケータイ812SHでは、シンプルなデザインで24色のカラーバリエーションを展開。“携帯電話を色で選ぶ”という斬新なアプローチを展開したソフトバンクモバイル(株)(以下、ソフトバンク)。料金面では、ソフトバンクユーザー同士の通話であれば、無料でコミュニケーションできる画期的な「ホワイトプラン」をフィーチャーし、大きな話題を呼んだ。次々と新機軸に挑戦する同社のDM戦略を紹介する。
DMはあくまでもプロモーション・ツールのひとつ
ソフトバンクの「ホワイトプラン」は、ソフトバンクの携帯電話同士なら、月額基本使用料が980円(税込み)で、1時から21時まで国内通話がかけ放題になるというもの。業界の予想をはるかに上回る安い通話料金設定を前面に打ち出した大々的な広告展開は、今も記憶に新しい。ソフトバンクでは2007年4月から“ホワイトプランのワ”を広げるキャンペーンを実施。その一環として、紙DMとeメールによるDMを活用している。携帯電話は、実用性に加えて趣味・嗜好が反映されやすい商品である。また料金プランもさまざまだ。ソフトバンクでは、DMはあくまでも顧客に向けたプロモーション・ツールのひとつであるととらえ、テレビCMや新聞広告などのマス媒体と併行して活用している。つまり、DM単体で考えるのではなく、キャンペーン全体としてとらえているのだ。
昨年秋に行われた「“ホワイトプランのワ”ひろげようソフトバンクご紹介キャンペーン」は、他社の携帯電話を使用中の友だちや家族を対象として、ソフトバンクユーザーの友人・知人の紹介を通じてホワイトプランに加入すると、新規加入者とソフトバンクの既存ユーザーである紹介者にそれぞれ5,000円分のキャッシュバック引換券がプレゼントされるというもの。新規加入者は、ギフト券の形状のキャッシュバック引換券を紹介者から受け取り、ソフトバンク取扱店に持参すると、登録確認後、双方に郵便為替などが送られてくるという仕組みだ。
キャッシュバックというと、その金額ばかりに目が行きがちだが、他社から移行するにもナンバーポータビリティの手数料が発生するため、その分の負担などを軽減するという思いがこめられた手法といえよう。
その場での値引きなどのありきたりの割り引きサービスではなく、店頭に足を運んだ後、キャッシュバックされるのをしばらく待たなくてはならないというのが、工夫された点であろうか。その場での値引きでは、実はそれほど印象に残らないが、時間をおいて改めてキャッシュを手にすると、“お得感”が増幅することを視野に入れているといえよう。
孫正義社長は、著書で「(インターネットの)ブロードバンド化に掛かった費用は予想以上に高かった」と述べている。その価格破壊を目指す企業姿勢のひとつとして、携帯電話でもこのようなかたちでのユーザーへの還元方法が編み出されたのである。
eDMか紙DMか
モバイル・キャリアのソフトバンクでは、DMについてもeメールによるDMが主流かと思われたが、eDMか紙DMかは、ケースバイケースで選択しているという。すべてeメールにした方がコストは掛からないが、モバイルサービスとして迷惑メール対策を講じる側である以上、顧客の迷惑になりかねないeメールには細心の注意が必要。そこで利用者の年代や嗜好を鑑みて使い分けているのが実情である。
情報量が多い場合は、紙DMの方が見やすいと考える顧客が多いが、あくまでもeメールの方がよいという場合には、eメールからサイトに誘導して詳細情報を提供するという方法もある。こうしてeメールと携帯サイトのクロスメディアを図ることで、提供できる情報量の落差を埋めることができるわけだ。
“顧客にとってどちらがよいかというのは、当たり前のことだが常に顧客の立場で考えることが大切だ”というのがソフトバンクのポリシーである。同社では、顧客にとって最適な媒体について常にテスト・マーケティングを重ねてきている。
昨年10月から行われた「“ホワイトプランのワ”ひろげようソフトバンクご紹介キャンペーン」のDM。左から、封筒、キャッシュバック引換券、レター、キャンペーン内容を記したブローシャー(リーフレット)
紙DMは大きさと重量に配慮
同社における紙DMは主に封書で、レター、ブローシャー(パンフレット)、フライヤーの3点が基本。一般に紙DMを制作する際の留意点としては、顧客リストの抽出、封入物のプランニング、そしてクリエイティブ(具体的な制作作業)があるが、中でも紙DMの制作に当たってはサイズと重量を考慮しなければならない。紙のサイズというのは、その時々のデザインに左右されてしかるべきである。大きなサイズでアピールするのが効果的なデザインもあれば、同じ大きさでも折り畳んだ形に意味を持たせる場合もあるだろう。
今回のDMはキャッシュバック引換券に合わせた細身の定型サイズ(95×215mm)に仕上げられており、リボンをあしらったデザインの外封筒は、洗練された印象を与えている。
コスト面では、重量を定型郵便物の範囲内に収めることにかなり注力したという。発信数が多いだけにコストがかからないよう工夫したわけだが、これに伴いDMが陳腐なものにならないように、体裁から紙の質に至るまで、考えられるところはすべて微に入り細に入り、相当の工夫を凝らしている。
優良顧客への紙DM
昨年秋に行われたキャンペーンDMのレター中央には、3つの円が連なり中央にカタカナの「ワ」の文字が入ったキャンペーン・ロゴが記されている。“ホワイトプランの輪”“無料通話の輪”という意味であろうが、既存のユーザーを起点にソフトバンク利用者の「輪」を広げるとともに、そうして広がった輪の構成員がお互いに「和」を保ってほしいとの同社の願いが込められているかのようである。
レターの内容とキャッシュバック引換券のデザインで苦心したのは、“お金の生々しさ”をなるべく消そうとすることだったそうだが、前述の通りキャッシュの受け取りまでにタイムラグを設けることで、ありきたりの割引券ではなく、“ちょっとした贈り物”に仕上げることに成功した。その根底にあるのは、顧客の立場から欲しいものを考えるという“孫イズム”だ。適正な価格で付加価値の高いサービスを提供するその企業姿勢が、ユニークなDMを生み出したといえよう。
同社において紙DMは、一定の条件をクリアした優良顧客が対象となっており、友人や家族の入会促進をあと一歩後押しするツール。一方でeDMは、それを補完するツールとして位置付けられている。
なお、今回フィーチャーした「“ホワイトプランのワ”ひろげようソフトバンクご紹介キャンペーン」の紙DMは、先頃発表された「第22回全日本DM大賞」(主催・郵便事業(株))にて見事、金賞を受賞した。全日本DM大賞は、DMの企画や表現技術の向上、プロモーションメディアとして担う役割や効果を紹介し、DMがマーケティングの実践に有用なメディアとして広く認知され、多くの人々に親しまれる存在となることを目的としている。DMについて、ソフトバンクはキャンペーンを構成する一要素にすぎないと位置付けるが、その価値が認められたという点で、高く評価されてよいだろう。